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魔王様のゲーム  作者: タカテン
第二章 蘇った勇者様がクズすぎる
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第十四話 指令、虹色スライムを倒せ(失敗したらご飯抜き⁉)

 目的地は南の海のど真ん中にあった。

 何もない海上にひょっこり、いや、もっこり……はお下品なので却下、そうだ、にょっきりと嶮しい岩山がビンビンにそそり立っていた。

 その高さたるや、かなり遠くからでも確認できるほど。おまけに途中から厚い雲に覆われていて頭頂部がどうなっているのか分からないぐらいに高かった。

 おそらく船で近づけたとしても、これを登るのは至難の業だろう。こんな岩山の頂上に到達しようと思ったら、私たちみたいに空から訪れるしかない。

「へぇ、なんだか天国みたいな場所ですね」

 だけど思わずそんな感想をこぼすくらい、頂上の様子は優雅なものだった。

 嶮しい岩肌とは裏腹に頂上部は緑豊かな開けた場所となっていて、色とりどりの小さな花々が穏やかな風にゆらゆらと身を揺らせていた。おまけに高地にしては温かく、昼寝に最適な木陰を作り出す大木に、中央には小さな泉まである。

「うむ。悪くない」

 魔王様も眼前に広がる穏やかな景色に目を細めた。

 ドラコちゃんに至っては、私たちを乗せての長旅に疲れたのだろう、幼女形態に戻って早くも草花のベッドですやすやと眠っている。にまーと天真爛漫な笑顔を浮かべているのは、幸せな夢を見ているからだろう。うんうん、確かにこんな気持ちのいいところでお昼寝したら、さぞかし良い夢が見れそうだ。

 てことで、私も早速……と思ったのだけれど。

「で、こんな所に一体何の用があるんだ、魔王?」

 でも、久々に口を開けた勇者様が、私のお昼寝を許さなかった。


 穏やかな雰囲気の中、ひとりだけピリピリとした空気を纏った勇者様は厳しい目つきで魔王様を睨みつける。

 でも、そこはさすが魔王様。勇者様の視線に別段怯むわけでも、対抗心剥き出しにするわけでもなく、ただ悠然と受け止めながら口を開く。

「決まっているであろう。お前を鍛えてやるためだ」

 魔王様がニヤリと口角を釣り上げた。

 前言撤回。魔王様もやる気満々だよぅ。

 うーん、でも、私たちを鍛えるってどういう意味だろう? 単純に私たちと一戦構えるだけなら、あの洞窟でもいいわけだし。なのにわざわざここへ場所を移したからには、ここは何か特殊な場所だったりするのだろうか……あ、まさか

「もしかしてここって一年間修行しても世間では一日しか経っていないという伝説の時と精神ぐへぇ」

 うわん。もう、人が話している時に頭をどつくのはやめてくださいよぅ、勇者様。

「空気を読めよ、キィ。今はそんなちゃらんぽらんなネタを突っ込んでいい雰囲気じゃなかっただろうがっ! てか、どうしてお前がそんなネタを知ってるんだ?」

「え? だっておばあちゃんが昔、寝物語で話してくれたよ。人類を滅ぼさんとする完全体に立ち向かうべく親子のおつ戦士が修行するシーンで」

「マジか?」

 何故か驚く勇者様。おかしいなぁ、私たちの界隈では誰でも知ってる有名な昔話なんだけど。やっぱり貴族の方は寝物語の類も違ってたりするのかもしんない。

 と、まぁ。なんだかんだでやっぱり空気を軽くした私たちに、魔王様も毒気を抜かれたように苦笑を浮かべるその時だった。


 カサッ。

 カササササッ。

 カササササササササッ。


 どこかで何かが草を掻き分けて移動する音がした。

 ドラコちゃんは相変わらずにんまり笑顔を浮かべながら眠っている。

 私たちも特別動いてはいない。

 ってことは私たち以外の何者かがいる! しかもこんな場所に人が住んでいるとは思えないから、考えられる可能性はただひとつ。


 モンスターだ!


