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魔王様のゲーム  作者: タカテン
第二章 蘇った勇者様がクズすぎる
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第十二話 魔王様の挑発、勇者様の決意

 しかし、二度目の復活の儀式は必要なかった。

 私たちが何かするまでもなく、勇者様が勝手に蘇ってきたのだ。


 焼け焦がれた勇者様らしき塊がいきなりボロボロと崩れ始めたかと思うと、中から何事もなかったかのように勇者様が這い出てきた。

 うん、もはやこの人、人間じゃない。


「おおう! なんだ、この幼女タン。いきなり火を噴いたぞ!?」

 焼き殺されておきながらまだ「幼女」呼ばわりするあたりはさすがは勇者様。んでも、私を盾にして怯えるのはやめてほしい。

「そりゃそうですよ、勇者様。アリスローズちゃんはドラゴンだもん」

「なにっ!? ドラゴンだとぅ!?」

「ふふん、愚かな人間よ、わらわの立派なしっぽを刮目せよ!」

 ドラゴンと聞いて驚く勇者様に威厳を見せようとアリスローズちゃんがお尻を向けて、そのご自慢のしっぽをどすんと地面に叩きつける。薄紅色の鱗が松明の光に妖しく揺らいだ。

「しっぽ……」

「そうじゃ。どうだ、美しかろう?」

「こんなにカワイイのにしっぽがあるだとぅぅぅぅ!?」

 アリスローズちゃんのゆらゆらと揺れるしっぽとは正反対に、勇者様が私の頭をがくんがくん揺らして驚きを表現する。うっ。やめて。ぎ、ぎもぢわるい。

「うわん、勇者様やめてー。昨日のお酒がぶり返してくるぅ」

「キィ、こいつは本当にドラゴンなのか?」

「だーかーらー、さっきからそう言ってるよう」

 ぴたり。

 唐突に勇者様は揺らすのを止めた。私の願いを聞き入れてくれた……なんてことはない。あるわけない。そんなに聞きわけのよい勇者様だったら、今頃私はもうちょっとマシな人生を過ごしているはずだもん。

 勇者様が動きをストップした理由は単純明快。感情がシフトしたんだ。驚愕から、そう、失望へと。

 がっくりとうなだれる勇者様。でも、失望から怒りに変わるのに時間はほとんど必要なかった。


「こんなにカワイイのにドラゴンだとっ!? ふざけるなぁぁ、俺はケモノ系はダメなんだよっ!」

 知らないよ、そんな事。てか、ケモノ系って何さ?

「ええい、一度喜んだだけに余計に腹が立つ。しかも名前がアリスローズ? なんだ、その俺様好みのロリィな感じの名前は」

 うん、さっきの行動で勇者様がロリコンの十字架を背負っているのは分かった。でも、本人からはっきりと言われると改めてショックだ。あはは、あそこで自分はロリコンですってカミングアウトしている人、私の元ご主人様なんスヨ……神様、ヘルプミーっ!


「よし決めた。お前の名前は今日からドラコ。俺様はドラコと呼ぶぞ!」

 ついには勝手に人(?)の名前まで変えちゃったヨ。さすがは勇者様、唯我独尊!

 でも、これにはアリスローズちゃんも黙ってはいなかった。当たり前だと思う。相手の性的嗜好でイチャモンを付けられた挙句、勝手に名前を変えられてはたまったもんじゃないもん。

「ドラコとはなんじゃ!? この麗しいわらわを『ウンコ』と同じ三文字で呼びつけるとは愚弄にもほどがあるぞ」

 出た! アリスローズちゃんのワケワカラナイ文字数理論。しかも三文字の代表格が『ウンコ』って……あれ、ちょっと待って。てことは二文字の私は『ウンコ』よりもさらに下の存在ってこと?

