閑話:リオールの思い。
リオールの視点。
僕の故郷は、帝都から南に位置するジオラァリート地方にある。トットという名前の小さな村で、森で獲った獣の皮や角、木工細工とかで生計を立ててる小さな村だ。帝都まで行くのに馬車で5日ほど掛かるし、街道からも離れた森の中にあるから、村に訪れる行商や冒険者もほとんどいない。
来ると言えば、時々薬草採取に一番近い町から薬師の人が来たり、父や母の友人が訊ねてくるくらいで、外との交流もあまりない。だからと言って閉鎖的な村ではなく、ただ単に名物になるものが何もないのどかな村と言うだけ。
生活に必要なものは、村の雑貨屋(というか何でも屋かな?)であるボブさんの所で手に入るし、必要なら森で取れた動物の毛皮や角とかを月に一回ボブさんが荷馬車に乗せて街道沿いの町へ売りに行ってくれるから、その時に一緒に行ったり、仕入れてきてもらったりするからね。
もともと僕が帝都の学校に通うようになったのは、成人の儀のときに僕に中位二級レベルの魔力があることが分かったからで、でなければ僕もあの村で父さんの仕事を手伝ったりしていたと思う。今は、魔法師教育制度で国からの奨学金で帝都の学校に通ってるけど、村とは生活様式なんかが全然違うから、慣れるのに少し時間が掛かったのはいい思い出だ。まぁ、帝都や大きな町と比べれば確かに面白味が無い村だともうけど、僕はこの村が嫌いじゃない。
特に何処が好きだと言われると、ほんとに目につくものが無いから困るけど、僕は村から少し離れた森の中にある、少し開けた広場が好きだ。少し森に入るけど、村からはそんなに遠くない。なのに誰もやってこないこの場所は、僕の一番のお気に入りの場所だ。帝都にある神殿の中に入ったような、ピンと張りつめた空気があるのに、時折吹く風が穏やか。夏は涼しくて、ひんやりとしているから涼むのには丁度良くて、冬は逆に雪が積もっていてもこの場所が温かく感じるから、何かあるんだと思わせる不思議な場所だ。
母さんは帝都で暮らしてたことがあるらしく、神殿務めで法術師をやっていたらしい。怪我とか治したり、祝福を少しできるだけだって言ってるけど、村の中では医者みたいなことやってる以外はそれらしい姿を見たことないから本当かどうかは分からない。まぁ、僕の15歳の誕生日に村でやった成人の儀で、僕の魔力鑑定をしたのは母さんだし、法術師の資格を持ってるのは確かなんだけど、聞いても笑って答えてくれないから、今は聞かないようにしてる。
まぁ、母さんのことは置いといていい。あんまり根掘り葉掘り聞くと、父さんとの惚気話に突入しちゃうからね。あれ長いんだよなぁ・・・。
そういうわけで、帝都で生活するのも悪くは無いけど、僕は学校が長期休暇に入ると家に帰って家族と過ごすことにしてる。今回もそう、夏の休暇に入ると同時に、実家に帰ってきたわけだ。
妹や弟たちにお土産をわたしたり、父さんや母さんに帝都や学校でのことを話して、いつも通り過ごしてたけど、今回はいつもと少し違った。
その日は、いつも家の裏でやってる剣の稽古を、なんとなく森の広場でやろうと思って足を向けた。太陽は丁度真上にかかったころで、日差しが一番きつい時間帯だ。それでも、森の広場に近づくにつれて涼しい風を感じる。弟や、村の大人たちは良く分からないって言ってたから、魔力が関係しているのかもしれない。
魔力持ちは珍しくて、村でも僕と母さんくらいだ。学校でも魔法師教育制度があるから帝国中の魔力持ちが集まってるけど、それでも一クラスしかないし、その数も30名前後と言えばその希少性が分かると思う。
うん、まぁ・・・それだけ珍しいから魔法師教育制度で成人の儀のときに魔力検査して、魔力があれば強制的に学校に通って卒業後は軍に所属することになってるんだけどね。
だから、他の人から見れば、森の広場は少し開けた場所でしかない。その森の広場に、誰かがいるなんて思ってもみなかった。
見つけたときは、驚いた。
髪が短かったから、男の子かと思ったけど、変わった黒い服を着て、丈の短いスカートをはいてたから女の子だってわかった。
村では見かけたことが無い子で、太陽の光が当たって少し茶色に見える髪は、この国では珍しい黒。子供がたった一人でぼんやり立っていたから、どうしたのかと思ったけど、声はかけられなかった。
すると子供は、すぐに木陰に入って、ぺたりと地面に座り込んでしまう。
びっくりして隠れてしまったけど、子供は僕のすぐ近くの木に背中を預けてぼんやりとしているようだった。表情は見えなかったけど、知ってる子には似てた。
4年くらい前に、この森の広場で遊んだ子。
真っ赤な髪の保護者と一緒に、この森の広場にテントを張って、3ヶ月くらい滞在してた。
その子もこんな黒い髪で・・・
「そこで何してるの?」
話しかけたら勢いよく振り返ったその女の子は、あの子と同じ真っ黒な目に僕を映した。
――――おかえり。
なぜか、そう言いたかった。
この女の子にむかって、『おかえり』と言いたかった。
でも、その子は僕に、迷子だと言って頭を下げた。
なんで頭を下げるのかが分からなかったけど、親はいないみたいだし、こっぷれですか?とか聞かれたし。
