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食事と初魔術。


 なんとか紺色フードの人の暴行を止めることに成功しましたワタクシ、月代海里は、ただいまもろもろの騒ぎを巻き起こしたメンツとともに、同じテーブルにて食前酒ならぬ食前水を飲んでおります。

 あのあと紺色フードの人と五分刈り茶髪さんが、お詫びと証して夕飯を奢ってくれることになりました。正確には、ショートヘアーの茶髪のポケットマネーで、ですが。タダ飯には変わりないので、喜んでお受けしました。

 もともと夕飯食べるつもりだったし、断っても結局ここで食事するから同じだよねーって。

 知らない人と食事するっていうのは警戒すべきですが、ショートヘアーの茶髪が仲間(主に紺色フードの人)からメッタメタにされてるの見て、カワイソウになってきたっていうのが本音半分、タダ飯半分という所。リオールさんからも許可でたし、それにちょっと気になるし。




「先ほどは仲間が失礼した。僕の名前はオーリケット。【銀狼の盾】という傭兵団に所属している魔術師だ」

 私の右斜め正面に座り、紺色フードを取って自己紹介したオーリケットさん。そのフードの下から出てきた顔は、切れ長の青い瞳に整った容姿の美形さんでしたが、それより驚いたのは彼の髪の色だった。

「・・・黒髪」

 私のつぶやきに、オーリケットさんは笑・・・ッたんだと思う。表情は変わらず平坦だったんだけど、口の端を少し持ち上げてうっすらと笑ったように見えたから。笑ったのか、何かたくらんだのか分からないけど、言える事は一つ。このひと、笑い方怖い。

 うっかり凝視してしまったことは失礼ではあるが、オーリケットさんのショートヘアーの茶髪とは少し違う深い青の瞳が、私を見る。

「僕は南の国の出身だからな。髪の色は君と同じ黒だ」

 でも、瞳の色は違うようだ、と呟いた彼の顔から笑顔が消え、視線を私の左隣に座っている五分刈り茶髪さんに向けた。

「俺もこいつと同じ、【銀狼の盾】所属の傭兵、アルフォンスだ。あいつも悪い奴じゃない、許してやってほしい」

 そういうと五分刈り茶髪さん改め、アルフォンスさんが私の頭を優しくなでる。なぜになでる?とは思うが、武骨で剣だこの出来た硬い手が、優しく私の頭を撫でる。

 うん、わるくない。

 ちなみに、許すとかその辺はどうでもいい。むしろそんなに怒ってないし。というか、ただ驚いただけなので、あまり大騒ぎしたくない。

 私が頭を撫でられている中、リオールさんも彼らに倣って口を開く。

「僕は、トット村のリオールと言います。帝都国立軍学校の3年生です」

 私の右隣りに座ったリオールさんも続いて自己紹介。ちなみに、帝都国立軍学校は3年までだそうなので、リオールさんは今年が最終学年だから、卒業試験通れば来年から軍に入るって言ってました。

 オーリケットさんが、「帝都の軍学校か・・・何科か聞いても?」と訊ねると、「魔法剣士科です。と言っても、剣より弓の方が得意なんですが・・・」と照れる。

 さらには「そしてこの子は、ツクシロ。僕の・・・妹です」と私を紹介する時も、なんか照れてるし。頬がほんのり赤いし。


 何このカワイイ人!照れてるよ!?カワイイヨ!!


「・・・ツクシロです」

 何に照れてるのかはあえて聞かないとして、リオールさんに紹介されたので頭を下げておく。

 私が妹だって。いもうとー。

 うちは私が一番上で弟妹しかいないから、なんかちょと照れくさい。

 あー、だからリオールさんも照れてるのかな?・・・って、んなわけないか。リオールさんには、ラナシスさんっていう美人な妹さんがいるしねー。


 そして、最後に残ったのは、元凶でもあるショートヘアーの茶髪一人。

「俺は」

「はいお待ちどうさま!ご注文のパンと焼きモルモツ、それに野菜のスープだよ!嬢ちゃんも沢山食べな!」

 丁度料理を運んできた、この宿の女将さんに言葉を遮られた挙句。

「では、冷める前に食べましょう」

「・・・そうだな」

 といって、そのまま流すオーリケットさんとアルフォンスさんの2人。アルフォンスさんの沈黙が気になると事ですが、質問はしないよ。仲間内にのことに、首は突っ込まないよ。

