『夜』が明けるまで。
実際は、そんなにやばくもなかった。
闇の精霊と名乗ったお兄さんは、この町の周辺によくいるらしい。んで、小さい精霊と言うのは、人には見えないだけで、結構その辺にいるらしいです。
『人の子らの近くにある精霊ならば、清らかな水辺には水の眷属である水の精霊、風吹く空には風の眷属である風の精霊、燃え盛る炎には火の眷属である炎の精霊、広大な大地には地の眷属である土の精霊ぐらいだ』
種族的には4種族ってことなのか、はたまたまだまだいそうな言い方のようにも聞こえる。
なら、闇の精霊は?
『闇や光といった眷属たちは、総じて人の世とは離れていることが多い』
いなくはないらしいです。
『特に精霊となれば、人の世にあったとしても、地上に降りたりはしない』
ふいっと、闇の精霊のお兄さんは、窓を、性格には窓の外の空を眺め。
『我らは空を渡り、流れ、時折、人の世を垣間見る・・・』
私の目に窓の外は、星が煌めく夜の空が見える。でも、お兄さんの視線の先には、同じ同胞がいるのかもしれない。うようよ?
『それほど多くは無い。特にここには、私がいるからな』
・・・だそうです。笑みを浮かべるお兄さん。いるかいないかを明確に言わない、そんな大人スキルを発動されました。
というか、さっきから一言もしゃべってないんですが、どうして会話が成り立ってるんでしょうか?
『迷い子はとても分かりやすい』
ダダ漏れでした。
そもそも、なんで私に話しかけたのか。世界情報を教えていただけるのはありがたいけど、その辺も知りたかったので訊ねてみました。
そしたら、さっき面白い気配を感じたので、のぞきに来たらしいです。なんだ、面白い気配って。
『面白いだけではない。――酷く、懐かしい・・・』
懐かしい、気配がした。
呟いた声は、とても、とても、やさしくて。
表情は、とても、とても、とっても、愛おしい、そんな顔してて。
父がよく、母を見てる表情に似ていた。
闇の精霊のお兄さんは、面白くて懐かしい気配が、私から一番感じるそうで、私の部屋に訪ねてらしたそうです。闇の精霊のお兄さんに、なにか変わったことが無かったか聞かれた。
変わったことと言ったら、私の中では私の異世界トリップが一番変わったことだけど、多分それじゃないきがする。なので、一番記憶に新しい出来事であるルービックキューブくらいが妥当だと思う。
そのことを説明したら『ああ、なるほど・・・』と言って、すごくうれしそうな表情で私の頭をなでなでしました。
『今日の逢瀬は随分と楽しかった。礼を言おう、迷い子』
再三迷い子、迷い子って連呼されてますが、私には月代海里というしっかりした名前があるんですけどねぇ?・・・そう、いまだに正しく発音されない名前ですが、ちゃんとあるんです。
でも、この美形な闇の精霊のお兄さんは、笑っただけで名前を呼んではくれなかった。
それが少し、さびしかった。
ならせめて、お兄さんの名前が知りたかった。
教えてくれますか?
『 』
笑みを浮かべた、お兄さんの口が、音を紡ぐ。
でも、私にはその音が聞こえない。
私が首を傾げると、笑みを浮かべていたお兄さんは、少しだけ悲しそうに、笑う。
ああ、夜 が 明 け る 。