茅場の隠された過去と新たな敵?
そして、茅場の情報を待つ一方、聖は総帥としてやる事が沢山あった。
「こんなにやる事があるのか、総帥は今まで良くやっていたな。俺もう、投げ出したくなってきた」
聖がボヤくと、美香は笑いながら言う。
「今だけよ。彼方なら直ぐ慣れるわ」
「それなら良いが、母様がいない中でやるのは、キツかっただろうな」
「そうね、だから私は誓う。消して逃げないと」
美香が言う。それに、聖は嬉しそうに笑う。
「ああ、有り難う」
そう聖は言った。
「でも、彼方は思い至らないの?」
「篁と対立する、思い当たる一族はあるが、賀茂家、土御門家と心当たりはあるが、それに安部家も陰陽師としては、格別だが、今は衰退しているしな」
「どれも怪しいですが、確証は出ません」
茅場がようやく戻って来て言う。
「そうか、悪いな。ちょっと試して見るか?」
「何をですか」
「遠見だ」
「危険ですおやめ下さい」
茅場が即座に止めた。
「危険でも、一度やる価値がある。それで、今回の犯人がわかるなら、安いものだろう?」
「彼方にさせるぐらいなら、私がやります」
「お前如きに遠見が出来るか?」
バカにしたように言うと、茅場ははっきりと言い切った。
「私も篁の分家それなりに、力を持ち合わせています」
「え、分家?」
聖は驚く。茅場は言う。
「それは後ほど話します」
そうすると、突然騰蛇が出て来て、言う。
「お前なら結界だとか、張れるだろう。でも、俺はこいつの心が気に入ったから、俺が独自に勝手に守る」
「それは助かる。こいつにヤらせるのは。心配だったから。一応、結界はお前達に貼って行く。敵がどんな奴か分からない以上用心に越した事はないからな」
「えー、あれ幕かかったみたいに動きにくいから、嫌なんだよ」
「問答無用。オンクロダヤウンジャクソラカ。じゃあ、頼むな」
結界を張ると、聖は言う。
「これを、一人でやってたんだな。凄いな」
「そうですね。総帥はそれを表に出さない人でしたから」
「やはり、流石だ」
と言ったところで聖は気付く。
「と言う事は何か? 俺が美香を庇わなくても、父様は何もしなかったって事か」
「そう言う事になりますね。それに、総帥にはそんな時間有りませんから」
「なんかなぁ? お前最初っから分かっていたのか?」
「ええ。一応」
茅場は言う。
「そうか、だから、お前父様付きになったんだな」
「ええ、無理しているのは、分かっていましたから。私で手伝えればと思って」
「どうして? 父様は、男受けが良いってことか?」
「男受けって、それ何ですか?」
苦笑いで茅場が聞くと、聖は笑いながら言う。
「ええ、そのまんまの意味」
「じゃあ、彼方にも好かれているんですかね?」
「そう思うか。思いたいなら、思え。勝手に」
「思えません。馬鹿にされているのは、分かりますがね」
聖は笑いながら言う。
「目敏いな」
「分かりますよ。彼方はそう言うところ正直です」
「そうか?」
聖は笑って言う。
「それだけじゃ有りません。私は、彼方のお父様に償わねばなりません」
「なぜ?」
「償うのは、お父様にだけでは有りません。彼方にもです」
「どう言う事だ?」
その言葉に聖は訝しむ。茅場は、言い難そうに言う。
「私の姉は、彼方のお母様です」
あまりに想像してなかったことに、聖は驚く。
「お前、何を?」
「私は分家の人間です。姉があの様な事をし、両親は報復を恐れるあまり、田舎に引込みました。彼方のお父様は私を分家の人間として、入れるのを嫌がりました。あくまでも、外の人間としていれた。私は本当は外の人間では有りません」
「何故、お前はついて行かなかった? 学校のことがあるにしても、学生ならついて行くべきだろう?」
「いいえ、それよりも、償うべきでしょう? 私がすべき事は逃げる事では有りません」
「お前? 何故、そこまで?」
「自分の一族のした事それを無視出来ません。逃げるのは、卑怯です。彼方のお父様に何か出来ないかと言った時がちょうど彼方が誘拐されたときで、逆に感謝されました。だから、その時お手伝い出来ないかと、聞きました。それに、彼方のお父様は笑っておられた。『お前も変わった奴だなと。お前がそこまで言うなら、篁で使ってやる。その為にも今後役立つ学部を卒業しろ。でも、篁家の人間としては、入れない。それでも良ければ来い』と仰って下さいました」
「それは、兄上も知っているのか?」
「言った事は有りませんから、知らないと思いますよ。もし、知っていたら、私は今ここにいないでしょうね」
「そうだな。卓兄のお父様贔屓は凄いからな」
聖も笑う。
「でも、父様は何故、お前を外の者として扱ったんだろう?」
茅場にも、それが分からないのか憶測で言う。
「たぶん、やはり、許せなかったんだと思いますよ」
「そんな器が小さいか」
聖はため息交じりに言う。
「器の大きさじゃありませんよ」
「じゃあ、何だと?」
「それだけ愛していたのでしよう?」
「そうかもな」
聖も思い出すように言う。
確かに2人は仲睦まじかった。だから、母が出て行った時は、聖は驚いた。なんで、あんなに仲良かったのに、なぜお父様を見捨てるのかと、聖には分からなかった。しかし、それに対しお父様は笑って言っていた。
「お母さんは弱い人だから、こんな生活耐えられないのだ」と、そんなこと、聖にしてみれば結婚する前から、分かるだろうだった。仮にも分家の人間なのだから。