やっぱり知らない子だなって、なんでお帰りなんて言いたくなったんだろうって思ってたら、よっぽどお腹が空いてたんだと思う。
ぎゅ~・・・
聞こえてきた小さな音に、「お腹空いた・・・」と呟いた言葉に、まあいいかって考えるのをやめた。
うちに来るか訊ねると、少し恥ずかしそうにしてたけど、ついてきたからそのまま連れて帰ったけど、まさか捨て子だとは思わなかったからちょっとびっくりした。
どうしてあそこに捨てたのか、それはあの子の親にしかわからないけど、話を聞いても分からないとかばかり。
話しを聞き終わった父さんが、この子を引き取るって決めたときは驚いたけど、後で話を聞けばそれには僕も同意した。
もしかしたら捨て子じゃなくて、どこかから逃げてきたのかもしれないって。
事情を聴いてた間は、口数も少なくてあまり話したがらないし、言葉にも迷いがあった。名前もツクシロと珍しくて、そして、僕らの顔色をうかがいながら話をしていた。これは、話したくないことや知られたくない何かがあるっていう証拠。人さらいか親からか、どこかから逃げて来たから連れ戻されたくないのかもしれない。
帝都に戻る日を少し早くして、帝都の神殿でこの子のことを調べて、可能なら養子縁組しちゃおうってことになった。必要な書類は母さんがすぐに用意してくれたから、こういうところで昔本当に神殿で働いていたんだなーって感じる。そのあと、一応親探しのために、冒険者ギルドでこの子の情報を探すことにした。一応探しとかしとかないと、誘拐になっちゃうしね。
10日間くらい僕の家で暮らしたけど、妹も弟たちもツクシロを気に入ってくれたようで、ツクシロのことをツゥと愛称で呼ぶよになった。だから、一緒に暮らすのには問題は無いと思う。でも、ツゥは僕らに遠慮してるのか、ご飯を食べる量も少ないし、時々申し訳なさそうな顔をする。
子供が(と言っても13歳らしい。そうは見えないけど)遠慮しなくてもいいのにって思うけど、こればかりは時間が掛かるものだから仕方ない。できれば、笑顔になって欲しいって僕は思う。
だから、帝都に出発した日のお昼に出された、見たことのない料理を見て、自分が作ったと笑顔で答えたツゥを見て、ちょっとうれしくなった。
使われてた初めて見るソースは、ルモルが混ぜてあるのか、ほんのり酸味があって肉と野菜を挟んだパンにとても合っていた。この子は料理も上手いんだなって、ツゥのことが知れてうれしかった。
まあ、そのあとボブさんが故郷の味か聞いたら、何かを悩むような表情になった時は、捨てた親との思いでだったのかもしれないと焦ってしまった。
思い出したくないことを、聞いてしまったのかもしれない。
首を振って答えるツゥに、どう声を掛けていいか分からない。その僕の態度に、逆に心配させてしまったくらいだ。
僕が兄になるんだから、しっかりしないと。
決意も新たに、ツゥのおいしいお弁当を食べて、休憩してたら魔獣の幼獣を拾ってるのを見たときは驚いたけどね。
どうしようか悩んでるようだったから、帝都の騎獣屋に引き取ってもらうように提案してみた。ホーンキャトラは需要もあるし、逃がすよりも帝都の騎獣屋に引き取ってもらう方が、ツゥにもお小遣いができるしね。
ただ、魔獣の名前が『アッリオ』なのは、この際事故だと諦めよう。付けられた経緯がアレなだけで、別にそこまで変じゃないし。
それに、あの・・・・あ、料理の名前聞くの忘れてたや。後で教えてもらおう。そして、また作ってもらおう。
そういうわけで、帝都までの道のりに新しく連れが加わったけど、帝都までは時間もあるし、いろんなツゥを知ることが出来たらいいなって思う。
―――――今度こそ、守るから・・・
僕が、絶対守るからね、ツゥ。
魔法師:魔術や法術といった魔法を使う人たちの総称。おもに、魔術メインは魔術師、法術メインは法術師と2つに分けられる。
魔法師教育制度:魔力がある人に対して適用される。魔力のコントロールを学ぶという名目で学校に通わなければならない。また、国から奨学金が出るが、学校卒業後は、返せない人は軍に所属して働いて返さなければならない。さらに、魔術師の中で、魔力が中位レベルの人に対しては、軍への所属義務があるため、お金を返しても定年まで軍属。
魔法師階級:成人の儀を行う時に、魔力判定もするので、その時にわかる。身分証を発行するので、そこに情報として記入される。
特位(計測不能) 出国不可・封具装着義務・軍籍取得義務・指定住居
上位一級二級三級 出国時身分証と許可書の提示・上位魔法師出国手数料・軍籍取得義務
中位一級二級三級 出国時身分証と許可書の提示・中位魔法師出国手数料・軍籍取得義務
下位一級二級三級 出国時身分証の提示・下位魔法師出国手数料
無位(魔力の無い者)出国可・身分証の提示
※魔術師は魔術師協会に入会義務がある。
※法術師は神殿に席を置くことが出来る。
騎獣屋:魔獣を騎馬のように乗り物として育てて、貸し出しや販売するところ。馬より力が強いので、商人や軍などが使用する。魔獣の調教料込なので、買うと結構高い。一般的には馬が多いけど、大きな傭兵団とかだと、戦力にもなるので騎獣を所有しているところもある。