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闇から出ずるもの  作者: まめ
闇から出ずるモノ(改訂版)
2/21

スペーアとして

(何で、お前は私をおいて死んだ? どうやって? どうして? なぜ、お前なんだ? どうして、私じゃなかったんだろう? 私が死ねば、良かったんだ。私は元々お前のスペアーとして存在してるのに。だから、父もそれを無言で責めている、私を。お前がなぜ生き残ったと。それも当然か?)

自重気味に、笑い。そう思うと、聖はおかしかった。

(お前は私のその存在意義をまるで、無視して、どうするよ)

考えても分からない聖は、父親が変なルールを作る前にいたお手伝いさんにあいつの死因を聞いた。何でも、私たちは誘拐され、あいつが殺害されたところを助け出されたらしい。

(私は、その時何をしていた? なぜ、庇わなかったんだ。お前はこの家になくてはならない存在なのに。庇われて、どうする?)

ここら辺の謎も卓の出す問いを解けば、わかっていくだろう?

分かった時には、今度こそお前のスペアーとして、自分を捨てて生きるよ。

それで許してくれ。

聖はそう、願わずには、いられなかった。

聖が起きて物思いに耽っていると、襖の向こうから茅場に声を掛けられる。

「早朝から申し訳、ありません。当主が先ほどお戻りになりました。どうなさいますか?」

茅場の問いに聖は苦笑いする。一見、聞いてはいるが、その実、本当は返答など、聖には求められていない。もう、行くことが決定しているのだから。

「わかった。着替えて、すぐ行く」

聖は、制服に身を包むと、父親の部屋へと茅場と行く。

「どうなさいました? 表情が険しいですね」

茅場は聖に昔ついていたせいか正確に聖の思いを読む。聖はあまりの正確さに、思わずにが笑いをする。そして、今回は正直に言わずごまかす。茅場は、それにも気づいたが、優しく騙されてくれる。

「ただ、卓兄は、どうやってくるかなって、思って、考えると面白い」

「たぶん、卓のことだから、予想外の行動じゃないか」

「ふ〜ん。お前も、聞いていないのか?」

卓と仲の良い茅場も聞いていないとは、驚きだ。聞いているかと思っていたから。

「あいつとは、互いに一番大事なとこで相入れないですから。そもそもあいつとは一番、守りたい物が違います。私は、それを誤りたくはない」

「ふ〜ん」

一番、守りたいものとは、なんだろう? 茅場は、間違いなくこの家だ。では、卓兄はこの家の他に何かあるのだろうか? 考えても分からない。

まぁ、いい。いずれ、それも分かるだろう?

「まぁ、取り合えず、親方様に、そのように申し上げてきます。物思いに耽るのも、そのぐらいになさいませ」

茅場は頭を下げて引く。

一人残されると思考は今度は、その親方様へと向かう。会うのは、久しぶりだ。もともと家に帰ってくるのは、年1、2回あればいい方である。前回、会ったのは、この家の会合だった。それも遠くから、見ただけである。親子として対面したのは、いつだったか。もう思い出せない。

そのぐらいの付き合いしかない。だから、普通の子どもが父親に対して持つ思いというものが、聖にはわからない。

 聖の家は代々続く、いわゆる旧家と呼ばれる家柄で、そういう家柄は、ご多分に漏れず、血筋を何よりも大事にする。当然、聖の家もその例に漏れなかった。

 徹底した余所者排除の考えは、会社経営の場にも、その考え方の片鱗を窺わせた。会社の重役は全て、一族の者で占められていた。だから、外者はどんなに才能があっても上れない。例外と言えば、茅場ぐらいだろう。どうやって、入り込んだのか、外者である茅場が親方様付きになるなど例外中の例外だ。それを、母はイヤだと言って出ていった。そして、この家のとった行動は、連れ戻すでもなく、もとからいなかったものとして、その存在を消した。文字通りいなかったものとして扱った。初めからいないものとして、扱われる母。でも、星がいる限り、それは出来ない。因果なものだよな。

