第四十二話 勇者様の想い
勇者様からの便りをきっかけに、ミズハさんはこちらの世界での勇者様の話をしてくれた。
幼馴染で仲が良かった勇者様とミズハさん。
中学に入って疎遠になったものの、生徒会という活動の中で再び絆を深め合うふたり。
でも、生徒会主催の学園祭が大失敗して責任を問われた勇者様は学校に来なくなり、ミズハさんの来訪にも応じず家に閉じこもるようになる。
そして何故か私たちの世界『魔王様のゲーム』をプレイしようと考えた勇者様は、先にプレイしていたお兄さんの莫大な遺産を受け継いだのだけれど……。
「えーと、いろいろと意味がわかりましぇん」
私は素直に、ありのままの感想を伝えた。
勇者様のお兄さんが英雄ブリューナク・ノブナガだったことも驚きだったし、勇者様がトンデモナイ大金をギルドに支払って、私をお供にしていたのも衝撃的だった。
NPC愛好者という言葉は確かに失礼だなぁと思うけど、そんなことはどうでもよくなるぐらい、わからないことだらけだった。
「みんなもハヅキ君の行動は疑問だらけだったよ。もしかしたらキィちゃんはスゴイ能力を持っているんじゃないかって憶測も流れたけれど、調べたら単なる普通のドジメイドだったからね」
「うわん、ドジメイドってヒドイ」
「ごめんごめん。でも、館付きのメイド時代にインテリアの壷を五つも落として割っちゃってるよね?」
「うっ!?」
ド、ドウシテソレヲ知ッテマスカ?
「まぁ、そんなわけで調べれば調べるほど、キィちゃんにこれといった能力もないのに、どうしてハヅキ君がお供にしたのか誰も分からなかった」
調べれば調べるほどって……私の知らないところでどんな調査が行われたんだろう? 想像するだけで怖い話だった。
「で、多くの人が失望したんだ。世界を救おうと勇敢に戦ったブリューナク・ノブナガの遺産を受け継いだ人物が、その遺産を無駄としか思えないもの、って、ああ、ごめんね、私は別にキィちゃんが無駄とは思ってないけど、世界を救うとかそういう観点で世間一般的に見たらね?」
「うう、えーえー、どうせ私なんてドジでノロマな駄メイドですよぅ」
「いじけないでってば。と、とにかく、誰もハヅキ君がキィちゃんにお金を注ぎこんだ理由が分からなかった。でも、私はなんとなく察しがついたんだ……」
「え? あ、あの、そ、それは私も知りたいですっ!」
勇者様がどうしてそんな大金を支払って私を選んだのか? 話を聞けば聞くほど疑問は大きくなっていった。その答えを推測にしても出すことができるなんて、さすがはミズハさんだ。
「まずね、ハヅキ君は決して現実逃避するためだけに『魔王様のゲーム』をプレイしたんじゃないと思うの」
「現実逃避だけじゃない……あ、そうかっ、魔王様に懸けられた賞金目当てで」
「ううん、多分それも違うよ」
あれ? 絶対それだと思ったのに。
「ハヅキ君はね、何かでお兄さんを越えたかったんだと思うの。生徒会で、あんな連中が出してきた無茶な学園祭の企画をしぶとく何度も交渉したのだって、それが実現出来ればノブナガさんの実績を越えられるって強い想いがあったからだよ、きっと」
なるほど。
残念ながら生徒会は失敗に終わってしまったけれど、それでも何かでお兄さんを越えられるものを求めた結果、『魔王様のゲーム』だったのか。
確かに英雄ブリューナク・ノブナガでも倒せなかった魔王様をやっつけることが出来れば、お兄さんへの劣等感は払拭できるに違いない。でも、
「だけど、それならブリューナク・ノブナガの遺産を、勇者様があっさり引き継いだのっておかしくありません? あのプライドの高い勇者様ですもん。ましてや自分が越えたいって思う人の力を借りるってのはありえないような……」
「ふふ、そこは、さすがはノブナガさんって言うか、ハヅキ君のお兄さんっていうか、ってところでね」
ミズハさんが本当におかしそうに微笑んだ。
