当主の座を譲ってもらう
そして、行ったヒジリたち。そこは、銀座なのに閑静な住宅地であった。
「案外閑静なものだな」
「道を外れれば、銀座とは言えこんなものですよ」
「じゃあ、行くか」
「はい」
茅場は先を歩き、こ洒落たマンションへと行くと、一つの部屋の前で止まる。
「ここです」
「そうか」
そう言ってチャイムを押す。
「はい」
っと出て来たのは、若い女の人だった。彼女は、茅場を見ると驚いた様に目を見張り、聖に気付くと、頭を下げた。
「申し訳ありません。彼方からお父様を奪ってしまって」
「なぜ、頭を下げる必要がある」
「だって、彼方からお父親を奪ってしまいましたわ」
「私は貴女に感謝している。孤独な闇から、父を救ってくれて。ありがとう。感謝してもしたりない」
聖の言葉に彼女は驚く。
「こちらこそ、ありがとうございます。認めてもらえないものと思っていました」
女の子が出てくる。
「この子は、響と言います」
お母さんの腰に抱き付く。
「何歳ですか?」
「5つになります」
「可愛いな。茅場、お前の言った通りだ」
そう言い、彼女の背の高さに、聖は屈むと言う。
星以外の兄妹は認めないと言ってたハズなのに、どうやら実際彼女に会い変わったようだ。
「宜しくね、響ちゃん、私は聖だ。これから、仲良くしてくれるかな?」
彼女は、激しく頷く。
「ありがとう」
ニッコリ笑って言った。
「もし、良ければ、ここでの父を教えて下さい。私は達観している父しか知らない。多分、貴女たちには全然違う父が見れているのだろう」
「別に変わったところは?」
「そう言えてしまえる時点で、父の別の顔を見えている証拠。ここではどんな、父親何ですか?」
「ここで話すのは、難しいです。上がって下さい」
そう言ってスリッパを、出し中へ案内する。聖達は、続いて入る。
「では、お邪魔します」
唐突に彼女は、言う。
「あの人は、孤独な人です」
「ええ、そうです。それを、貴女は救って下さった。心から礼を申し上げます」
頭を下げる。驚いた様に止める。
「頭をお挙げください。私が救った分けではありません。私も彼に救われました」
そう言った彼女に驚く聖。
「彼は、貴女を救いましたか?」
「考えられませんか?」
「ええ」
「あの人は優しい人です。けれど、厳しい反面、弱いところもある人です」
その言葉に聖はにが笑いする。
「これは、参りましたね。誰もが強い者として扱う中で、貴女だけが正確に読めていたんですね」
聖は笑う。
「彼の想いに貴女だけが気付いた。それは、自慢して良いことです。本妻に成りなさい」
「ですが、彼の家は凄い旧家だと聞いています。私の入れる余地なんか」
「私が微力ながらお手伝いさせていただきます。誰も口出し、させません」
聖がそう言った時、玄関が空く音がすると、見慣れた姿が入って来た。
聖が意地悪く笑うと、相手は顔をしかめた。
「お久しぶりです。父さん」
驚いたように顔を顰める。
「お前如何して?」
「お父さん、彼女と再婚なさい。それを私もお手伝いします。だから、茅場を返して下さい」
聖が言うと、父親は驚く。
「お前、それが言いたくって来たか? お前も暇人だな」
「彼女に一緒影の生活をさせる気ですか?」
「そ、それは。だが」
「私もお手伝いしますよ。親方様、いえお父さん、他の者には口出しさせません」
聖が当主のことを、お父さんと呼ぶのは、久し振りだ。
「お前、何が望みだ」
「話が早くて助かります。茅場を返して下さい。そして、私に総帥の座をお譲り下さい」
それは、聖が父親にして上げられる唯一のこと。息子として、今まで、走り続けた父親に。せめてもの、贖罪。母は、直ぐに投げ出しそれでも護って来た彼に。
「お前? 引き受けてくれると言うのか? 」
「ええ、したいことがあるので、それには今の地位にいるわけにいかない」
「何か解らないが、お前がしようとすることに、私は信頼しているよ。お前は知らないだろうがな」
「これは、嬉しい誤算」
聖はニッコリ笑う。
「お前に当主の座を渡す。茅場も返そう」
「ありがとうございます」
嬉しそうに言った。
「でも、お前は複雑じゃないのか」
「全然。だって、私は母に会った事も在りませんし、いないのも同じ」
「お前には可哀想なことをした」
「同情ならいりません」
聖はピシャリと跳ね除ける。
「それは、彼方が謝ることじゃない。彼方は一人で彼女が、逃げてからも、ずっと一人で立ち向かわねばならなくなった。今まで、ご苦労様でした」
「そう言ってくれるか」
嬉しそうに言う。
「ええ」
「ところで、何をしようとしている?」
聖が一瞬言うのを躊躇うと、茅場が言う。
「卓が聖様に勝負を挑んで来ました。それに対抗するには、対抗出来るだけの力が必要です」
「卓か? でも、今更何故?」
そう言って、自分なりに納得する。
「私のためか」
「ええ、私が彼方の築き上げたものを、壊そうとしているから」
「あの子は昔から私を敬愛してくれていたもんな」
にが笑いする。
「卓兄は、父様を今でも敬愛しております。だから、父様が築こうとしているものに、傷をつける私が許せなかったんだと思いますよ」
「そうか。あいつは、いつも私の後をついて来たからな。志帆の時も止めるの大変だったもんな。あいつ」
志帆とは、聖の母親だ。
「私は篁家で誘拐された。それだけで、消す理由になりますね。卓兄様ならやりますよ。だから、私も受けて立たねばならない」
「そうか」
納得する父親。
「私はある意味あの子にも可哀想なことをしたか?」
「していません。たぶん、再婚すれば、一度はそちらに向くでしょうが、私が当主になれば、卓兄の目線は自然とこちらに私に向くはずです」
父は驚く。
「自分が贄になるともうすか?」
「贄になる気は、ありませんよ。ただ、仕掛けて来る勝負には答えます」
ヒジリは、ニッコリ笑う。
「そうか、済まないな」
「いいえ、全然」