美形って怖い。
黙々と歩く中で、オーリケットさんの眉間の皺もだいぶ取れてきました。皺が取れてくると、ぽつぽつと話すようになったんですけど・・・。
「女性限定の場合、僕らでは使用不可能ということになる。しかし元々の持ち主が男性だったことを考えると・・・」
もう、ぽつぽつというより、ブツブツ呟いている感じ。
何について呟いてるのかは、なんとなくわかりますがね。オーリケットさんは道行く人と比べても、美形さんの中に入ると思います。目が切れ長で、鼻もすっとしてるし、肌色も白いから冒険者というより文官みたいなイメージですね。私の独断と偏見ですが。
そんな美形な彼が、道案内も兼ねてるためだけど私たちの後ろを歩いています。
ぶつぶつ言いながら。
はっきり言う。マジ怖い。
心なしか昨日よりも速足で歩いてるような気がするリオールさんと、それに遅れないように早足で歩く私。それにピッタリ1メートルくらい開けて後をつて来るオーリケットさんという構図は、夜明けの街の中でも異様なのか、周りの目が痛い気がしてならない。
黙々と歩き続ければ、たどり着くと言うもので。
「お?リオに嬢ちゃん、おはよう」
繋ぎ屋さんの中を覘くと、ちょうど馬の背中を撫でているボブさんが、入り口から入ってきた私たちに気が付いた。
「おはようございます、ボブさん」
「おはようございます」
リオールさんの後に続いて挨拶をすると、ボブさんはニコニコと笑顔で迎えてくれた。
そのとき、私たちの後ろにいるオーリケットさんに気が付いたのか、「そちらの方はどなたかの?」と訊ねて来たので、私は後ろについて来ていた人を見上げた。
どうか、せめて眉間の皺が取れてますように、と祈りながら振り返れば。
「はじめまして、ボブさん。僕は【銀狼の盾】という傭兵団に所属している魔術師でオーリケットといいます。この子たちとは宿泊先であった【白狐の宿】という宿で知り合いました。こちらの都合ではありますが、ツクシロさんのお力を拝借したいのですが、これから彼らが王都まで行くと聞きしました。こちらも荷運びとはいえ、仕事を請け負っている身ですが、われわれも丁度王都まで行く予定でしたので、それならば道中ご一緒させていただけないかとお願いに上がりました」
さっきの怖さも吹き飛ばすくらい、顔にはかすかに微笑みを浮かべながら、丁重に挨拶とお願いを述べるオーリケットさんが居ました。
オトナってスゴイネ。
丁重なお願いもあり、道中の護衛も無料で手に入るっていうお値打ち感もあり、ボブさんはニコニコとした表情で「ええよ、ええよ」と頷いてご了承。
ありがとうございます、なんで笑顔を浮かべて少し頭を下げたオーリケットさんの表情が、ニヤッと妙にあくどい笑顔だったのがうっかり見えてしまった時は、私の中でただの切れ者文官から腹黒文官にレベルアップしたのは、黙っておこうと思う。
足元で「きゅ?」と泣いているアッリオを抱っこして、リオールさんの背中に隠れたけど、残り3日の道中がとてつもなく心配になってしまう。なんてったってオーリケットさん、さっき私の力を拝借したいって言ってたし、ね?
そういうわけで、不安ながらも一気に3人も新しく旅の仲間が増えまして、今日も元気に旅立ちます。
【白狐の宿/しろぎつねのやど】
1階はお酒も飲める食堂。2階は宿泊場所。もともとは宿が本業なので、店の名前に「宿」の字が入っている。先払い制で、朝食べる時間のない旅人などには、別料金でお弁当も作ります。