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魔王様のゲーム  作者: タカテン
第三章 私たちの世界がピンチすぎる
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第四十話 予期せぬ便り

「はぁ」

 もう何度目だろう、溜息をつかずにはいられない。

「す、すごい……」

 これまた今日何回も繰り返した言葉だった。いい加減自分のボキャブラリーの無さが泣けてくる。

「こ、こんなの初めて!」

 おっ、これは初めて使うフレーズ……って、ちょっと。

「ミズハさんっ、まるで私が言ったかのように割り込んでくるの、やめてくださいよぅ」

 しかもなんだかちょっとえっちぃぽい言葉だし。

「あはは。ごめんごめん。だって、キィちゃんがさっきから溜息と『しゅ、しゅごい』しか言ってないんだもん」

「『しゅごい』なんて言ってませんよ!」

「え、言ってたでしょ? 私の特選ホモォ動画を見て」

「うわわわわわわ、こんなところで何を言い出すんですかっー!」

 私はミズハさんの首から吊り下げられた四角くて固い金属の板――それは私たちの世界のステイタスカードにとてもよく似ていたけど、きっと他人の空似ってヤツだろう、うん、間違いない――の中から、懸命に抗議した。


 話は少し前にさかのぼる。

「学校とな?」

 色んな含みを持たせた宣戦布告をかまし、今度こそと意気込む魔王様が、神様に繋がっているはずの真っ黒い窓に手をかけた時のことだ。

 ミズハさんも「そろそろ私も学校に行かなくちゃ」と立ち上がった。

「学校とはなんだ? このままキィの話し相手になってもらおうと思っておったのだが」

「うーん、ごめんね。学校っていうのは私たちの年代なら基本的に通わなくちゃいけないところで」

「『基本的に』でいいのであれば、今日は休めばよかろう?」

 何故か食い下がる魔王様に、ミズハさんは両手を頭に寄せて、人差し指を突き出した。

「それが出来ればどれだけ楽か。うちのおかーさん、怒ったら怖いんだよう」

 言いながら震えるミズハさんの姿に、それはさぞかし恐ろしいんだろうなと私にも伝わってくる。

「あ、いいですよ、私は。ここで大人しく待ってますし。また戻ってきたら話をしてもらえば」

「うーん、ごめんね、キィちゃん。今日は絶対早く帰ってくるから」

 と、ミズハさんは壁に掛けてあった可愛らしい茶色のコートを羽織ると、胸ポケットから細い白い糸みたいなのを取り出して、先端を両耳に突っ込む。

「ん? ちょっと待て、ミズハ。それはなんぞ?」

「え? あ、これ?」

 ミズハさんが胸ポケットから取り出したそれは、縦十五センチ、横五センチの金属板。ミズハさんが表面を触ると淡く発光して

「えっ、それってもしかしてステイうぶぶぶ」

 何故か知らないけれど、突然魔王様から口を押さえられた。

 なにするんだよぅと目で訴えるも、魔王様も「ここにツッコミを入れるのは危険な気がする」とばかりに首を振る。よくは分からないけれど、そう言えば子供の頃に聞いた昔話を何故か思い出した。あれはたしかモノマネの得意なサムソムという強欲な若者が、オリジナルのアポッの真似をして多額の賠償金を請求されるという話だったような……。

「ごほん。キィよ少し黙っておれ。さて、ミズハよ、それはもしやして今我らがいる世界のパソコンに繋がるのではなかろうか?」

「うん、繋が……あ、なるほど! ちょっと待ってて」

 ミズハさんががさごそと鞄の中を漁ると、やはり白い線を取り出して一方を金属板に繋ぐ。そしてもう一方がパソコンに繋がれると

「あ、なんか小さな窓が現われた」

 普通より少し暗い窓が私の横にぽっかりと浮かび上がる。

「キィよ、その窓の中に入ってみるがいい」

「え? こんな小さな中に入るかなぁ?」

 大丈夫だ問題ないと魔王様が言うので、恐る恐る窓の中に足を突っ込む私。

「うっひゃ」

 なんだかよく分からない吸引力で窓の中に吸い込まれたかと思うと、次の瞬間にはドシンと床に落ちていた。

「あいたたた、お尻打ったぁ」

 勇者様曰く、私の数少ない美点のひとつであるお尻をさすりながら、周りを確認する。

 私が出てきたであろう小さな窓と、もうひとつ明るい窓の外にはミズハさん。さらにミズハさんの奥、まるでステイタスカードをずっと大きくしたような金属板に魔王様が写りこんでいた。

「あれ? ってことは?」

「よし、創造神の下僕どもが同じようなものを使っているのを見てもしやと思っておったが、やはりそちらにも移動出来たか。ミズハよ、それならば携帯出来るのであろう?」

「うん、そういう機械だからね」

 ミズハさんがパソコンから金属板と繋いでいた白い線を引き抜くと、私が出てきた小さな穴が消えちゃった。

「どう、キィちゃん、苦しいとかない?」

「あ、はい。全然大丈夫ですよ」

 私の返事にミズハさんが「よかった、切断しておいてなんだけど、空気とか遮断されちゃうのかなとちょっと心配しちゃったよ」と物騒なことを言い出した。

 勘弁してくださいよっ。そんなの死んじゃうじゃん、私っ!