星は、思う。自分の存在が生む悲劇を。

足取り重く部屋の前まで行くと、茅場がいた。無視して通り過ぎようとすると、腕を捕まれる。

「今更ですが、朝の挨拶ぐらいしなさい。それが、どんなに気に食わない相手でもね。私の教えは守られていないみたいだね」

「これは申し訳ありません。おはようございます、茅場様。当家に挨拶がしたいのですが、入ってもよろしいですか」

棒読みのように、聖は言った。だが、それに、茅場は何も言わない。

「どうぞ」

襖を開け、茅場は頭を下げる。聖は部屋へと入ると、その場で正座し、頭を下げる。

「お帰りなさいませ。先ほど帰ったばかりと聞きました。お疲れさまです。お疲れでしょうから、長いは禁物、私はこれで」

聖が下がろうとすると、初めて声が掛けられる。

「お前は、『聖』(ヒジリ)以外の何者でもない。ゆめゆめその事を忘れるな」

父親はなぜかセイヒジリと呼ぶ。それは、何故? 私にヒジリだと忘れさせないためか。徹底してるよな。と思うセイ。

初めてかける言葉がそれかっと、聖は悔しく思う。

ギュウッと手を握る。

「また、変な気を起こすな」

聖の瞳に一瞬の、殺意が浮かぶが、すぐに何事もなかったかのように、落ち着いた表情に戻る。かつて、あいつが亡くなったばかりの頃、死のうと庭の池に飛び込んだことがある。その時、助けたのが茅場だった。そして、父親にすごい怒られた。

「お前が聖のスペアーなら、それをきちんと演じろ。それが、お前の役割りだろう」と、頬を叩かれた。

何でも、聖には記憶がないが、助け出されたとき、警察の拳銃を奪い、自殺しようとしたらしい。

「何度もチャンスはないぞ。肝に命じておけ」

「御意」

聖は頭を下げ、部屋を出る。

(いったい、いつまで続くのだろう? そろそろ、緞帳を下げても良い時期なのではないだろうか?)

廊下に出ると、思わず溜め息が漏れた。

(これが、俺の望んだものだったのか?)

と、疑問に思う。

(幸せになれるはずだった。幸せってそもそも、何だ? だって、その時は一度としてこなかった)

聖には、もう分からない。

嘘で塗り固められた世界。

あいつはいつも素直に感情を出していたっけ。と、しょうもないことを思い出す。昔から、たまにしか顔を合わせなかった父親を前に、あいつは喜びを素直に表現していた。それに加えて、自分はどうであっただろうか?

いつも、あいつは言っていた。

「お父さん帰ってきて、嬉しくないのと」

正直、複雑だった。

でも、あいつはそれに怒ったっけっと、思い出しクスリと笑ってしまう。

「僕が子供見たいじゃないか」と。

でも今ならわかる、お前の方がずっと大人だったと。私はひねくれていただけだと。

「うまく表すことの出来無い感情」

それを、思い溜め息をつく。

「顔の良い人間がため息をつくと、それだけで絵になるね」

なぜか、茅場がいた。

従業員用の控え室に戻ったと思った茅場が笑いながら、言う。

「久しぶりの親子の対面は、いかがでしたか?」

それで聖は気づいた。茅場は私に、これが聞きたくて、ここにいたのかと、思うと、暇人だなと思う、ヒジリだった。

その問いに、無視して通り過ぎようとした聖を、もの凄い力で引っ張り止めさせたのは茅場だった。

「……っ」

聖は一瞬、顔をシカメ茅場を睨みつけるが、茅場には何も応えた様子はない。

「目上の者に尋ねられたら、きちんと答えなさいと、これもまた、教えたと思いますが。礼儀として、良くないですよ。どうやら、私の教えは、まるで守られていないみたいだね」