 それはさすがにあんまりすぎると問いただしたかった。だけど、私が割って入る余地なんてすでにどこにもないぐらい、勇者様とアリスローズちゃんのやりとりは白熱していた。


「そうだ、お前なんかウンコだ。俺の純真さを弄びやがって。ウンコ! ウンコー!」

「ぐぬぬ。そういう御主こそ勇者の四文字であるから、ボケナス、スカタン、パチモンの類ではないかっ!」

「ぬははは。姿かたちは麗しき幼女たんでも所詮はケダモノ、浅はかだな。ああ、ボケナスで結構。貴様のウンコなんかと比べたらはるかにマシだ」

「なぬー! もう怒ったのじゃ。もう一度炎に焼け焦がされて死ぬがよいわ」

「あはは、バーカ。こちとらもう死んだばっかでレベルが1になってんだ。この状態で殺されてもなんも惜しくも無いし、すぐに蘇ってやるわ!」

 勇者様が「さぁ、やってみろ」とばかりに両手を上にあげ、がに股で左右に身体を揺らして挑発する。アリスローズちゃんも息を大きく吸い込んでやる気満々だ。

 ああ、勇者様、また死んだな……


「ドラコ、やめるんだ」

 と、そこへ魔王様がアリスローズちゃんの頭を押さえ込んでブレスを緊急キャンセルする。

「なんじゃ、魔王、とめるでない。とゆーか、御主までもわらわをウンコ呼ばわりするのかえ?」

「アリスローズよ、ウンコと考えるからよくないのだ」

 魔王様はアリスローズちゃんに微笑みながら、諭すように話しかける。

「三文字には他にも『華麗』『美形』『奇麗』など、お前に相応しい言葉があるではないか」

 ……うん、まったくの詭弁だった。魔王様、子供だましにもほどがあるよっ。

「おお、なるほど。そう言われればそうじゃ」

 でも、ころっと説得させられてしまうアリスローズちゃん。相当な年数を生きているはずなのに、おつむの方は見た目そのまんまの子供と変わらないみたい。

「さすがは魔王よの。普段から三文字で呼ばれているだけあって、三文字言葉に博識じゃ」

「ふむ。ちなみに余は自分のことを『無敵』『覇者』『高貴』と同じ三文字であると常にとらえておる」

 ドラコちゃんに話を合わせる魔王様。するとそこへ

「へへん、勇者である俺様も日頃から『天才』『イケメン』『逸材』とみんなから言われているぞ」

 何故か勇者様も負けじと俺様スゲーってところをアピールしてきた。

でも、私、知ってるよ。誰も勇者様のことを『天才』とか『イケメン』なんて呼んでいない事を。

 てか、魔王様もアリスローズちゃんも勇者様の言葉に「それはない」って顔をしてるし。完全にウソがばれてるのに、ひとり自慢気な勇者様がもう憐れで仕方がないヨ。


「まぁ、それはともかく。アリスローズよ、ドラコという愛称を持つのは悪くはないと思うぞ……色々な意味で」

「うむ。華麗という意味での三文字であるならば、そう呼ぶのを許してやってもいいのじゃ」

 アリスローズちゃん改めドラコちゃんがはにかんだ表情を浮かべた。なんだかんだで嬉しそうだ。かく言う私も……

「アリスローズって名前、地味に言いにくかったもんなぁ」

「ん? キィ、何か言うたかえ?」

 ドラコちゃんの地獄耳に慌てて私は首を横に振る。機嫌を損ねて、せっかくの愛称が台無しになっては元も子もない。

「ドラコって響きも可愛くていいじゃないですかって言ったんですヨー。でも、それにしても三文字でも色々ステキな言葉があるんですねー。あ、そうだ、私の二文字にも何かステキな言葉を当て嵌め――」

「いや、キィのは『アホ』の二文字でデフォだろ」

「余は『バカ』が相応しいと思う」

「わらわは『クソ』だと思っておったのじゃ」

「なんなんだ、あんたらー!」

 何故か私に関しては絶妙な連携を見せる三人に、私の魂の咆哮が洞窟に響き渡った。

 私はイジラレ担当じゃないぞ!



