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魔王様のゲーム  作者: タカテン
第三章 私たちの世界がピンチすぎる
38/59

第三十七話 魔王様のゲーム

「はぁ」

 ミズハさんが溜息をついた。

「ハァ」

 溜息って感染するのかもしれない。私も溜息をついた。

「「はあぁぁぁぁ」」

 そしてふたりして大きな溜息。

 こうなったら、さぁ、魔王様もご一緒に!

「鬱陶しいので、やめてはもらえぬか、ふたりとも」

 ……ホント、ノリが悪い人だった。

「むぅ。だったらキィちゃん、溜息を連続でついてみようよ?」

「はい?」

「いいからやってみて」

「はぁ? えっと……ハァハァ?」

「もっと色っぽく! 『ハァハァ、らめぇ、キィ飛んじゃう』って感じで」

「……ミズハさん、落ち込んでたんじゃないんですか?」

 ホント、こっちはこっちで悪ノリが激しい人だった。


「すべては魔王さんのご推察どおり、私たちはキィちゃんたちの世界で遊んでいたの」

 しょんぼりしていたミズハさんが持ち前の切り替えの速さで立ち直ると、魔王様はより詳しい説明を求めてきた。

 暴かれた世界の真実は衝撃的で、おまけにもうすぐ滅亡の危機にある。落ち込んだりもしたけれど、かといってそのままではどうしようもない。この状況を打破するにはもっと詳しく知る必要があると思って、私もミズハさんに熱い視線を送った。

 窓の向こうから私たちふたりに見つめられ、ミズハさんはしょうがないねとばかりに世界の真実を語り始める――。

「私たちの世界はね、パソコンって機械を使って、様々な仮想世界を作り出すことができるんだよ」

 世界を作る機械? なにそれすごい!

 しかもミズハさんが言うに、パソコンって機械を、この世界ではほとんどの人が持っているらしい。

「もっとも世界を作れる人は限られているけどね。私みたいな凡人は、作られた世界に繋ぐ……ってこれじゃ分かりにくいかな。だったら、誰かが作った世界に入る権利を買って、遊ぶ為にパソコンを使っているって説明なら分かる? んでね、特に最近は」

 ミズハさんが髪の毛をかきあげて、右耳を私たちに見せる。可愛いクマさんのピアス、その眼がチカチカと点滅していた。

「この手のMTPが普及して、PIDが大流行なんだよ」

 いきなりミズハさんの言葉が、再びまったく理解出来なくなった。

「うわん、ミズハさんがまた神様の怒りに触れちゃった!」

「ああ、ごめんごめん。MTPってのは、マインド・トゥ・ピーシーって意味で、簡単に言えば人間の精神をパソコンに繋げる機械のこと。PIDはプレイング・イン・ドリーム。つまり夢の中で、その世界に入って楽しむことができるんだ」

「パソコンに精神を繋げる……夢の中で世界に入る?」

 ううん、神様の怒りに触れてはいないようだけど、相変わらず言っていることはよく分からない。

「うーん、なんて言えばいいのかなぁ。キィちゃんってさ、夢って分かるかな?」

「いくら私でもそれぐらい分かりますヨ! 寝ている時に見るアレでしょ?」

 これがミズハさんじゃなく、勇者様あたりだったら、馬鹿にすんなって怒ってもいいレベルの質問だった。

 ところが

「ええっ、キィちゃん、夢をみることがあるの?」

 ミズハさんが心底驚いたという反応を見せる。

 ば、馬鹿にされているのかな、これ……

「そりゃありますよ」

「いや、普通ないよ? オランダ妻は電気うなぎの夢を見ないんだって」

 ……うん、意味がワカラナイ。

「ふはぁ、キィちゃんレベルでもそこまでの人工知能が搭載されているなんて……そりゃあ魔王さんが私たちの存在に気付くのもあり得るなぁ」

 窓の向こうで、ミズハさんが一人で感嘆していた。なんだかよく分からないけれど、どうやら私が夢を見るのは相当に有り得ないらしかった。

「まぁ、夢を見るんだったら話が早いね、夢ってさ、自分の好きな内容を見ることは出来ないでしょ?」

「ええ、まぁ」

「でも、この機械を使えば、パソコンに収納された内容を任意に夢で見ることが出来るの。それどころか、その夢の世界で自分の意思のままに動くことができるんだよ」

 説明を受けて、なるほどと頷く。夢って自分ではどうしようも出来ないことが多いもん。それを自分の思うがままに出来たら、それは単純にスゴイと思う。

「しかし、ミズハよ、どうして夢の中なのだ? 目覚めている時ではダメなのか?」

 それまで黙って話を聞いていた魔王様が、すっと指を一本立てて質問してきた。

「ダメではないけど、私たちの世界って結構忙しいんだよ。私ぐらいの年代なら学校もあるし、部活動にも出なきゃいけない。塾とか、欲しいものを買うためにアルバイトだって。人付き合いも疎かにしちゃダメだしね……だから寝てる時に遊べるってのは画期的なんだ」

 ミズハさんの言うことは相変わらず分からない単語が多かったけれど、寝ている時にしか遊べないって、またえらく大変な世界なんだなぁと思った。

 てか、寝ている時は純粋に頭も体も休ませた方がいいんじゃないですかと訊いたら、体そのものは休んでいるし、そもそもミズハさんの世界では、頭ってほんの数パーセントしか普段は使われていないらしい。そしてミズハさん曰く、夢の中で遊んでいる時に使っている頭は、普段働いている頭とは別の部分だそうで……

「それを私たちゲーマーは『ゲームは別脳』って呼んでるの!」

 って熱く主張された。どうやら日頃から、この事について非難されることもあるらしい。まぁ、そうだろうなぁと思った。

「ゲーム、すなわち『娯楽』か……。なるほど、見えてきたな」

 そんな私たちをよそに、魔王様が虚空を睨みながら呟く。

 はて、一体何が見えてきたんだろう?

