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魔王様のゲーム  作者: タカテン
第二章 蘇った勇者様がクズすぎる
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第十三話 虹色の頂を目指して

「うひゃー、たかーい」

 私は魔王様の腰にしっかり掴まりながら、眼下に広がる景色に思わず声をあげた。

 人の足では到底辿り着けないような、万年雪に覆われた険しい山脈。うっそうと生い茂る深い森から時折飛び立つ、まるで宝石のように輝く羽の鳥。緑の絨毯を敷き詰めたような草原を行くキャラバンの集団。遥か彼方にはお日様の光を反射してきらめく海。

 それらすべてを見下ろし、私たちは雲ひとつ無い自由な空をドラゴン形態に戻ったドラコちゃんの背に乗って『虹色の頂』と呼ばれる場所を目指していた。


「魔王、本当にこの方向で合ってるんじゃろうな?」

「余を信じるがいい」

「それは無理であろ。おぬし、長年自分の根城に閉じこもっていたじゃろうに」

「なるほど。ならば、余ではなく、この究極魔導書アルティマニアを信じるがよい。これに載っている地図によれば目的地までこのまままっすぐのはずだ」

 私は魔王様が手の上に浮かせた魔導書を脇から覗き込む。開かれたページには世界地図が載っていて、ご丁寧にも目的地には魔王様の手で赤丸がついていた。 

「へぇ、魔導書って言うから魔法のことばかり書いているのかと思いきや、結構実用的なんですねぇ」

「うむ。なんせ究極であるからな」

 珍しく魔王様が自慢気に頬を緩ませた。が

「でも、間違ってますよ?」

「なに? そんなはずはあるまい。なんせこれはこの世の全てを記して」

「あ、地図そのものじゃなくて。目指している方向が違うんですよー」

「なんじゃと?」

 私たちの話が聞こえたのだろう。ドラコちゃんが緩やかに速度を落とし、やがて翼を定期的に羽ばたかせながら空中で停止した。

「どういう事じゃ、魔王。おぬしがこっちでいいと言うたであろうに。ただでさえ飛ぶのは疲れるのにおぬしらを乗せておるのじゃぞ。わらわの苦労も考えてたもれ」

「いや、余も分からん。どういう事だ、キィ? 説明を頼む」

 真面目な表情で頭の上に疑問符を浮かべる魔王様。どうやら何にも分かってないらしい。うーん、方向音痴だとは言っていたけれど、どうやら本当の事らしい。

「そもそも魔王様、ちなみに私たちがさっきまでいた洞窟ってどこにあると思ってます?」

「決まっておろう、ここだ」

 魔王様が地図上の一点を指す。

「へぇ、どうしてそこだと思うんです?」

「言うまでもない。洞窟という情報、さらには現地での視覚から得られた周辺状況を元に地図上と照らし合わせ、もっとも似通った場所を選択したのだ」

 ちなみに魔王様が言うには、選択した場所はおよそ七割ほどの確率であっているはずだとか。

 うん、七割って低すぎるよっ、魔王様。

「えーと、魔王様。私のステイタスカード、貸してください」

 どうしてここでステイタスカードの話が出てくるのだと怪訝そうな顔をする魔王様。でも、素直に私のステイタスカードを手渡してくれるあたりは、どこぞの誰かさんとは違う。

 私はお礼を言うと(そもそも私のカードだからお礼を言うのも変な話だけど)、手早く操作して世界地図を表示させた画面を魔王様に付きつけた。

「赤い矢印のついた点が私たちの現在位置。んでもって、青い点がさっきまでいた洞窟です。地図と見比べてみてください」

 こういうのは口で説明するよりも事実を見せつけた方が手っ取り早い。

「全然、違うな」

「でしょー?」

 得意顔の私。てか、別に私がスゴイわけじゃない。スゴイのはステイタスカードのマップ機能だ。

 世界地図はもちろんの事、世界のありとあらゆる街や村の地図を集録。現在位置のお知らせだけでなく、過去の来訪履歴や目的地への最適なルートも表示してくれるスグレモノだ。時折ヘンテコなバグが起こるけれども、このマップ機能があるからこそ私たち冒険者は無駄足を踏まずに目的地へと向かう事が出来る。冒険者ギルドの広報課の人たちも「今、自分達がどこに向かっているか、どこにいるのか。分からないと不安ですよね。でも、大丈夫。これならあなたを必ず目的の場所へと導いてくれます。そう、このステイタスカードならね」と太鼓判を押す一品だ。