「でも、これでキィちゃんを学校に連れて行けるよ。てか、連れて行っていいんだよね、魔王さん?」

「うむ。キィにはお前たちの世界を存分に見せてやってほしい」

 満足げに頷くと、しゅたっと片手を挙げて真っ黒な窓に手をかける魔王様……って

「ちょ、ちょっと待って、魔王様っ!」

 私は慌てて引き止めた。

「ミズハさん、私をパソコンに戻して。さっきの白い線を繋げたら、また戻れますよね?」

「おおっ、キィちゃんも分かってきたね」

 うん、自分でもびっくりだけど、なんとなくこの世界が分かりつつあった。

 パソコンって機械に、また別の機械を繋ぐことで、私たちは自由にその間を行き来することができるんだ。実に便利、なんだけど、問題は……。

 私は再び現われたパソコンに繋がる窓へと、頭から飛び込む。

 ぽんっとパソコンの世界へと戻った私は、勢い余って一回転。でも、目にはしっかりと獲物を焼き付けていた。一体何なんだと訝しげな魔王様と、椅子と、テーブルと、そしてその上にあるのが私の獲物! よし、この体勢ならできる。今こそ私の新必殺技を見せる時!

「魔王様っ、スコーン食べさせてくださいっ!」

 ずさささっと地面に土下座の形で着地する私。

 華麗なる妙技に、魔王様も「お、おう」と答えるしかなかったのは言うまでもない。


 さて、そんなわけで。

 私は念願の食料を存分にゲットして、ミズハさんの携帯金属板に戻った。

 いつもならそのままポケットに金属板をしまうらしいけど、私に世界が見えるようにとヒモをくくりつけて、首から吊らしてくれる。おかげでミズハさんの胸元あたりで世界をみることができた。歩くと揺れるのが辛いかなと思ったけれど……ゴメン、こっちのミズハさんのぺったんこな胸板は安定感抜群でしたヨ(ミズハさんには決して言えない)。

 かくして私はむしゃむしゃとスコーンを食べながら外界を見物とシャレこんだのだけれど。

 気がつけばスコーンを食べるのも忘れるぐらい、ミズハさんたちの世界に圧倒されていた。

 とにかくスゴイ。何もかもがスゴイ。

 そもそもミズハさんの家そのものが、どこかの大商人の豪邸なんじゃないのって思うレベルの豪壮さだった。なのにいざ外に出てみたら、そんな家ばっかり。おまけに道路はとても広く清潔に整備されているし、車とかいう鉄の馬車がびゅんびゅん行き交う様子には危うく腰を抜かしかけた。あんな重そうな鉄の装甲を背負わされて、それでもあれだけのスピードで走るなんて、この世界の馬はもはやモンスターに近い生き物なのかもしれない。

 ところがミズハさんが言うには、モンスターなんていないらしい。言われてみれば、確かに冒険者のような格好をしている人たちを見かけなかった。

 だけど、かと言って、格好から何のお仕事をされているのかさっぱり分からないんだけど。みんな仕立ての良さそうな服を着ているけど、王族のような派手さはないし、商人のように背中に商品を背負っているわけでもない。聖職者のようなローブも羽織っておらず、木こりや猟師のような軽装も見かけない。

 あえて言うなら……男の人はみんな執事に見える。壮年の方、働き盛りの方、私と同じ年齢ぐらいの若い人とでは着ている服は若干違うけど、皆一様に黒いコートを着用していることから私の見解では執事以外は考えられない。

 対して若い女の人は、ミズハさんと同じように水兵さんみたいな服の上に、こちらは色とりどりのコートを着ている人が多かった。でも、窓から見える景色に河やら海やらはちっとも見えず、なにより

「ミズハさん……あの人のスカート、やたらと短くありませんか?」

 水兵さんにしてはどう考えても不適切な丈のスカートを穿いている人が目立って、気になって仕方なかった。

「うん。キィちゃん、私たちの世界はね、スカートは女の子の武器なのよ」

 見上げると、ミズハさんが神妙な面持ちで頷いていた。

「一月も半ばという真冬ど真ん中でも穿かずにはいられないミニスカート……それは男たちを魅了するマジックアイテム。見えそうで見えない、でもラッキースケベで見えるかもしれないという期待を男たちに持たせ、さらにニーソックスとスカートの間の、絶対領域と呼ばれるわずかな隙間が、ってイタッ!」