 私も魔王様が睨む方向に眼を凝らす。

 と、魔王様がマジマジと私を見てきた! その全てを見通す眼で私を見るってことは、つまり……

「ヤダっ、魔王様、どこ見てるんですかっ!」

「……キィよ、慌てて胸と股間を隠して何を言っておるのだ? 余が見えてきたと言ったのは、そういう意味ではない。ミズハの世界の事情から、我らの世界の真実が見えてきたといっておるのだ」

「ぷぷぷ。キィちゃんってホントに面白いよね」

 呆れる魔王様に、笑いを堪えるミズハさん。魔王様はともかくとして、ミズハさんに笑われるのはなんだかショックだ。

「と、とにかく、何が見えてきたっていうんですか、魔王様っ?」

 私はそれでも胸と股間を隠しながら話を促す。魔王様との付き合いは短いけれど、それでもある程度の性格は分かってる……あんなことを言いながら、実はしっかり私のあんなところやこんなところまで見ていてもおかしくない。特に私は本来あるはずの最終防護壁がないんだ、用心にこしたことはないのだ、うん。

「まったく……。まぁ、それはともかくとしてだ。一部の人間が作り出すことが出来る世界を、その他大勢の人間が娯楽として購入して享受する。しかも我らの世界は、余に多額の賞金が懸けられておる。かなりの人気を誇ったのではないか?」

「うん、一時期はダントツのトップだったよ」

「ふむ。だが、余があまりにも最強すぎて誰も打ち倒せぬと分かった途端に、人気は低迷したであろう?」

「あはは……うん、今では『無理ゲー』の代名詞になってるね」

 無理ゲーってなんだろう?

 ……って、私の疑問はあっさりスルーされる。

「結果として、遊ぶ人間は少なくなり、金回りが悪くなって世界を維持できなくなってしまった、か。……なんとまぁ、ふたを開ければ実に分かりやすい構造であるな」

 つまり、人気のあった食堂の味にみんなが飽きて閑古鳥が鳴き、やむなく閉店に追いやられたようなものだと、魔王様は私にも分かりやすいように再度説明してくれた。

 ありがとうございます。とても、とてもよく分かりました……魔王様が私をアホだと思っているのがっ! 

「で、ミズハよ、我らの世界はなんと呼ばれているのだ?」

「うん? どうしてそんなことを気にするのかな?」

「いつまでも『我らの世界』と呼ぶのは面倒だと思うのだが」

 えー、そんな理由で? とミズハさんは難色を示すものの、魔王様も何故か引かず、まぁここまで話したんだからとしぶしぶ口を割った。

「えっとね、正式名称は『魔王を倒して、あなたも大金持ち! 夢の中で夢の一千万をゲットしよう!』って言うんだけど……」

「……なんだ、それは?」

 魔王様の頬がぴくっぴくっと痙攣した。

「だって、しょうがないでしょ、ホントなんだもん。魔王さんが怒るのも分かるタイトルだけどね」

 ミズハさんが懸命に弁解する。ああ、なるほど、こんな人権をぶっちぎりで無視した名前なんて、魔王様に伝えるのは躊躇われるよなぁ。こんなの、絶対に怒られ……

「まったくだ。なんだ、その絶望的にセンスのない名称は?」

「「そこに怒ってるの!?」」

 やはり魔王様の感覚は私たちの斜め上をいっていた。

「ま、まぁ、最近は一昔前のラノベみたいな、説明調のタイトルが流行りなんだよ」

 そしてミズハさんは『俺の妹が可愛すぎて、ヤバイと思ったが我慢できなかった』とか、『皇帝? 序盤、中盤、終盤と隙がないよね。でも、俺は負けないよ。まほけ……魔法剣が躍動する俺の戦いを皆さんに見せたいね』とか、今流行っているというタイトルを教えてくれた。

「うーむ、こんなことを言うのもなんだが、色々と短縮することを覚えた方がよいのではないのか、お前たちの世界は?」

 ……うん、魔王様の意見に激しく同意。

「あはは。まぁねぇ。でも、もちろん私たちだってそんな長ったらしいタイトルを常に読み上げるわけじゃないよ? 正式名称とは別に、みんなが普段から使っている略称があるの」

 ミズハさんがニカっと笑った。

「『魔王様のゲーム』って、ね」

読んでくれてありがとうございます。

いやー、寝ている間にプレイできるゲームって、マジで実現しないですかねぇ。最近ゲームを楽しむ時間が全然取れなくて、積みゲーが増えていく一方ですよ。


それでは次の更新は11月22日金曜日、12:00を予定しております。

よろしくお願いいたしますっ!

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