「ハヅキ君の申し出を受けて、咄嗟にその真意を理解したらしいんだよ。弟は兄を越えたがっている、って。それが成し遂げられないと、先に進めないんだって。だから『俺はもう引退したけど、魔王を倒したい気持ちは今も変わらない。俺の想いを、努力を引き継いで、お前が魔王を倒してくれ』とか上手いこと言って、ハヅキ君に遺産の引継ぎをせたらしいよ?」
「ああ、なるほどぉ~」
そんなふうにお願いされたら、あのお調子者の勇者様だ。「よし、任せとけ!」とか言っちゃって、深く考えずに遺産を受け継いだに違いない。
もちろんノブナガさんの言葉にウソはないんだろうけど、その奥に勇者様と接触したいミズハさんへの配慮もあったとは、普通は思いつかないはずだ。
「だけど、遺産がハヅキ君の想像以上に莫大なもので、下手したらそれだけで最高級の装備を揃えちゃうぐらいあったんだよね。さすがにそれはハヅキ君のプライドが許さなかったんだと思う。おまけに遺産目当ての冒険者たちが次々と現われるのも当惑したと思うよ。だってハヅキ君は」
ミズハさんの顔が急に強張ったと思うと
「きっと極度な人間不信に陥っていたはずだもん」
重い言葉を吐き出して、はぁと脱力した。
「しょうがないよね。友だちと信じていた人に酷い裏切りをされて、おまけにあんな噂まで立てられて。私と会ってくれないのだって、多分私があの噂を信じていると思っているからだろうし。合わす顔がなかったんだと思うよ」
だからそんな意味でも、最初から勇者様は出来るだけひとりで『魔王様のゲーム』をクリアしようと考えていたはずだよとミズハさん。
でも、回復役や援護など、複数人で挑まないと戦闘が苦しいのは間違いないし、なによりお金を持っている以上、これからも他の冒険者にしつこく絡まれる。
絶対裏切らない仲間と、不必要なお金の処分……そのふたつを同時に解消できるのが
「わたしだった、ってことですかーっ!?」
つい叫んじゃった。
「うん。でも、誰でも良かったってわけじゃないよ? 性格とか考慮して、キィちゃんとなら楽しく冒険できると思って選んだと思う」
「楽しくっていうか、わたし、散々勇者様に酷いことされましたけど?」
「あはは、ハヅキ君、素直じゃないからなぁ。上手く愛情表現できないんだよ」
愛情表現もなにも、私、叩かれたり、トラップ解除をさせられたり、それにヘンテコな育成までさせられたんですけどっ。
「でも、一見ヘンテコに見えるけど、よく考えたら生存確率が高まる鍛え方をされたと思わない?」
「そ、そうかなぁ? 生存確率でいうならVIT(体力)とか防御力とか上げてくれたほうがよくありませんか?」
「VITをいくら上げても防御力がぺらぺらだったら意味ないし、その防御力も対武器と対魔法のふたつがあるでしょ? どちらもしっかり鍛えるには相当なレベルと装備が必要だよ。それよりもLUK(幸運)で全体の能力補正を高めて、AGI(敏捷性)でさらに回避能力を強化する方がぐっと効果的だと思うなぁ」
そ、そうなのか? うーん、今までずっと勇者様の気まぐれで育てられたと思っていたけれど、ミズハさんに解説されると結構勇者様って考えてたのかなぁって思えてきた。
「それにVITを上げると、どうしても体重増えちゃうし。そんなところもハヅキ君は考慮してくれていたんじゃないかなぁ」
「うそん? 私の体重にまで!?」
ごめん、さすがにそれは信じられない。
「なにより一番命の危険がある戦闘に参加させなかったでしょ? これだけでもハヅキ君がどれだけキィちゃんを大切にしていたか分かると思うよ」
「で、でも! 怪しげな宝箱を開けたりとか、トラップの解除とかは私の仕事でしたよ?」
こいつらだって下手したら爆発したり、毒ガスが噴射されたりして戦闘並みに危険じゃないかっ。
「うーん、それはきっとキィちゃんの性格のせいじゃないかな?」
なんですと?