 私と勇者様は途端に緊張して身構える。

 足元の草花に隠れているのだから、大きさはそれほどでもない。でも、その姿が見えない以上、油断は出来ない。魔王様はともかくとして、回避能力は高いものの防御力は薄っぺらい私と、レベル1に戻された勇者様にとってはちょっとしたミスが命取りだ。

 どこだろう、どこにいるんだろう?

 私たちは辺りを凝視する。


 おかげでモンスターは……すぐに見つかった。

 でも、ナンダアレ?


「体が虹色に光るスライム?」

 そう、体全体が虹色というか、様々な色を発光させているスライムだった。スライムと言えば、おきまりは平原にいる緑色。あるいは火山付近に生息している赤や、海辺で大量発生する青が知られている。虹色のスライムなんて見たことも聞いたこともない。

「うむ、これは僥倖。よし、あのスライムを倒して来るのだ、キィ」

「ええっー? でも、私、魔王様も知ってるようにSTRは全然ないんですよぅ。武器だってほら」

 私は愛用のはたきを腰から抜き、命令を下された魔王様に向かってぱたぱたと振ってみせる。我ながらアホな光景だ。

「問題ない。ヤツはキィと似ていて回避能力がずば抜けているものの、攻撃力は無に等しい。おまけにHPも1だから、キィでも倒せよう」

 だから行ってこいと魔王様が目で合図する。

 確かに魔王様の言う事が正しいのならば、私でも倒せるだろう。でも、それでも私はおっかなびっくり、腰が引けた状態でスライムに近付いていく。

 ううっ、だって今まで私、戦闘では完全に邪魔者扱いだったんだよ? 魔王様と出会ってようやく戦闘に参加出来るようになったけど、それでも私はサポート役というか、ぶっちゃけ囮役というか。

 戦闘でメインを張れるキャラじゃないし、そもそもひとりでモンスターと対峙するなんてこれまで経験がないんですけどって、ああ!?

 不意にスライムが突然私の方を向いた(もっともスライムに目はないから、なんとなくそう感じただけなんだけど)。

 どうやら私の放つ不安オーラに気付かれてしまったらしい。うっ、不意打ち失敗。かくなるうえは……。

 私は長年身に染み付いてしまった癖から、思わず敵の攻撃に身構えた。

「こら、キィ。何をやっておるのだ? 早く攻撃をせねば逃げられてしまうぞ!」

 すかさず背後から魔王様の叱責が飛ぶ。

 うー、分かってますよぅ。分かってはいるんだけど、体がうまく動いてくれないんだってば。

 かろうじて再度攻撃を仕掛けるべく、はたきを強く握り締める。

 でも、攻撃ってどうするんだったっけ?

 我ながら情けないぐらい、完全にパニック状態だ。

 かくして私がもたもたしているうちに、スライムはじりじりと距離を広げていく。

 ああ、逃げられちゃう。

 そうは思いつつも、実は内心ちょっとホッとしていた。

 だっていくら相手のHPが1とは言っても、私の攻撃が外れる可能性もある。そして無様な隙を作った私にスライムが襲い掛かってきたらと思うと、もうさっきから怖くて仕方なかったんだ。

 逃がしたら怒られるのは確実。だけど、怖い目にあうのはもっとイヤなんだ……冒険者として情けない限りだけど。

 だというのに。

「キィ、もしもそいつを逃がしたら今日の晩飯抜きだから覚悟するがよい」

 魔王様の言葉に私の体がびくんと反応した。

 怖いのはイヤだ。

 でも、ひもじいのも同じくらいイヤだ!

 多分この瞬間、私の目がピカンを光ったんじゃないかと思う。

 何故なら、私が決意したのと同じタイミングでスライムが脱兎の如く逃げ出そうとしたのだから。


 さて、こんな時にアレなんだけど、私の得物であるはたき、これの攻撃判定ってどこにあるか知ってるだろうか? 

 うん、棒の部分だけだ。先っちょに付いているふさふさはそりゃあ埃を取るのには向いているけれど、攻撃判定はない。故にかなりリーチの短い武器で、この時も私の攻撃範囲からスライムは見事に退避していた。

 だから私は咄嗟に振りかぶって。

「えーい」

 と気合一発、はたきを逆さまに持ち替えてスライムめがけて投げつけてやる。


 すこーん。


 はたきがスライムの核に当たって、おマヌケな音があたりに響き渡った。

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