「さて、話が少々脱線したが、勇者よ、よくぞこの世界に戻ってくれた」

 私がぷんすか怒るのを苦笑いしながら見つめていた魔王様が急に表情を引き締め、勇者様の前に立つ。私を軽くあしらっていた勇者様も魔王様の気配に気付き、訝しげな目つきで魔王様を見つめた。

 成り行きに私も怒るをやめて様子を見守る。ドラコちゃんは……例によって眠そうだ。

「ふん、戻りたくて戻ってきたわけじゃない。俺様の駄メイドがふざけた事を言ってやがったからお仕置きしにきただけだ。……それはそうと、キィの奴にこんなふざけた復活を思いつく頭があるわけない。今回の件、貴様の入れ知恵だな?」

「さよう。おぬしには我が野望の為に蘇ってもらう必要があったからな」

「ははっ、なんで勇者である俺様が貴様の野望なんぞを手助けしなくちゃならんのだ、魔王!」

 勇者様が怒気を強める。

「よくも俺様を殺してくれたな。貴様が魔王だと知っていれば」

「余が魔王だと知っていれば勝てたか、勇者よ?」

 でも、魔王様は余裕綽々。むしろ勇者様を挑発するような態度で迎え撃つ。

 さすがの勇者様でも相手が悪い……と思ったんだけど。

「当たり前だ! 俺様は勇者の中の勇者だぞ、負ける理由がない!」

 どーんと胸を張って答えるって……一度殺されているのに、一体どこからそんな自信が来るんだよぅ?

 見れば魔王様も呆れかえったような表情を浮かべている、と思いきや、こちらはこちらでニタァといかにも悪者っぽく笑ってるし!

 ふたりとも私の思惑通りにはいかない、まったくもって困った人たちだった。


「さすが。それでこそ蘇らせた甲斐があるというものだ。で、どうする、さっそく一戦交えるか?」

「望むところだ!」

 勇者様が床に落ちていた愛用の大剣を拾い上げ……ようとして手を滑らせた。不思議そうな表情を浮かべる勇者様。今度はしっかりと柄を握り締める。が、大剣はまるで床に貼り付いたように持ち上がらなかった。

「勇者よ、さっきの自らの言葉を忘れたか?」

 ついには柄を両手で握り、ふんぬーと歯を食いしばって大剣を持ち上げようとする勇者様に、魔王様が今度こそ嘲るような表情で事情を説明する。

「今のお前は死亡ペナルティでレベルが1に戻ったのだ。その大剣を持ち上げられぬと言う事は、つまりはそれを振り回せられるほどの腕力をも失ってしまったのであろう?」

 ああっ、すっかり忘れてた。

 そう言えばドラコちゃんとやりあっている時に、レベルが1に戻ってしまったと勇者様が告白していた。だとすると、レベル1の勇者だと持てる武器はせいぜい棍棒ぐらい。大剣が持てるはずがない。

 私が今も戦闘用箒が持てないのと同じ理屈だ。

「ふ、ふん。バカめ、冗談に決まってるだろーが!」

 魔王様の言葉に一瞬ショックの表情を浮かべた勇者様。でも、すぐに立ち上がり、はっはっはと笑いながらそんなことをのたまった。うん、明らかにドツボに嵌っているというか、涙ぐましい虚勢というか。この状況下でこの態度。実に勇者様らしかった。

「俺様に武器なぞいらん。拳ひとつで貴様をぶっ倒してやるわ!」

 しまいには素手で魔王様に立ち向かおうとする勇者様。やけくそにもほどがあるよっ!

