敵は卓兄だけじゃ無い?
本当の事が分かった聖は、家へと帰る。正直複雑だ。
「俺が聖なのは、分かったが、それを受け入れる気にはならない。それに、親方様があのルールを作ったのは、解せない。あれには、どう言った意味が有ったんだ?」
聖は首を傾げる。
「何が分かりませんか?」
そう言われ一つの考えが浮かぶ。
「親方様が私の事を思い作ったルールだとしても、あそこまで、徹底してやるものか?」
「疑問はそれだけでないでしょう?」
「ああ、何故、私は十二天将の存在も忘れてしまったんだ」
「それは、あなたがご自分を星様だと思ったからでしょう?」
「それだけじゃ、説明が付かない」
「如何言う事ですか?」
不思議そうに聞く?
「十二天将なら、私が例え記憶が無くても、十二天将は自分達で勝手に出て来れるぐらいの力がある。それが、何故出て来れなかったのか? 出て来れない様にしていた奴がいるからだ。十二天将を眠らせてな。こんな力のある奴は、余程の力を持つ者だろう? 茅場、ちょっと調べてくれ」
「はぁ」と、頭を下げる。
「それが、卓の可能性は?」
「それは無い。我々、篁は、十二天将を眠らせるだけの術を持っていない」
聖が否定する。
「では、篁より、力のある者がいると?」
「それは、わからんが? 卓兄ならこんな回りくどい事なんかせず、正面から来るだろう。仮にも十二神将の使い手なのだから」
「そうですね」
茅場も頷く。
「卓なら確かに」
茅場もそれには、納得する。
「困ったなぁ。と言う事は、敵は卓兄だけじゃ無いってか?」
「そう言う事になりますね」
「でも、一体誰だ?」
聖は考えても分からない。
「取り敢えず、聖様は、今は十二天将を使いこなせるようになって下さい」
「ああ、でも、簡単に言ってくれるよな」
「簡単で無ければ困ります」
茅場は言う。
聖はそれに頷く。そして、一つの考えとぶつかる。それに、聖は可笑しくなる。
「お前、私を守るために親方様と、一体どんな取引をした?」
茅場は言いにくそうだった。それを聖は促す。
「言え。隠すな」
「初め助け出された頃、彼方が凄く取り乱していて、親方様と聖様を星様として扱おうと決めました」
「ふ〜ん、それだけと思えんが?」
「彼方に、憎める相手、この場合親方様ですね。親方様を憎めるようにする。だけど、その代わり私が親方様のサポートを」
「私は、そんなに愛されていたんだなお前達に」
それを聖は感謝する。
「ええ」
「私は、そんなにも愛されていたんだな。でも、それに私は今の今まで気付かなかったよ。お前達の愛に」
「いいえ、そんな事宜しいんですよ。私は彼方を助けられたことが嬉しい。でも、申し訳ありません。あなたに、厳しくしすぎてしまいました。申し訳ありません」
「それは、全然構わん。これを気にお前を私の元に戻す」
「ですが?」
茅場は聖の事を思っている。それが、分かるから聖は自分の意志を伝えることが出来る。
「もう、口を挟ませない」
「分かりました。絶対に彼方の元に戻って見せます」
「有り難う。私を選ばせた事を後悔させない」
含み笑いを浮かべながら、言う。
「最初から、私は彼方について行くと決めてました」
きっぱり、萱場は言う。
「本当に彼方だけが、私の主人です」
「有り難う。お前の事は信頼しているよ」
聖は笑って言った。
「思い立ったら、善は急げだ。親方様の今のいる場所は?」
「たぶん、この時間なら、何処かの会社かと?」
茅場に聞くと、茅場は何事か考えながら言う。聖はそれに気付き言う。
「茅場、正直に言え。私に隠すな」
そう言われると、諦めたように、
「たぶん、銀座だと思います」
「そうだろう。私には、妹もできていたはずだ」
聖が言うと茅場は驚いていた。
「どうして、それを?」
「分かるさ。たまにしか帰って来ない父。外に何か有ると思っても不思議じゃない。そう思い10年前に自分で調べたよ。驚いた。あの人は、母しか愛せないと思っていたから、出来たんだと、複雑だった。あの人は外で安らげる場所を見付けたよ」
「自分だけね」
茅場は当主に向かって、軽蔑したように言う。聖は、それに笑う。
「そう言ってくれるな」
聖は思っていることがあるのか言う。
「彼は、自分のすべき事はやったよ。多分、重かったと思うよ」
「子供にそれをバトンタッチしてね。狡いです」
「信頼出来る家臣が一人もいない中でやるのは、キツかったと思うよ。でも、私にはもういる。お前がな」
聖は笑って言う。それに、感動したように茅場も言う。
「私も彼方に仕えられて幸せです」
感極まったように茅場は言う。
「そのためにも、お前を返してもらわなきゃな」
「ええ」
そう言って、茅場は涙ぐむ。
「ついて来てくれるか? たぶん、茨の道を進む事になるぞ」
「喜んで、彼方となら、どこまでも一緒に行きます」
そう言ったのだった。
「で、まず、如何しますか?」
「決まっているだろう? お前を返して貰うさ。当主が今隠れている家に乗り込もう。家族団欒の時に無粋だが、妹にも挨拶したいしな」
「それをまず、やって下さって。光栄に御座います」
「頭は下げるなよ」
と、止めた聖。
「お前に頭を下げられたら、私もお前に今後頭を下げなきゃいけなくなる」
そう笑って、聖は笑って言った。
「分かりました。下げません」
「じゃあ、いくか。場所は、お前知っているのだろう?」
「ええ、何度か行ったことあります」
「それは、良好」
「じゃあ、早速行きますか?」
「ああ。そうだな。親方様が帰ってくる前に行こう」
「ええ。文句の一つでも」
「文句を言う気無いよ。言うとすれば、感謝だな」
「そうですか。じゃあ、行きましょう」
その言葉に安心した様に、茅場は言う。
それに、頷く聖。
「ああ」
「会ったこともあるんだろ?」
「ええ。可愛い子ですよ」
興味なさそうに、聖は答えた。
「そうか」
「興味なさげですね」
茅場はクスリと笑い言う。
「そうかもな。私の兄弟は星だけで良い」
キッパリ言ったのだった。
「では、何をしに?」
「お前を返してもらう以外、何がある」
「そうでした」
苦笑する茅場。
こうして、聖の止まっていた時間は動き出したのだった。