「あの、オーリケットさん、アルフォンスさん。僕まで御馳走になって、本当によかったんですか?」

「かまわないよ。君の妹に僕らの仲間が迷惑をかけたんだ。保護者であり、兄である君も謝罪を受け取ってもらえるとありがたい」

 そういいながら、オーリケットさんはフォークとナイフを持って焼きモルモツと言われた牛ステーキみたいなお肉を一口大に切ると、ぱくりと食べる。

「・・・それに、ここの食事料金は良心的だからね。あまり懐は痛くないんだよ」

 だから遠慮しなくていいというオーリケットさんに、アルフォンスさんも頷く。

「迷惑をかけたからな。遠慮はせずに食えばいい」

 言いながらアルフォンスさんも食べ始めたので、リオールさんと顔を見合わせ、食べることにしました。

「ありがとうございます」

「・・・いただきます」

 笑顔でお礼を言うリオールさんは、そのまま食べ始める。私もフォークとナイフを手に取って、目の前のステーキっぽいお肉を攻略にかかることにした。

 仲間がデフォでやってるから、これがこの人に対する扱い方なのかもしれないけど、上下関係が良く分かる人たちだなって思う。

 そんな私たちの左斜め前では、顔を手で覆ってるショートヘアーの茶髪が「泣いていい?泣いていい??」梳か呟いてる声が私にまで聞こえてきた。

 結局は、食事が終わるまで若干かわいそうなこの状態が続きましたが、お腹減ったので食事を優先させていただきました。


 ごめんねー。


 そして、奢ってもらった食事は、味はともかく量が多かったので、お腹いっぱいよりも気持ちがいっぱいになりました。

 焼きモルモツというのは、牛ステーキっぽい見た目の塩焼き肉で、おっきめなお肉が2枚お皿に乗っていた。その皿に、さらに茹で野菜がそえられたプレートタイプで出てきた。食べごたえは十分にあった。というか、1枚でいいですってことで、リオールさんに1枚食べてもらった。

 だってここに、この世界に来てから定番になってる硬めの黒パンも付くのだ。大きさはロールパン位だけど、歯ごたえがあるので顎が疲れる。現代人の、軟弱なソシャク力なめんな!顎が痛いわ!!

 せめてここにあっさりコンソメスープがあったらいいのになーって思うが、出てきた野菜のスープは茹で野菜と塩が突っ込まれただけのお湯だった。

 一口掬って、食欲減退。でもステーキ食べてもらったので、こっちはパンを浸しながら完食しました。

 味が塩だけって・・・ダシはどうしたよ?とか思うでしょうが、それが無いんだよねー。ダシ、ていう発想が。

 村でもそうだったし。

 村だけが特殊とか、貧困によるものか持っていう考えは、この町の食事を食べるまであったんですよ。つまりついさっきまであった、ってこと。でもねぇ、オーリケットさんもアルフォンスさんも普通に食べてるし、アルフォンスさんはおかわりまでしてるから、これってこの国自体がこうだって思えばいいのかなって思いはじめてます。

 黒パンにしたって、パンがあるからバターもあるんじゃね?とか思ってた考えは、この世界に来た3日目にパン作りを手伝った時に消えました。

 この世界、というか、この国の食文化にバターが無かった。むしろ乳製品がみあたら無かったです。ちなみにマーガリンもない。

 何でないって言い切れるかというと、黒パンを作る時はルードっていう固形植物油脂使ってるからです。イーリアさんに「バターってなぁに?」と聞かれたときに、何でもないですって誤魔化したのがいい思い出です。

 じゃあマヨネーズはどうやって作ったかというと、まず胡椒は使ってない。リオールさんたちにはビネガーを使ったって言ったけど、実はルモルっていう果物の搾り汁を使いました。なんか味がビネガー・・・っていうか、レモン風味の酢の味がしたから、代用して使えないかなーって思って使いました。

