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夜の訪問者。


 アッリオはぬっくかった。


 元の世界では、夏真っ盛りで夜も暑かった。クーラーないと生きられないほどではないけど、ムシムシして暑かった。だから、こんなふうにモコモコなアッリオを抱っこして寝たら、地獄だったと思う。確実に。

 でも、ここの気候はそんなに暑くない。日中の日差しは確かに暑いけど、日が落ちればその暑さが嘘のように涼しくなる。クーラーいらずだ。

 なんでかって言うと、元の世界では夏の初め、でもこの世界では夏も終わりで、秋に突入しているから。

 季節が違うから、当たり前のことなんだってのは分かる。異世界っていうのは、魔法を始めて見せてもらったこととか、食文化とかでなんとなく理解していたってところが本音でした。


『―――、―――て』


 夢の世界では、お母さんがコロッケを作ってる。  

 肉じゃがを潰してタネにしたり、コーンを入れたりして、一つにこだわらないで味を工夫して作るのが月代家流の家庭料理。バンバン開拓していくよ!っていうくらい、お母さんはチャレンジャーだけど、おいしければいいし、一緒に考えるのも楽しかった。


『――、―――きて』


 台所では、お母さんの隣で、一緒になってジャガイモをこねてるところ。これが結構大変なんだよ。特にうちみたいに家族が多いと、それだけ量も増えるから。

 これが夢だってのは、なんとなくわかる。私は寝てるっていう感じがするから。


『――、――おきて』


 誰かが呼んでるのも分かるよ。呼ばれてるから、起きなくちゃって思うよ。でも、まだ眠いから。

 もう少し寝かせてほしい。


『――、起きて』


 誰かが呼んでる。

 優しい声がする。

 静かにゆすられる、世界が揺れる。



 夜が、揺れる。



『ほら、私の声が聞こえているだろう?』


 優しい声が聞こえたと思ったら、ぎにゅっと、頬がつねられた。


 目を開けると、部屋の中は真っ暗で、周りは良く見えない。でも、目の前に誰かがいるのが、はっきりとわかる。

『起きたね、迷い子(まよいご)

 暗い部屋の中で、そのヒトだけがはっきりと見える。

 そのヒトは、褐色の肌をしており、整った容姿は美形ではあるけど、私を見下ろす鋭い黒い瞳がちょっとキツめの印象を与えるお兄さんだった。オーリケットさんも、少し釣り目だったなーって思ったけど、少なくとも彼はこんなふうに、意地悪そうに目を細めて笑ったりしない。と思う。

『人の世の挨拶では、こんばんわ、だったかな?迷い子(まよいご)

 ぎにゅっと私の頬をつねっている長い指を辿れば、私より大きめの手の先には銀の腕輪をした褐色の腕があり、その腕は黒い衣から伸びている。そしてその黒い衣の上の方には、目の前のお兄さんの顔がある。

 お兄さんは私の頬をつねっているけど、痛く無いようにやんわりとつねっている。時々ちょんちょん、と引っ張るくらいで、痛くは無いけどやめてほしい。じっと見てみるけど、楽しそうに私を見ているだけで止める素振りはなさそうです。なぜだ。

 引っ張られる頬のせいで口が半開きになって、ヨダレたれそう・・・じゃなくて、このお兄さんは一体どこの誰? 

迷い子(まよいご)よ、私に挨拶はしてくれないのか?』

 話す声は、少し低めのテノール。楽しそうに歪んだ口からは、言葉が漏れているけれど、ここ数日で耳慣れた異世界とはまた違った言語が紡がれている。それでも私の耳は、確かにその言語を拾い、理解している。なんてバイリンガル。

「・・・こんわんわ」

 ただし、私の口から出たのは、頬をつねられてまぬけな発音になった異世界語だったけどね。この言葉はヒアリングのみようです。

 それでも、私が返事をしたからか、そのヒトは細めていた目をさらに細め、口角もきゅっと上げて、とても嬉しそうな笑みを浮かべる。笑顔ではなく、笑みってところが美形さんですね。なんてどう、でもいいところで納得してみたけど、結局このお兄さんはどこのどなたなのだろうか。

 部屋には鍵がかかるようになっているし、リオールさんが鍵をかけたのは見ていたので、入ってきたとなればそういう職業の人ってことになる。さて、ここは叫ぶべきなのか、どうなんでしょうか。

『安心するといい、迷い子(まよいご)よ。私はそういう職業の人(・・・・・・・・)ではない』

 そう言うと、お兄さんは私の頬から一度手を離し、つねっていた頬を一撫でする。

 私の疑問に答えてくれるらしい。

 ・・・あれ?そもそも私、喋った?

 私がじっと見上げていると、お兄さんはふわっと笑う。

『そもそも私は、()ではない』

 笑う、お兄さんは、寝ていた私を起こしてベッドに座らせた。腕の中にいたアッリオは、私が起きると一緒に起きて、私の左隣にやってくる。起こしてしまったらしい。

 私が動く度に、ギシッギシッと小さく軋むベッドから足をろす。ベッド下に置いてある靴を履こうか迷う私に、お兄さんはそっとシーツを肩に掛けてくれる。どうやらこのままでいいらしい。

 私がお兄さんを見上げると、暗い部屋の中で、窓にはカーテンがかかっているのに、床に置いてある来るも形しかおぼろげにしか見えないのに、お兄さんの姿だけがやっぱりはっきり見えて。

 笑う、お兄さんが、言葉を紡ぐ。


『私は精霊。夜と静寂を司る闇の精霊だ』


 私の頭を撫でて、私の右隣に座った。座っても、私とは頭一つ分も背丈が違うのに、ベッドは揺れない。

 お兄さんは、【精霊】だと言った。

 静かな部屋に、お兄さんの声ははっきり聞こえる。聴き間違えではないと思う。でも、【精霊】って、しかも()の精霊って・・・。




 私、やばい?



あけましておめでとうございます。

今年初投稿です。

いろいろあると思いますが、今年もよろしくお願いします。


誤字脱字ありましたら、報告よろしくお願いします。

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