「だって、ほら、キィちゃんって精神的なバイタリティはすごいじゃない。マッパーだってとても大切な仕事なのに、それだけじゃガマンできない、私も戦闘に参加したいとか言ってさ。だから少しでもキィちゃんに仕事をさせてあげようと思ったハヅキ君の、苦肉の策がトラップ解除とかだったんじゃない……かな?」
ミズハさんも苦しいと思ったのか、最後は苦笑気味だった。
うん、苦しい。とても苦しい、トンデモ理論展開ですよ、ミズハさん。
私はここぞとばかりに、私がこれまで勇者様から受けてきた虐待の数々をまくしたてた。
……だと言うのに。
「って、ちょっと、ミズハさん。なんでそんな嬉しそうに私の話を聞いているんですかっ!?」
そうなんだ、私の聞くも涙語るも涙の苦労話のはずなのに、何故かミズハさんはニコニコしながら私の話に耳を傾けていた。
「え? ああ、えーと、うん、そのね」
しかも珍しく口どもるしっ!
「なに、もしかしてミズハさんも私が困るのを見て喜ぶ『どえす』だったりするの?」
「ち、違うよ! 私はどちらかと言えば『えむ』の方だもん!」
「え?」
「あ、あははは、いや、そうじゃなくてね。キィちゃんの話を聞いていて、そう言えばって昔のことを思い出していたの」
子供の頃、みんなのリーダーである勇者様は、何故かミズハさんにだけちょっと意地悪だった。一度さすがにガマンが出来なくなって家に泣いて帰ったら、ミズハさんのお母さんはとてもびっくりしたそうだ。でも、事情を聞いたお母さんはニッコリ笑って「あらあら、ハヅキ君はほんとにミズキのことが大好きなのね」と言ってきたらしい。
「『男の子って本当に自分が大好きな女の子には、ちょっと意地悪になるものなのよ』ってお母さんが言ったの。それを聞いて私は『ああ、そうだったんだぁ』って、自分が嫌われていなかったことにホッとして、なんだかこそばゆいけどほわわーって温かい気持ちになっちゃって。それからハヅキ君の意地悪が逆に嬉しくなったの」
だから実のところ、ミズハさんが主張する「勇者様は私を大切に思っている」説の根源は、勇者様が楽しそうに私の頭を叩いてツッコミを入れる姿にあるのだそうだ。
無遠慮に頭を叩かれる私としては、実に迷惑極まりない愛情表現だと思うのだけれど、
「正直なところを言っちゃうと、ハヅキ君にそんなふうにしてもらえるキィちゃんが羨ましかったもん」
と『どえむ』なミズハさんは、理解しがたい感情を吐露するのだった。
「とにかく、ハヅキ君はキィちゃんとの冒険に大金を費やしたけど、私はそれだけの価値はあったと思う。だってハヅキ君が昔の明るいハヅキ君に戻れたんだもん」
「は、はぁ」
それで頭をぽこすか叩かれる私はたまったもんじゃないんですけどねっ。
「だけど、同時にハヅキ君の人間不信は解消されるどころか、もっと深刻な状況になっていったのかもしれない。冒険を始めた頃は、ハヅキ君とパーティを組んでくれる人もいたでしょ?」
「うん。すぐに離れて行っちゃいましたけど」
「だよねぇ。でも、あの人たちって、自分にはほとんどメリットがない低レベル冒険者ともパーティを組んでくれる良心的な人たちなんだよ。キィちゃんを手に入れた代わりにほとんど文無しになったハヅキ君とでも、ね」
当時誘ってきてくれた人たちを思い出す。
みんな最初はとても親切そうな人たちばかりだった。
「人間不信に加えて、ノブナガさんを越える為に出来るだけひとりで冒険しようと考えていたはずのハヅキ君でも、その人柄の良さについ甘えてしまったのは分かるよ。だけど、さすがの彼らでも低レベルのくせにリーダーシップを取ろうとするハヅキ君の性格やら、他者の苦労による成果を横取りするようなパーソナルスキルはキツすぎた」
……はい、だからすぐに喧嘩別れになりました。
「上手くいかない人間関係に加えて、キィちゃんというお気に入りの存在。ハヅキ君が『キィさえいれば、他は誰もいらない』と思って、キィちゃんとの楽しい日々に没頭するのも仕方ないんじゃないかな。……それこそ当初の目的だった魔王を倒すってことも諦めるほどに」
「え?」
「だってキィちゃん、魔王さんと出会うまで、ハヅキ君が本気で魔王を倒そうって思っていると感じたことってある?」
言われてみれば「俺こそ最強!」とか言うくせに、魔王様を倒すという最終目的には一切向かっていなかったように思う。
それどころかカジノで散財したり、それを私のせいにしたり、ポカポカ叩いてきたり、ポカポカ叩いてきたり、叩いてきたり……
「私を叩くのが目的かっ!?」
お兄さんを越えるための魔王討伐も忘れ、私をイジるのに夢中なんて勇者様マジ情けない!