 本来は絞って飲むのだそうです。健康にいいらしい。飲んだことないけど、すっぱそうだなって思う。

 あとは、液状植物油があったので、それを使いました。ユーリカ油っていって、ユーリカっていう花の種から絞る食用油だそうです。肌荒れの薬の材料にもなし健康にも良いそうで、薬師をしてるイーリアさんだから持ってたっていうシロモノです。

 別に高くは無いらしいけど、食用油としてはルードの方が主流で、ユーリカ油は薬の材料っていう認識が強いみたいで、あんまり使われてないらしいです。

 おいしいのに、もったいない。


 閑話休題。


 そんな感じで食事も終わって、ついでにいじけてたショートヘアーの茶髪も自己紹介が終わり、彼の名前がセグロスということが判明しました。目が青いのはナハトール人の血を継いでるからだそうです。ナハトール人って?とかは聞かない。空気読める子にならないと。それに、後でリオールさんに訊ねればいいし、今それほど聞きたいわけでもないし。

 ほんとは、ご飯食べたらさよならしたかったんだけど、セグロスさんが腰にぶら下げてたルービックキューブを机に置いたので、席を立つタイミングを逃しました。まぁどうせ、リオールさんも立つ気が無かったので、戦線離脱は出来なかったと思う。

「さっきは、つい興奮して詰め寄っちまったのは悪かったと思ってるよ。こいつは代々うちの伝わってるモノでな、一見するとただの飾りみたいに見えるが、魔法具らしいんだがな」

 そいうって、セグロスさんはオーリケットさんを一瞥する。オーリケットさんが頷いて、ルービックキューブに対して手をかざすと、少し不思議は感じのする声で短い言葉を紡いだ。


「≪紅く揺らめく-炎よ-燃えろ≫」


 ポッという音とともに、オーリケットさんが手をかざしていたルービックキューブに火がついた。

「ッ!」ちょっと驚いて、肩がビクって動いた。でも、一度ついたその炎はルービックキューブを舐めるように燃え広がって包み込み―――すぐに炎は小さくなって消える。後の残ったのは、焦げ跡一つないルービックキューブ。飾り紐すら焦げ跡もなく残っていた。ちなみに机にも焦げ跡が無いので、幻術!?とかは一瞬思ったけど、メラメラしてる時は熱かったので本物だと思う。

 だから私もその現象に目を見開いていて驚いた。でも、オーリケットさんは私が別のことに驚いていると思ったのだろう。

「驚くのも無理はない。このように、この物体には魔術が一切効きかない。さらにこの物体を持っていることで、所持者に対しても魔術耐性を上げる効果がある」

 簡単に説明してくれているオーリケットさんには申し訳ないけど、そんなことは右から左に過ぎていく。

 いや、だって。今、目の前で、火がね、ポッて灯ったら、あっという間にルービックキューブが火だるまになったんだよ!

 異世界11日目にして、初魔法!

 リオールさんも使えるらしいけど、まだ見せてもらったことが無いと言うか、学生なので緊急時以外の魔法の使用は禁止されてるらしい。魔術の練習がしたい場合は、学校指定の練習場で行わなければならないらしい。安全対策らしいです。

 ということで、私がこの世界に来て魔法があることはリオールさんに学校の話を聞いた段階で分かってた。でも、見るのは今日が初めてなので、実はいきなり火がついてびっくりしたものの、ちょっと興奮してます。ドキドキ。


「――――だから、嬢ちゃんがコレが何かを知ってるなら教えてほしい」 


 ちょっとシリアスチックに私に頼んでいたセグロスさんだったけど、もう一回魔法見せてと頼もうかどうしようかと迷っていたため、話を聞いていなかった私が「え?なんですか??」と言って彼が机に突っ伏するまで、あと5秒。



ルモル:果実

    絞るとレモン風味の酢の味がする果物。1つが拳大で、房で成る。

    皮の色は紫、中身はほんのり黄色っぽい透明な果肉。

ルード:植物性の固形油。硬い殻に覆われており、果肉は白く、真ん中に大きな種がある実。白い果肉部分がそのまま油として使用できる。

ユーリカ油:ユーリカの花の種から搾られる植物性の液状油。

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