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闇から出ずるもの  作者: まめ
陰陽師として動く(改訂版)
6/21

聖の婚約者

父はその後結婚し、母と妹が出来た。やはり、うるさい連中がいたが、聖は自分が矢面に立つことで、それらを黙らせた。

と言うか、言わせなかった。

「私にも何も言わせないつもり?」

そう言ったのは、聖の婚約者の立場の美香ミカだった。

「なんだ、お前か?」

そう言った聖は美香を見る。

「何だじゃないでしょう。婚約者に何の相談も無く、こんなに大切な事を他から聞かなきゃ行け無いのよ。相談して欲しかったわよ」

「悪かったよ。こうすると決めたのは、私なんだ」

「そうでしょうね」

美香は、呆れたように言う。

「彼方にとっては、私なんて視界にも入らないんでしょうね」

如何やら、相当怒らせたらしい。それに、苦笑いするヒジリ。

「そんな事は思ってないよ」

「そうかしら? こんな大事な事を聞かされず、他の人に『あら、知らないんですの?』って馬鹿にされる気持ち分かってない。どんなに、肩身が狭いか彼方には分からないんでしょうね」

美香は、泣き出す。困ったように、聖は言う。

「悪かった。お前に言うべきか、本当は悩んだ。多分、お前なら俺がやろうとしている事を応援してくれるって、でも、言えなかった。お前が万一反対したら、俺は出来なくなるって、思ったから、意気地なしと言ってくれ」

「言えるわけないじゃない。私は、彼方がどんな選択をしてもついて行くわ」

そう言って美香は、聖の懐に飛び込む。聖は優しく抱きしめる。

「俺が行こうとしている道は、茨の道だ。でも、お前にはついて来て欲しい」

「たとえ、くるなと言われてもついて行くわよ。私を甘く見ないで、欲しいわ。彼方の婚約者に指名された時から、覚悟は出来ているわ」

「そうか。ありがとうと言うべきかな」

聖は笑う。

「礼ならいらないわ。彼方は、両親を亡くした私に生きる希望をくれたもの。だから、たとえ彼方に愛人が出来ても文句は言わないわ」

「愛人って、お前ね」

聖はそれにため息をつく。美香はおかしそうに言う。

「だって、愛人にうちの娘をって勧められているんでしょ?」

その通りだった。しかし、我が子を愛人にと差し出す親の気持ちは全く解らない。

それだけ、総帥の座をそんなにも、自分の近くにおいて置きたいものかと思うと、そう言った娘が憐れで為らなかった。

「言われているが、お前止めろよな」

「えー、面白いのに」

と、ケラケラ笑って言う。

「そうだろうな? お前止めろよな」

「止められるわけないじゃない。だって、私なんか、父様達が篁に仇なす事をしたんですもの、何をやられても文句なんか言えないわ。そうでしょ?」

その言葉で、美香が、未だに罪の意識に苛まれている事が分かる。

聖は力強く美香を抱きしめると言う。

「もう、良い。お前が、償う必要はないんだ。多分、お前の父親もこんな大事に発展するとは、思わなかったんだ」

「でも、罪です」

「これから生きる、お前に良い未来を作りたいと望んだだけだ」

「でも」

「でもじゃない、娘のお前が信じずどうする?」

美香の顔を覗き込む様に言う。すると、美香も頷く。

「それで、良い」

「これから、聖はどうするの?」

美香が、聞く。

「篁の邪魔となるものの排除、対決かな?」

「でも、どうやって? 敵は判明しているの?」

「判明はまだしていないが、茅場が何か拾って来るだろう」

「じゃあ、聖から、出来る事はないの?」

美香の言葉に聖は頷く。

「ないな。でも、茅場が何か拾ってくるだろう。長年、伊達に奴は当主付きだったわけじゃ無いだろうし」

「ねぇ、私が狙われる駒になるのは? 一応、彼方の婚約者出し、狙われるにたる人間だわわ」

「お前、何を?」

美香が、言おうとしている事が解らず、聖は戸惑う。

「私なら狙うだけの理由があるわ」

「お前にヤらせるぐらいなら、俺がなる。でも、それは茅場の答えを聞いてからだ」

美香は、涙ぐみ言う。

「聖」

「私はお前を犠牲に晒す気はない」

「でも」

「煩い。それ以上何も言うな。俺は今凄く自分のいたらなさにヘドが出そうなんだからな」

「ごめんなさい」

「何も言うな」

そう言われ美香は、口を閉じる。口を閉じた美香に、聖はハッとする。

「悪かった。言い過ぎた」

美香は、首を振り言う。

「全然、違うよ。聖は優しい人ね」

「私が優しいなら、今回誰も犠牲にしないよ。でも、それは無理だ。卓兄には、悪いが今回は犠牲になって貰うよ」

「それが優しい証拠よ」

何が言いたいか分からず、美香に聖は首を捻る。

「彼方は他の人が想いもよらぬ所で、傷を負う。それも、本人の自覚がない所で」

「そうか?」

聖は美香の言葉が分からず、首を捻る。

「ほら、そう言うところ」

「これは、自己満足じゃないか?」

「そう言ってしまえるのも、優しいところよ」

「分からないな」

「それで、いいじゃないの? 私だけが知っているなんて、たまら無いわ」

「それは良かったですな」

呆れたように、聖は言った。

「なんせ、婚約者の存在すらも、彼方は忘れていたみたいだしね」

「申し訳ない。忘れていたんじゃない、ただ考えない様にしていただけだ」

「その心は?」

「障害になりそうなものは、こう言う時考えないようにしているんだ」

「つまり、わざとだと」

怒って美香は、言う。

「美香も、知っての通り俺はそんなに器用じゃないんでね」

そう言ったのだった。

「聖って、器用貧乏よね」

「それは、褒め言葉として受け取って置きますよ」

「褒めているんだもの、受け取って貰わなければ困るわ。聖の場合、ただ人よりうまく出来るの超えて、超越してしまっているの」

「それは凄いな」

「そうよ。だって、彼方は私が父の事で責められていた時に庇ってくれた。それだけじゃない。誰も手出し出来ないように、婚約者にしてくれた。その時の言葉が『こいつは、今後、私の婚約者だ。この者に何か仕様とする者は、当家に仇為す者と粛正される。それを心得よ』って、言ってくれたよね。嬉しかった。おかげで、向かって来る人はいなくなった」

「表向きはな。影で色々ヤられたろう」

「影ではね。でも、彼方がいたから」

嬉しそうに笑う。

「それは、良かった。でも、許せんな」

「って、許してなかったじゃないの」

「バレタか」

「バレルに決まっているわ。翌日から私を見ると怯えて、私に手を出した人達は逃げるようになった」

「う~ん、根性がないな」

「それだけ彼方はカリスマ性を持っていたって言うことよ」

「そうなのか」

「ええ、そうよ」

美香は、自分のことの様に笑う。

「だから、私はどんな事があってもついて行くわ。それが、私が返せる事だから」

「私は、お前に守れなかった母を重ねているのかもしれないな。だから、返そうなんて思わなくて良いんだ」

「彼方が自分の満足の為なら、私も自分の満足の為に彼方について行くわ」

「お前」

聖は笑うしかなかった。

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