 と、雄弁に語るミズハさんの頭が唐突に激しく揺れた。

「瑞葉ー、朝っぱらから何ひとりで変なことを呟いてるんだよー。完全に危ないヤツになってたぞ、お前」

「いたたたっ、それでも挨拶もなしに頭をどつくのはやめてよ、イサミン」

 頭を抱えながらミズハさんが振り返る。

 最初に目に飛び込んできたのは、立派なふたつのおもちだった。

「イサミンって呼ぶのはやめろっつーてるだろ……って、アレ、なんだ、そのスマホに映ってる女の子は?」

 そして女として羨望せざるを得ない魅力を持ったその女性は腰を屈めて、私を覗きこんでくる。

 ちょっとキツめの目つきが特徴の、それでも高い鼻やシャープに整えられた輪郭がまさにクールビューティという言葉を連想させる美人さんだった。 ミズハさん同様の黒髪で、ポニーテールという髪型もよく似合っている。

「あ、は、ハロハロー」

 私は事前にミズハさんから教わったように挨拶する。

「おっ? おおっ!? ハ、ハロー、グッモーニン、ミスタートクミツ」

 驚きつつも、女の人も挨拶を返してくれた。

 ……トクミツって人が誰かは知らないけれど。

「おい、瑞葉。誰だよ、この外人さん」

「んー、私の友達。日本の日常生活を見てみたいっていうからね、こうして案内してあげてるの」

 うん、そういうことになっている。

 なんでも私はアイルランドとか言うところに住んでいて、今はネットとかいうのを通じて画像や音声をりあるたいむにやりとりしている、ってことにするそうだ。

 ちなみにミズハさんからどこの国の人にしようかと言われ、色々なこの世界の国の名前を教えてもらったのだけれど、あまりの多さに驚いた。だって、そんなにいっぱい国があったら対立しまくりで常に戦争状態になりそうじゃないか。そんな疑問をミズハさんに話したら、苦笑いしながら「まぁ、なんとか上手くやってるよ」と言っていた。

 ちなみにちなみに。

 多くの国の中から私が気に入ったのは、ジンバブエという国だった。うん、とても響きがいい。本当はこの国の人にしたかった。

 でも、そこは肌の黒い人が多いらしく、私みたいな肌の人は珍しいらしい。では、私みたいな人が住んでそうな国はどこなんですかと逆に質問してみたら、ミズハさんの回答はアイスランドとかどう? なんて言われた。

 アイスランド!? やだ、名前からしてめちゃくちゃ寒そう! 寒いのキライ。

 だったらアイルランドとかいいんじゃないと言われて、結局そこに落ち着いた。アイスランドとは一文字違いだけど、アイス島とアイル島では、まるで意味合いが違うもん。

 私たちの世界で神獣と呼ばれ、中には冒険者のサポートとして一緒に冒険することもあるというアイル。彼らの島が生まれ故郷ってのはなんだか素敵に思えた。

「へぇ、あ、オレは伊佐美。よろしくって日本語で言っても分からないか」

「あ、大丈夫デス。日本語分かりマス」

「おお、ホントだ。日本語上手いね、あんた」

 ……うん、だって普段から使ってるし。

 でも、そんなことは微塵も出さずに、えへへと笑いながら「よろしく」と答えた。

「と言うわけで、私はさっきからキィちゃんに日本文化を教えてあげていたのです。なのにイサミンときたら、私を変人呼ばわりするなんてヒドイよ! 謝罪と賠償を要求するニダ!」

「おいおい、それは隣の国の文化だろ? そんなの教えるんじゃねーよ」

 またポカリとイサミって女の人がミズハさんの頭を叩く。

 でも、ミズハさんも今度はあははと笑っていて、そんなふたりは本当に仲が良いんだなぁと感じた。


 と、その時だ。

 ピコン。

 私の世界に何かの音が鳴り響いた。


「あ、メール」

「オレもだ」

 イサミさんが鞄から、やっぱり金属板を取り出す。

 ミズハさんも私のいる金属板を手に取り、表面にタッチ。ぶぉんという音がして、さっき見たのとは様子が違う、文字がメインの窓が現われた。

「あ……」

 でも、その文字を見てミズハさんは言葉を失う。

 その隣で

「なんだよ、今さらなんだって湊波月ミナト・ハヅキのヤツがメールなんて送ってくるんだ?」

 イサミさんが自分の金属板を眺め、忌々しそうに呟いた。

読んでくれてありがとうございます。

第三章が始まって結構経ちますが、ようやく勇者の話が出てきました。

次回は勇者とミズハの関係について明らかにしていきます。

そして意外なあの人との繋がりも明らかになりますヨ!


それでは次回は11月29日金曜日、12:00の更新を予定しております。

どうかよろしくお願いいたします。


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