 ところが。

「だが、キィよ。本当にそのステイタスカードの情報が正しいとは限らないのではないか?」

 魔王様が反論してきた。何だか意外。魔王様はそりゃあ魔王様なだけあって意志の強いお方だけれども、自分の間違いは素直に認めて、柔軟に考えを変える人だと思っていたのに……。

「魔王、何を意固地になっておる? おぬし、そんなに自分の方向音痴にコンプレックスを抱えておるのか?」

 ドラコちゃんの言葉に一瞬魔王様の頬が引き攣った。

 ああ、なるほど。魔王様もなんだかんだで可愛いところがあるなぁ。

「だったらこうしましょう。ドラコちゃん、北を向いてくれる?」

 私の指示にゆっくりその場で旋回して北に頭をむけるドラコちゃん。時間とお日様の位置から北を向いている事は間違いない。

「では、魔王様の考える現在位置から見て、地図上では東の方向に何があります?」

「うむ、ずっと森が続き、その向こうには山があるな」

 ステイタスカードも現在位置は森。でも、それを抜けた先には

「海が見えるぞよ、魔王」

 この中で一番目が効くドラコちゃんが告げる。そう、海なんだ、その先は。

「なんだと? そんな馬鹿な」

「馬鹿はおぬしのほうじゃ。余計な苦労をさせよって。キィ、はよう正しい方向を教えるのじゃ。さっさと行ってわらわは昼寝がしたい」

 私は魔王様に代わって先頭に立つと、格好良く正しい方向を指差した。その指示に従って方向転換するドラコちゃん。再び力強く翼を羽ばたかせると、風を切って目的地に向かって飛翔する。うなじを掠める風の心地よさもさることながら、ドラゴンを従えて空を駆け巡るなんてなんだか御伽噺で聞いた伝説のドラゴンナイトになったみたいで気持ちが良かった。

「おのれ。神の作りしアイテムごときに余が敗れるとは……」

 私に代わって後ろに下がった魔王様がぶつくさ言いながらステイタスカードを弄ってるけど気にしなーい。

 でも、魔王様はともかくとして、先ほどから黙りこくっている勇者様の様子だけは気になった。

 尾っぽ近くに腰を降ろし、私たちの馬鹿げたやり取りにも我関せずとあらぬ方向を黙って見つめている勇者様。

 普段が普段なだけにちょっと異様で、こう言っちゃなんだけど、不安でいっぱいだ。

 いったい何を考えているのだろう。

 さっき、勇者様は洞窟でこう宣言した。

 ――魔王からすべてを取り戻す――

 やっぱりそのための方法を考えているのだろうか。

 変な事を企てなきゃいいんだけどなぁ、ホント。

「む、しまった。壊してしまったかもしれん」

 と、私が一抹の不安に駆られていると、魔王様がぽつりと呟いた。

 へっ? 壊した?

 何を?

 てか、さっき何を弄ってったっけ?

 そだ、私のステイタスカードだ……ってええええええええ?

「ちょっと魔王様、何をやっちゃったんですか?」

 私は慌てて魔王様に食ってかかる。

「いや、例のマップ機能を弄ってたんだがな」

 さっきとは逆に、今度は魔王様がステイタスカードの画面を私に付きつけた。

「どうにもよく分からんのだが、突然ある場所に『パチンコガンダム村』ってのが表示されたぞ」

 バグだ、それ!

ご愛読ありがとうございます&今回は短めで申し訳ありません。

どうしてもこの辺りで切らないとどうにもバランスががががが。

次はガンバリマス。


次回は27日金曜日、お昼頃の更新を予定しております。



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