「尤も私はハヅキ君の気持ちも分かるよ。世界の終焉が近付くのに、魔王に勝てる確率はほぼゼロなんだもん。だったら好きなことをして最後を迎えたいって気持ちは、ね」
ちなみにミズハさんは最後の魔王討伐メンバーを募りつつも、勝算はまずないだろうなと思っていたらしい。でも、それでも最後にみんなで立ち向かったという想い出は残る。その想い出作りがミズハさんのやりたかったことだそうだ。
「でも、運命って不思議だね。何故かハヅキ君がレベル99になっていて、しかも魔王さんと知り合いで戦い始めるんだもん。アレはびっくりした」
アレはいったいどうして、どういう経緯があったのと事情を求めるミズハさんに、私は魔王様との出会いや勇者様の復活・修行などを話した。
「おおう。なるほどなるほど。それはまたドラマチックだねぇ」
「ええ、まさかあんな形で魔王様と知り合いになるとは……」
ダンジョン入ったら魔王様が門番をしていました、なんて予想できるはずがないもんなぁ。
「あ、違う違う。ドラマチックなのはそこじゃなくて、ハヅキ君のほう」
「勇者様? 勇者様のはドラマチックというより、完全18禁ホラーですけど」
あ、口にしたらあの復活シーンを思い出しちゃった。うう、説明でもそこだけは出来るだけ簡略したのに。うぷ、気持ち悪い。
「ううん、だから違うよ。よく考えてみて、キィちゃん。ハヅキ君は一度死んじゃってもう戻ってくるつもりはなかったって言ってたんでしょ? でも、ハヅキ君は戻ってきた。全ては魔王さんに取り上げられたのを全て取り戻すために」
ああー、確かにそんなこと言ってたなぁ。でも、それがなにか?
「それってつまり我慢が出来なかったんだよ。自分の大切なものを取り上げられて、独占されているのが!」
「……」
いい加減私も理解した。ミズハさんが何を言おうとしているのか、勇者様が何で魔王様を倒そうと必死になっていたのか、を。
うわん、なんか急に体が熱くなってきたっ。
てか、なんで顔を赤らめるんだぁ、わたしぃぃぃぃい。
「剣も取り戻した。ステイタスカードだって返してもらった。あと取り戻してないのはひとつだけでしょ!?」
「あわ、あわわわわ、ミズハさん、それ以上は言わないで」
「ハヅキ君はキィちゃんを取り戻す為に魔王様と戦ったんだよ! ……って実はそれだけじゃないけど」
「あああああああ、ミズハさんそれを言っちゃ……って、へ?」
あれ?
いつものパターンならここで私の頭からぷしゅーって湯気が立つところじゃないの?
「これでキィちゃんを取り戻す為だけに戦ったんだったら格好良かったんだけど、私たちのハヅキ君は、ほら、色々と複雑だから」
「……え?」
ちょ、ちょっと待って、ミズハさん。「私たちのハヅキ君」ってフレーズは一体なんですか、それは?
