いざ進んでる、街道の途中。
夏の日差しが照り付ける中、ガタゴトと揺れる荷馬車は、街道を進んで行く。
舗装なんてされていない渇いた黄土色の土が伸びる一本道に、四つの車輪が轍を描いては、巻き上げられた土が小さく舞あがる。
私の乗っている荷馬車に幌は無く、上を見れば晴れた青い空が見える。
時折、ガタンッと大きく揺れる度に振動がお尻に伝わり、クッションが欲しくてたまらないくらい痛くて仕方ない。
先ほどそれを言ったら、隣で私の手元を覗き込んでアレコレ指示を出していた美形さんが、寝る時に使ってるっていう毛布を貸してくれた。
そんな私は今、宿場町ロフルから王都まで、トット村に一つしかない雑貨屋を経営してるボブさんの荷馬車に乗せてもらって、少ない荷物と一緒に荷台で揺られている最中です。はい。
この馬車の前には、傭兵団【銀狼の盾】所有の幌馬車か先導している。ちなみに、野党とかが出てきたら退治してくれるそうです。雇ってないので、無償であることは町を出る時にリオールさんが確認しました。ぬかりないな。
まぁ、そんなわけで、私も向こうの要求は、ある程度はの聞かなきゃならないかなーって思ってます。元々、向こうさん方は、そのために同行を願い出たわけですけどねー。
そもそも私が帝都へ行くのは、帝都国立図書館と言うところで元の世界へ帰る手がかりを探すためだ。異世界トリップって、小説とかで読む分にはいいけど、実際起こるとめんどくさい以外ないと思う。
運よく拾ってもらえたからよかったけど、運が悪ければ即死亡とか、奴隷ルートとか、死霊のハラワタとか?とにかく最悪な事もありうるわけだからね。上空1万メートルとか、海底2万マイルとかだったら恐怖のち人生終了ですよ。
あー、アイス食べたい。
昨日も同じようなことを考えていたけど、もうすこし現実逃避していたい。そう思う今日この頃、皆様どうお過ごしでしょうか?
「次、ここを右に回して」
カチッ
「次はここを左に2つ回して」
カチッカチッ
手元のルービックキューブを、美形さん改めオーリケットさんの指示のもと回し続けること20分、くらい。
何でそんな状況になったかというと、かれこれ1時間くらい前から魔法具(どう見てもルービックキューブにしか見えないアレ)解明の作業を始めた方法にあるわけですよ。
これだけの時間があれば一面くらい色がそろうはずなのだが、最初の30分くらいは私がガチャガチャ適当に回していたおかげで、どうしても1か所揃わないっていう状態が続いていたのですよね。
それを見かねた、というか、観察して法則を見つけ出そうとしていたオーリケットさんが痺れを切らせたのは言うまでもない。
「かせっ!」と私からルービックキューブを取り上げたオーリケットさんは、ブチッという音が聞こえてきそうな表情をしていた。
…はっきり言って怖かった、です。
しかし、私の手から取り上げられたルービックキューブは、オーリケットさんの手の中で、宿屋で見せたのと同じ現象を引き起こした。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャッカチャッカチャカチャカチャカチャカチャカチャッカチャッカチャカチャカチャカチャカチャカチャッカチャッ、カチッ
そろいそうだった一面は、ものの見事にぐちゃぐちゃになり、ある意味元に戻った。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・すまない」
ポツリとつぶやかれたオーリケットさんの声が、ガタゴト揺れる荷馬車の上で、やけにはっきりと聞こえたような気がした。
もちろん、その後どんなにオーリケットさんが回そうとしてもルービックキューブは回らなくて、結局私の手元に戻ってきた。
かといって、私がまた回しだしても、計画性が無いからそろう筈もないのは、開始30分で証明されている。
何度か手が出そうになりながらも、結局は口を出すことで収まったのが今の現状、ということなのだよ。めんどくさい。
なんでオーリケットさんたちだと回らないんだろう?そのおかげて、護衛料払わずに護衛してもらえてるから良いような、悪いような・・・。
「次はここを1つ回した後、1度全体を見せて」
「はーい」
カチッと音を鳴らして回した後、オーリケットさんの前に見えやすいように卵を持つみたいにしてルービックキューブの角を持つ。
この時の注意は、まずは落とさないこと。そして、オーリケットさんに触らせないこと、かな?
せっかく揃えてるのに、ぐちゃぐちゃになっちゃうからね。
「・・・・・・・・・あともう少しだな」
全体を見回したオーリケットさんが、そういいながら口角をほんの少しだけ引き上げて笑みを浮かべた。
なんか、ニヤッていう感じの笑顔だけど、イライラしている時の表情が怖かった分、今の表情のほうがまだましに見える。まるで魔法。
そんなわけで、間もなく一面が揃いそうです。