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闇から出ずるもの  作者: まめ
ここから新作
19/21

始動

「だが、どうする? 今後」

父が聞く。それに聖は言う。

「喧嘩を買うだけなのは、ムカつきますが、今は力を使うことに慣れる方が先。この際、無視しましょう。取り敢えず、今は依頼をやりましょう」

「そうだな」

卓も頷く。

「では、それで良いですか? 依存の有るものはいないか?」

聖の問いかけに、茅場は否定する。

「何も有りません。慣れることに私も賛成です」

「それは、良かった」

聖は笑う。

「じゃあ、まずこれだ」

一番上の書類を取ると、父は驚いたように、

「お前、選ばず全てやる気か」

それに、聖は笑って答える。

「ええ、まだ陰陽師としては、新米も新米。選べる立場では、ありません」

そう聖はキッパリ言い切った。それに、父も頷く。

「そうかもな。それに、陰陽師としての力も使い慣れるためにも、それが、良いかもな」

「ええ。と言うわけで、これだ」

と、真ん中から引っ張り出した。

それは、学生からの依頼だった。

「父様は響ちゃんの警護をお願いします」

「ああ」

そして、聖達は詳しく話を聞くため、呼んでみる。

そうしたら、夏休みでも、私立は補習があるらしく、今日の午後ならこれるとのこと。

「何が聞けるかな?」

面白そうに、聖は、笑う。

「何か楽しそうですね」

茅場は苦笑いで、言う。

「楽しいもん」

「そうですか?」

「ああ。さて、学生から何を聞けるかな? 面白い」

そうしていると、依頼をしてた学生が来る。

「で、どう言った被害が?」

「被害と言うか、その記憶がないのに、気付くと時間がたっていたり、私の場合、いつも英語の時間がないんです。でも、他の子は英語の時間がない子や体育の時間がない子なんかもいて」

「それは、陰陽師より精神科に行くことをすすめる」

卓が言う。

「えっ、そんな酷い」

女の子は泣き出す。

「卓兄、答えを出すのははやいかもしれませんよ。確かに卓兄の思っていることは、分かります」

「どう言うことですか?」

茅場は不思議そうに尋ねた。それに、聖が答える。

「多分、卓兄は、思春期に有りがちな解離性障害を疑っているのでしょう?」

「ああ」

卓は、頷き、茅場は首を傾げる。

「解離性障害?」

「ああ。精神疾患の一つだ」

卓が言う。

「解離性障害は、自分が自分であるという感覚が失われている状態だ。つまり、ある出来事の記憶がすっぽり抜け落ちていたりする、こうした中で、自分の中にいくつもの人格が現れるものを多重人格障害(解離性同一性障害)という。こちらの方が知っているんじゃないか?」

「ええ、聞いたことはあります」

「で、これらの症状は、つらい体験を自分から切り離そうとするために起こる一種の防衛反応と考えられている。今回は、それだということでしょう?」

「ああ」

「ですが、今回それが起こりすぎです。一人や二人じゃない。一クラス丸々です。多すぎます。全員がその疾患にかかったとしたら、何か心当たりとなることが有るはずです。その様なこと何かありますか」

「心当たりというわけでは有りませんが」

言い難そうに、彼女は言う。

「実は、うちの学校って、進学校で、ありがちな何でも成績で決めるんです。それが、クラス構成にまで及んでいて」

「有りがちだな」

「それから、逃げたく思っていたのかもしれません」

「その可能性は薄いな」

「何故です?」

「それが理由なら、他の学校でも起こるはずだよ。成績でクラス分けをする学校は今では多いからね」

「確かにな」

卓も難しい顔をする。

「ちょっと、行って見ませんか?」

「え? 学校にですか?」

驚いたように言う。

「そうです」

「ですが、うちの学校厳しくて、ただ見学と言うだけでは、許可しないと思います。まして、心霊調査なんて言ったら、逆にあなた方に不快な思いをさせてしまうかもしれません」

「大丈夫ですよ。心霊調査なんて、口に出しません。ただ、私達は進学希望と言いますよ。それなら、無下に出来ないはずです」

「確かにな。お前の学校なら、学校側は、喜んで歓迎するだろう」

卓は苦笑いで言う。

「ええ、こういう時には、あの学校の名があって良かったですよ」

嬉しそうに聖は笑う。

「あの学校って?」

「桜蘭高校だ」

「えっ、あの?」

「あのかどうかは分からんが、たぶんその桜蘭だ。でも、私の場合は陰陽師をしているから入れただけだ」

「何が、陰陽師の仕事しているからよ。学年で一番の人に言われたくないわよ」

と、美香は言った。何時の間に来ていたのだろう?