「イヤ、これ以上ないぐらい守っているさ」

聖は、そう言って、力付くで腕を取ると、歩き出した。茅場もついてくる。

「どんな、教えだい?」

 聖は歩みを止め、振り返り、意地悪く言う。

「自分に慣れ慣れしく近づいてくる人間には、警戒しろ? だろ? だから、警戒しているさ。これは、間違いなくあんたの教えだ」

 言外に茅場を信用していないという。茅場はそれに、面白そうに笑っていう。

「それで、いい。で、如何でしたか?」

「いつもと変わらず、挨拶をしたよ。これで、満足か。変な態度はとって無いさ。お前の大切な親方様には失礼なことは何もして無い」

そう言うと、茅場は、困った顔をした後、笑う。

「それは良かったです」

何故困った顔をするのか、この時の聖には、分からなかった。

部屋に戻ると、机の上に先程までなかった何かが置いてあった。行くときには、なかったものだ。聖が怪訝そうにしていると、茅場は聞いてくる。

「どうしました?」

「卓兄からの問題が、早速来たらしい」

そういわれ、茅場もすぐ気づく。

「これは、作文ですね」

それは、子供の頃の聖の作文ともう一つ星と知らない子の名が書かれた、子供の作文だ。

茅場はそれを見て、すぐ顔色を変える。そして作文を破いた。

聖は焦って、止める。

「何してる?」

「あいつ、こんなことを、クッソー。何考えているんだ?」

と、怒って、部屋を出ていく。

聖は、それを丁寧につなげ、セロハンテープで貼る。

それは、未来の自分に宛てた手紙だった。

星と書かれていた方には、

『僕は、あいつのためなら何でも出来る。あいつは普段強いくせに、意外と脆いとこもあるから、願わくば、あいつが傷つかないで欲しい。未来の僕へ。あいつは、笑っていますか? 俺は、何があっても、お前を守るから。それが、僕の望みです』

なぜか、聖の目から涙がこぼれた。そして、聖の方もまた、相手を思う気持ちがつづられていた。

『願わくば、お願い。あいつがあいつが私を庇って死なないように、己が狙われているなら、死ぬのは私で良い。だって、あいつが死ぬ理由はない。未来の私へ。あいつを使わないで、星として最後まで生きさせて、あげて』

どちらも相手を思うもの。そして、聖の願い通り、聖は逝った。けど、聖の望み通りにはならなかった。私が聖のスペーアと言う事は、聖の望み通りにはいかなかった。私はこのセイってことか。わけもなく泣けた。

聖は悲しくなり、自分が今できる事をやろうとし、言葉を囁く。

「ナウマクサンマンダ、バザラダン、アモガセンダ、マカロシャダ、ソワタウン。タラヤマウン、タラタカン、マン」

と、自分に向けて術を使う。だが、それを阻む者が突然現れた。

「な、な、何。お前誰だ?」

「私は十二天将の一人、青龍と申す者。ご自分に術を使うのは、お辞め下さい」

「十二天将が、なぜ?」

「俺たち十二天将は、あんたの加護を受けています」

静かな口調で言う。茅場もそこに戻って来る。それで、茅場も気づく。

「如何したんですか?」

「こいつを一人にするな」

青龍が言う。

「何が?」

「自分に術を使いやがった」

そう言うと、青龍は消える。

「な、な、何をやってるんですか?」

茅場は聖に怒る。

「だって、私が、守らなければいけなかったのに、何をしてたんだ? 私は、そのためにいるのに」

「だって、じゃあありません。何を考えているんですか?」

「私はあいつのクローンとして、この世に生を受けたんだ。なのに、俺だけ生き残って如何する」

「そうです。ですから、あなたは彼の分まで精一杯、生きなきゃいけない」

星は泣く。

「でも、あいつは責めている」

「聖様は責めるような、お人でしたか?」

そういわれ、違うことに気づく。

『あいつは、私に星として生きて欲しいと願っていた。じゃあ、あの夢の子は誰だ?』

星はまた、振り出しに戻る。

「お前に頼みがある」

「何ですか?」

「私を誘拐現場に連れていって欲しい」

茅場は一瞬考え込む。あまり、連れていきたくないようだ。なぜだろう? でも、星は何かを決めたように言う。

茅場は溜め息一つつくと、

「私でよろしければ、いつでも」

「こうなったら、学校も休む」

「では、今から行きますか?」

「ああ。すまない。私は知らなければ。そうしなければ、何も始まらない」

「そうですね。そして、真実を追求してください。その先に何があろうとも。目を反らさないでください」

まるで、その先にあるものを、茅場は、知っているかのように言う。

星は聞こうと、思ったが止めた。

それは、私自身が探さなくては、いけないことだ

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