「どうしてもキィちゃんを取り戻したいのなら、ハヅキ君は一人で戦うんじゃなくて、みんなに協力を求めなくちゃいけなかった。」
でも、私の狼狽を知ってか知らずか、ミズハさんは無視して話を続ける。
「だけど人間不信で出来なかった。おまけに自分はキィちゃんだけいれば他の奴らなんていらないって孤高を気取っていたから、今さらお願いなんて出来るはずもない。それにハヅキ君はひとりで魔王を倒すことが、ノブナガさんを越える条件だと思っているからね」
うう、言いたいことはあったけど、さすがに言える流れじゃなかった。
「でも、それは間違っているんだ。だから私は間違いを教えてあげたかったんだけど、ハヅキ君の妙なプライドを覆すのは並大抵のことじゃできない。それどころか私を瑞葉なんじゃないかと疑って、最後まで避けられてたもんねぇ」
うん、しかもミズハさんのアプローチ、ちょっとえっちぃんだもん。ヘタレな勇者様には厳しいです、はい。
「それでも最終的にはアカ禁喰らってまで訴えた私を信頼してくれた。嬉しかった。これまでどんなにノックしても開けてくれなかった扉を、ついに開いてくれた、と思った。……でも、外で待っていたのは残酷な景色だった」
一騎打ちモードを解除した途端、瀕死の勇者様のことなんかほったらかしで魔王様に飛び掛っていった冒険者たちの姿を思い出す。それまでの勇者様の態度を考えたら自業自得だけれど、脳裏に蘇ったあまりに醜い光景に思わず顔を顰めた。
「ハヅキ君がどう思ったか。私には分からない。だからね、私、今とても怖いんだ」
私が覗き込む窓に、ミズハさんがそっと指先を触れると、文字を表示する窓が現われた。
一番上に勇者様の署名がある。
先ほど送られてきた勇者様からの便りだ。
そこにはただ一言、こう記されてあった。
「みんなに話したいことがある。昼休みに学校に行くので教室にいてほしい」
「ハヅキ君が学校に来てくれるのは嬉しいし、なによりこれはチャンスなの。全てを一気に逆転させることができるかもしれない」
見ればミズハさんの体が少し震えていた。
「だけど、ハヅキ君の本当の気持ちが見えないのに、私の判断で勝手なことしちゃっていいのかなって不安なの。もしかしたら全て台無しにしちゃうかもしれない。取り返しのつかないことになっちゃうかもしれない。そうなったらどうしようって思うと、とても怖いの」
嫌な想像を打ち消そうと、ミズハさんは頭を激しく左右に振った。
多分、ミズハさんは学校に来る勇者様に何かをしようと思っているのだろう。それが何なのかは分からない。でも、ハイリスクハイリターンなのは分かった。
「あの、ミズハさん……」
腰あたりで両手で握られた鉄板の中から、私はミズハさんを見上げる。
「私、思うんです。勇者様は世界から消えていくミズハさんを信じてくれました。今度はミズハさんが、学校にやってくる勇者様を信じてあげる番なんじゃないかなって」
「私が、信じる番?」
「はい。と言っても、ミズハさんはずっと勇者様が更生できるって信じていてくれていたと思いますよ。ええ、あんなワガママで、見栄っ張りで、バカタレな勇者様をよくもまぁ信じてくれたなぁって感心しますけど。だから、最後まで信じきりましょう。私も勇者様が本当のところは何を考えているのかは分からないけれど、きっとミズハさんの気持ちが伝わったんだと信じてますから」
「……」
あうう、ミズハさんが黙りこくってしまった。
ヤバイ、もしかして私、外した? 変なことを言っちゃって、盛大にやらかしちゃった?
……うわん、あんな勇者様を信じろなんてバカなことを主張した自分が信じられないっ!
「……あは」
でも、バカバカお馬鹿と自分で自分の頭をぽかぽか叩こうとした時だった。
ミズハさんが、笑ってくれた。
「すごい! すごいよ、キィちゃん! うん、その通りだねっ! ハヅキ君は私を信じて、自分の信念を曲げて手を伸ばしてくれたんだもん。今度は私がハヅキ君を信じて、その手をしっかり握り締める番なんだ!」
すっきりした笑顔で、ミズハさんはブランコから勢いよく立ち上がる。
「よーし、そうと決まれば早く学校に行かなきゃ! キィちゃん、首にかけたまんまだとすごく揺れちゃうから、何もみえなくなっちゃうけど一度ポケットにしまうね」
ミズハさんの胸ポケットに鉄板がしまわれ、一気に真っ暗になった。やがてリズミカルなわずか振動が世界を揺らし始める。ミズハさんが走り出したんだなって分かった。
「それにしてもっ!」
わずかに乱れた呼吸で、ミズハさんが話しかけてくる。
「やっぱりキィちゃんとは『私たちのハヅキ君』って関係のようだねっ。うーん、これは負けられないなぁ」
……ミズハさん、私、不戦敗でいいです。
読んでくれてありがとうございます。
もともと恋愛要素は少し入れるつもりではいましたが、葉っぱも赤く染まる季節ってこともありまして(?)、今回はちょっとした恋愛回となりました。
って、まぁ、対象である当事者はほったらかしなので、正当な恋愛モノかどうかはよく分かりませんけどねw
それでは次回更新は12月4日水曜日、12:00を予定しております。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