そんな事も、分からず総帥の元に嫁いだのかと、聖は常々茅場に、言っていた。それを聞き茅場は、どう思っただろう。多分、辛かったに違いない。自分の姉が総帥を裏切ったのだから、複雑だっただろう。たぶん良い気はしなかったはずだ。
「お前は、私に怒っているか?」
「何故です? 私の素性を知ら無いとは言え、彼方は私を受け入れ、今では誰にも譲れない地位にまで、私を召し上げて下さいました。感謝してもしたりません。それに、彼方は私の甥何ですから、大切です。今では、姉以上に」
「そう言ってくれるか? 有り難う」
「いいえ。感謝するのは、私の方です」
「お前がそれを手にするのは、お前の努力の賜物だよ」
「滅相もございません」
頭を下げる。
「お前は、今まで良く努力したよ。姉さんの罪を償う為だったとしてもな。お前は姉さんの犯した罪はもう償っているよ」
「有難うございます」
聖は何かを考え言う。
「もしかしたら、お前の為かもな」
「えっ?」
驚いたように言う。
「お前のことを考えたら、言ったらこの家で仕えにくいだろう? お前の家は分家の中でも本家に近かった。だから、お前の姉は総帥と結婚できたんだ」
それに、茅場も頷く。
「そうですね」
「お前をきちんと評価させるには、逆にそのを素性を言わない方が良いと父様は思ったんだ。私が誘拐されたとき、自らの危険も顧みず、飛び込んで来てくれたから。お前なら、私を預けられると信頼されたんだ。でも、そこまで私が思われているとは、思えないけどな」
「いいえ、彼方は一度は愛しあった愛の結晶です」
「それ辞めろ、何か恥ずかしい」
聖が言うと、茅場は笑う。
「そうですか?」
茅場はキョトンとする。
「ああ、自分の両親のことだから、複雑だ」
「そうかもしれませんね」
「ああ」
聖は複雑な表情をする。
茅場はそれに、笑う。
「どうやら姉は、自分の息子にも多大な迷惑をかけた様だ。申し訳有りません」
「何がだ?」
「姉が多大な迷惑を押し付けた様で」
「お前には何の責任もない。そうだろう?」
含み笑いで聖は言う。
「そう言ってくださいますか? 有り難うございます」
茅場は頭を下げる。
「それより早く行こうぜ」
騰蛇は言う。聖は苦笑いで言う。
「悪い悪い。気をつけて行って来てくれ。もし、危なかったら下手に手を出すな。お前達のすべき事は、今回、その犯人を探すこと。倒す事ではない。それを肝に命じておけ」
「御意」
茅場は頭を下げる。騰蛇は、笑って言う。
「仕方ねぇな。それじゃあつまらんけど、了解」
そう言って、茅場は遠見に入り、騰蛇は茅場の意識を追い消える。
「暇だな。待つだけか」
何かの気配に気付き、聖は眉根を寄せる。
「遠路はるばる、何用か? わざわざ、彼方が来なくても宜しいのに」
「そう思ったんだが、あんたが、私を探しているようなのでな。私は探られるのを好まぬ」
「先に手を出したのは、彼方です。それで嫌いなどとよくいえますね。探られたくないなら、篁に手を出すな。次は消すよ」
聖がニヤリと笑えば、相手は面白そうに笑う。
「八神将を式と持つ私と十二天将を式として持つ彼方とどちらが、強いでしょうね」
「さぁ、それは分かりませんが、八将神を式として持つ彼方の方が強いと言いたいなら、それこそ浅はか。彼方は確かに神を式として持っているのかもしれない。でも、所詮使役されているもの。変わりはありません」
相手はそれにちょっと驚き気分を替えした様に、不敵に笑い、
「彼方と次、対峙するのが楽しみですよ」
と言って、消えた。
聖はそれに、後をつけるよう、護符を投げる。護符は姿を鳥に変え、彼の後を追う。
「さて、あいつらは大丈夫かね」
そう聖が溜め息をついた時、送り出したものが傷だらけで戻って来た。
「如何した? お前達」
「待ち伏せしてやがった」
「そうか?」
「あれは賀茂家だ」
「賀茂家か? 厄介だな」
「賀茂家ごとき、俺様の敵じゃない」
「勇ましいね。そう言ってられれば、良いが」
茅場が不思議そうに言う。
「如何言うことですか? 敵は賀茂家だけじゃない?」
「察しがいいな」
聖は面白そうにそれに笑う。
「先程、わざわざ宣戦布告に来てくれたよ」
「と言いますと?」
「お前達が行った後にな。その者は土御門家の者だ」
「と言うことは、篁家の敵は少なくても二家ですね。土御門と賀茂の二つを相手にしなければならないと言うことか?」
茅場の言葉に聖は頷く。
「ああ、そうだ。こう考えると厄介だな」
「そうですね。天魔十神刀と北斗七星を式として持つ者達を相手にしなければならないのですから。でも何故、その二家が手を組んだんでしょうか?」
「さぁな。でもいずれ解るだろう。誰かが、二家を束ねている。それが判明するまで時間がある。私のやるべき事は、その時間内で十二天将に慣れることだ」
「そうですね」
「でも、誰かね?」
「誰とは?」
「彼らを操ってる者の正体さ」
聖は面白そうに笑う。
「正体ですか?」
「ああ、そいつは天魔十神刀と北斗七星を相手に出来るだけの力を持つ者と言う事だ」
「そんな力の有る者など、今ではこの篁家と何処でしょうね?」
茅場が言うと、聖はおかしそうに笑う。
「陰陽道も今では、廃れているからいないな。でも、そんな今だからこそ、新たな家の出現が有るかもな」
聖はそう言ったのだった。それが外れていないことは、この後に分かる。
「まぁ、それまで私は修行だ」
「ええ、頑張って下さい」