「何の用だ?」

「いらなかったみたい、彼方にある高校を調べてもらおうと思ったんだけど、その高校の人が依頼に来ているなら」

「ふ~ん、つまりお前もこの学校に通う子に頼まれたんだ」

「正確には。頼まれてないわ。ただ、その子に話しを聞いているうちにおかしいと私が勝手に思っただけ。でも、それは徒労に終わったみたいね」

苦笑いで言う。

「その子は精神疾患じゃないかと、学校側に言われて、休んでいるわ」

「まぁ、普通ならそう言う診断を下すわな」

聖は笑いながら言う。

「それは、間違っていないよ。しかも一番繊細な思春期の時だからね。でも、数が多過ぎる」

「つまり、あなたの診断では違うと?」

「たぶんね」

クスクス笑う。

「では、何?」

美香の質問に、聖は笑うだけだった。

「それを探るためにも、行って見ないとね」

「何か思うことがあるんでしょう? 教えてよ」

「憶測で言うことにより、いらぬ誤解を与えるだけだ。それは、無意味だ」

「そう、彼方の手にかかると無意味になるのね。でも、それで救われる人もいるわ」

美香がそれに、喰ってかかると、仕方ないとため息をつき、言う。

「じゃあ、お前の友達に精神疾患じゃないとだけ言っておけ」

その言葉に美香は感謝する。

「有り難う。そう伝えるね」

と、言って出て行く。

それに、聖は溜め息を付く。

「忙しい奴だな」

女の子は驚いていた。

「茅場は、その子に話を聞いて見てくれ」

「はい。でも、彼方の警護は?」

「卓兄がいるよ」

ちょっと、訝しげに卓を見る。

「大丈夫だ。危なくなったら卓兄を生贄に私は逃げる」

「それなら良いですが・・・」

茅場を納得させ、早速向かう。

「お前な、俺を贄にする気か」

「茅場には、ああいうしかない。あいつは、私のためなら、自分の命を投げ出すよ。それをさせたくない」

「そう言うことね」

卓も納得する。

「さて、行こう」

そう言って、行った聖達は卓を兄とし、話を聞きたいと言った。

やはり、桜蘭高校の名はデカかった。

親切に案内された。

全員猫撫で声だ。

そして、聖は後は、自分達だけで見たいと言い、案内を断った。

で、早速、その問題となっている教室に案内してもらう。その途端、聖は吐き気に襲われ蹲る。

「ここは霊とは違うが、憎悪が凄い」

「憎悪?」

その女の子は何か思う当たることが有るのか、黙る。

「何か?」

「一年程前。先輩で、自殺未遂した子がいるんです。その子が座ってた席が、そこです」

と指さしたのは窓際の一番後ろの席だった。

「これは、生きている人間の信念か。何故、その子は自殺未遂を」

「学年が違うので、ハッキリとは分かりませんが、何か、先生に駄目だと言われたらしく」

「それを悲観して、自殺か」

「ええ、でも、わかる気がするんです。私も毎回駄目だ駄目だと言われると、駄目な人間のような気がしてしまう」

「人格否定か?」

「卓兄、その子と話せますか?」

「やって見る」

卓は頷くと、

「分かった。急急如律令我が声に答えよ。生き霊よ」

卓が言うと、面倒臭そうに、細面の男の子が出て来る。

「何?」

「今回の事件は君が起こしているのか?」

「違うよ。ただ、心に語りかけただけだ。それを、みんなが反応してくれて」

「で、如何したかった?」

「僕らは、社会に出たら無意味なことを、機会じかけの様にやらされている。何のために」

男の子が叫ぶ。それに、聖は言う。

「確かに、無意味だ。でも、人によっては、それが凄く役に立つ」

「如何言うこと? それは、人の存在価値を下げてしまえることなの?」

「存在価値とは比較にならないが、いらないとは言えない」

それを聞き、男の子は黙る。

「学ぶ事に意味のないもとはない。そうは、思わないか? 君の夢は?」

「電車の運転手だったけど、そんなものくだらないって、みんなに」

「それは、学校のせいじゃないね」

「でも、そうやってくだらないと判断させたのは、学校だ」

「でも、言われたことに従ったのは、生徒達だ」

「逆らえなかったさ」

男の子はそう言って泣く。

「本当に? 逆らおうとしなかったのに、そう言える」

「あいつらは、成績でしか俺たちを判断しない」

「だから、他の子の思いを利用してやったの? それは、学校のせい? 教師のせい? 本当に?」

「俺は利用してなんかいない。みんな、俺と同じ思いだっただけだろう? それを、俺のせいにされても」

「先導しただけってか? お前一度、よ~く考えてみろ」

そう言って、卓は彼を体に返す。

「取り敢えず、あいつではないな。あいつに呼び寄せられた鬼がいるな」

それを聞き、聖は、笑いながら、

「引き摺り出してやる」

ベロっと舌を出す。

「怨敵降伏、処現したまえ」

そして、呪符を投げる。

鬼を呼び出すことに成功した聖達は、次の詞に移る。

「ちはやぶる神の御手を翳さば、悪鬼怨霊の影掻き消えて」

そして、静かに息を吐き、彼女に言う。

「終わりました。また、ご依頼があればどうぞ」

それに、少女は頭を下げる。

「有り難うございました」

「良かったですね。彼氏は何もやっていませんでしたよ」

「如何して?」

「分かったかですか? それは、貴女の態度を見れば、分かりますよ」

クスリと笑う。

「貴女からは、彼を攻める言葉は聞かれなかった」

「それだけで、流石ですね」

そう褒めた。

「では、毎度有り」

そう言って、聖達は帰った。

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