「勇者様、さすがにそれはムリですよぅ」

 すかさず私は二人の間に入って、勇者様を止めにかかった。

「ええい、止めるな、キィ。ちゃんと勝算はあるのだ」

「ウソ!? どんな?」

「タコ殴りに殴ればひとつぐらい怪しげなツボにヒットして、ヤツの身体が内部から破裂するかもしれんだろうがっ!」

「そんなのは勝算と言わないよっ!」

 まったく、チャレンジャーすぎる。

 それでも「何事も試してみないと分からん!」とか言ってくるのだから、ホント、頭痛い。


 もはやこのおバカさんを止めるには必殺・股間蹴りを食らわすしかない。

そう思った時だった。

「勇者よ、今のお前では余は倒せん」

 魔王様が床の大剣をひょいと持ち上げると、その切っ先を勇者様の目の前に突き出した。

勇者様の目の前と言うと、ちょうど私もいるわけで、驚いた私は「うひゃ」って情けない声を出しながらその場に尻餅をつく。

 にも関わらず、向けられた刃に動じる事無く魔王様を睨みつける勇者様はほんのちょっとだけ格好良かった。

「ふむ、さすがに良い目をしている」

 魔王様は突き出した剣をゆっくり降ろすと、口の端をわずかに引き上げて微笑む。

「しかし、今のお前と戦うのは時間の無駄だ」

 そして床にへたり込む私に魔王様は手を差し伸べてきた。私はちょっとぶーたれつつも、その手を握り立ち上がる。

 元はと言えば魔王様のせいで尻餅をついたのだけれど、こうも紳士的に扱われては文句も言えないじゃん。どこぞの誰かさんもこれぐらいフォローが出来たらいいのになぁ。

 でも、その誰かさんはわずかに表情を歪ませて立ち尽くすのみ……。


「では、余はこれより出かける。キィよ、ドラコを背負って付いてくるがよい」

 言われて気付いたけど、ドラコちゃんは自分のシッポを支えにしてすやすやと眠っていた。そんなドラコちゃんを背負ってついて来いと言いながら、魔王様本人は早くも洞窟の入り口に向かってさっさと歩き始めている。

 私も慌ててドラコちゃんをおんぶし、魔王様の後を続いた。

「あ、あの、魔王様。勇者様は……」

 魔王様の後ろ姿に声をかける。すると、魔王様は振り返る事無く、右手に勇者様の大剣を、そして左手に黒光りするカードを手にして高々と付き上げた。

「勇者よ、一度しか言わぬ。コイツを取り戻したいのならば余に付いてまいれ。我が野望の手助けをするのだ」

 洞窟に魔王様の言葉が反響する。私は思わず立ち止まって、勇者様に振り向いた。俯いていて表情は分からない。けど、きっと悔しそうに唇を噛んでいるに違いない。


 勇者様はいつだって自分の好き勝手に生きてきた。たまに同じ勇者を名乗る冒険者と一緒になっても、わがままを貫き通して、周りから呆れられていた。その勇者様が大切な剣やステイタスカードを奪われて、返して欲しければ手助けをしろと迫られている。しかも相手は一度自分の命を奪った魔王なのだ。

 魔王様としては勇者様の大切なものを質に取り、きっと勇者様が要求を呑むと考えているのだろう。だけど、プライドの塊である勇者様が素直に頷くとは私には考えられなかった。

 でも、私はそれはそれでいいと思うんだ。

 だって、剣はともかく、ステイタスカードを奪われてはもう勇者として冒険なんて出来やしない。そもそも勇者様は復活した時にこの世に戻るつもりはなかったとか言ってたし、冒険生活に未練はないんじゃないかな。だったらもう勇者は引退して、伯爵様の元に帰った方がいいと思う。

 勇者様のためにも。

 ……そして私がこれ以上ヒドい目にあわないためにも。うんうん。


「キィ。なにをぼうっとしてやがる、早く行くぞ!」

 でも、不意に聞きなれた声が近くから聞こえて、私の横を通り過ぎていった。

 それはこれまで私に無茶難題を言いつけてきた声。プライドが高く、基本的におバカで、でも時々ちょっとだけカッコイイ所を見せる人の声だ。

 私ははっとして振り返る。

「魔王のヤツにどやされてもしらねぇぞ」

 そこには片手を上げて今にも私の頭にゲンコツを落とそうとする勇者様の姿が。

「え? もしかして魔王様と一緒に行くつもりなの、勇ぐえっ!」

私が『勇者様』と言い切る前に頭にゲンコツが落ちる。

 痛い。ヒドイ。舌噛んだぁぁぁ。

「ふん、仕方ねぇだろ!」

 さっきまでの何も出来ずにただ俯いていただけの勇者様は、もうどこにもいなかった。

 いつも通り私をエラソーに見下ろしていたかと思うと、背を向けて、光が差し込む洞窟の入り口へと顔を上げて歩き出す。

「見てろ、キィ。俺はあいつから必ず全部取り戻すからな!」

 勇者様が高々と宣言する。

 その背中は魔王様に負けず劣らず大きかった。


 気がつけば、二日酔いはいつの間にか奇麗さっぱり消えうせていた。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


次の更新は25日水曜日、いつも通りお昼過ぎの予定です。

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