異世界初変質者遭遇。
ビンゴでした。
木製の両扉を開けて中に入っていくリオールさんの後を追いかけ、恐々と中に入ってみたら、橙色のランプの炎に照らされた店内にはいくつも丸テーブルがあって、そのいくつかには既に人が座ってお食事中でした。
ただ、「おーい!酒けくれ!」「こっちは2人分だー!」という、オッサンたちの声が聞こえますが。
リアル酒場だよ!しかも、その何人かの中には、腰に剣を差した冒険者風なオッサンもちらほら見えるよ!
ちょっとRPGっぽくて、その人たちをリオールさんに声を掛けられるまで凝視してしまっていたようで、ちょっと恥ずかしかった。冒険者風なオッサンたちはちょっと強面なので、からまれたら大変だ。凝視してたのはバレてなかったようなので、一安心という所だろうか。
リオールさんの後をできるだけ離れないようについていくと、先客がいたようで、カウンターの所には3人の男の人たちがいた。
一番左端の人は、とても大きくて筋骨隆々なオッサンで、筋肉モリモリの腕を腕組みしてるけど、その太さは丸太みたいに太かった。しかも、背中にすっごく大きな大剣を背負っていて、髪は五分刈りと短い茶髪だ。
その人の右隣りでカウンター越しに、この宿屋件食事処の娘さんらしき女の人と話してる、腰にロングソード(だとおもう)を帯剣しているオッサン・・・というにはちょっと若いかなっていう感じの、革鎧をつけたショートカットの茶髪。
そのさらに右の壁にもたれている人は、紺色のローブについたフードを目深にかぶっていて髪の色は分からないけど、3人の中で一番身長が低い性別不肖なオッサン?が居た。
その3人はここの常連さんみたいで、主に真ん中のショートヘヤーの茶髪が女の人に「この間依頼で行った場所がさー」とか「そしたらこいつがよー」とか言いながら楽しそうに談笑していた。時々、話を振られた五分狩りの茶髪が頷いたりしている。
私がその3人を見ていると、リオールさんが宿の部屋が空いているかとか、動物の持ち込みは大丈夫かを聞きに女の人に確認しに行ったようで、私の視界には4人の男の人が並んでいた。けど、私はリオールさんじゃなくて、真ん中のショートヘアーの短髪をじっと見ていた。
正確には、その腰にぶら下がっている物体を、だけど。
5㎝四方の小さいそれは、スモークガラスみたいな半透明な石で出来ているようで、六色とも淡い色合いを出している。しかも、全面の色はそろっていないバラバラの状態で、そろえて~と声が聞こえそ・・・うなわけないけど、角の一つに紐が付いていて、それがベルトに結び付けられてぶら下がっている。
ストラップにしては重そうだけど、時々見かける女子高生とかは、小さな携帯にでっかいぬいぐるみ付けてるのを見かけるので、それほど変でもないのかもしれない。女子高生ならば。
相手はオッサン。しかも、いい年してるRPGの冒険者風のオッサン。
ああ、あれか。マジックアイテムってやつが。それじゃあ仕方ないよね、でもベルトに装備って・・・荷物入れにくくりつけてあればスルーしたのに、ベルトに装備って・・・。
「どうした嬢ちゃん。これが珍しいか?」
まぁ、そんな風にじっと見てたら、さすがに気が付いたのか、ショートヘアーの茶髪が話しかけてきた。
ショートヘヤーの茶髪は、ベルトにぶら下げていたソレを手に取った。
珍しいか、と訊かれたら、別にと答えるのが世の情け?まぁ言わないけど。
だってそれは、何処からどう見ても・・・
「えーっと、ルービックキューブ?」
だった。
ただ、私にとっての当り前が、ここでは非常識な事もあるってことを失念していたわけで、でも、ぶら下げてるんだからこの世界にもあるんだーくらいにしか思わなかったのも事実。
私がソレの名前を言うと、ショートヘアーの茶髪がキョトン、とした表情になったことで、この世界にルービックキューブの名前が無いのが分かったのだけど。
口から出た言葉っていうのは、絶対に引っ込まない。
逆に引っ込んだ方が怖いけど、ショートヘアーの茶髪がキョトンとした表情から青い目を大きく見開いて私を見る。緑じゃないんだーと思ったけど、そんな事よりも気が付いた時には遅くて、がっしりと右肩を掴まれると。
「こ、こここここここれ、これ、これ、しって!」
視線を合わせるために屈んだショートヘヤーの茶髪が、私の目の前にルービックキューブをズズイッと突き出してきた。
「うわッ」
その分私はズズイッと後ろに下がり・・・たかったけど、肩を掴まれてるから顔だけを何とか後ろへ逸らすことで精一杯だった。
うわぁ、異世界初変質者に遭遇ですか。ぜんッぜんッ、ありがたくねぇ。
この人どうしよう、助けてリオールさーん。
心で叫んでみたけど、実際の人物はカウンターで何か書いてる途中で、こっちに気が付いてもいなかった。・・・まぁ、そうだよね。叫んだの心の中だし。・・・でもやっぱりコノ人コワイ。
本気か何か知らないけど、ジリジリと迫りながら「なぁ?ほらほら怖くないよ~」とか笑顔で私の気を引こうとしているショートヘアーの茶髪。なにこれ、あらゆる意味でコワイ。
そんなやりとり(主にショートヘアーの茶髪が一方的に私の気を引こうとしてるの)を、これ以上関わらないように黙秘を実施する私という図が周りにどう見えるかは知らないし、責任も取らないけど。
できるだけショートヘアーの茶髪から目をそらしつつリオールさんの方を見てたら、連れの様子に気が付いたのか、五分刈の茶髪と紺色フードの人がこっちに来て・・・
ごすっ「るべっ!」
背後から側頭部を殴られたショートヘアーの茶髪が、そのままゴロゴロと床に転がった。
実際に殴ったのは紺色フードの人だけで、なんでか知らないけど五分刈りの茶髪が屈んで私に謝ってきた。
「気づくのが遅れてすまんな、大丈夫か?」
顔はちょっと強面な人で、声も低くて怖そうだけど、話し方は私を気遣うように優しげだった。でも、ムキムキなうえに革の胸当て着けて、さらに私の身長くらいありそうな大剣(この間測定したのは160cmだった)を背負った人は、普通に怖いです。なので、「大丈夫です」と頷くだけで、後は黙秘しました。だってこの人らも仲間だし?
そしたら「そうか」とちょっと安堵を含めたように呟いて、彼の大きな手で頭を撫でられました。うん、大人だ。
ただ、そんな私と五分刈りの茶髪な彼の横では、紺色フードがショートヘアーの茶髪を容赦なく足蹴にしていたけどね。
止めないよ!怖かったから、止めてやんないからね!
そんな騒ぎになってれば、リオールさん気が付いたようで、いったい何があったのかと説明を求められました。これは他のお連れの方も同じで、とりあえず殴ったが事情を聴かせてほしいと言われました。
「とりあえずで殴るな!その前に聞けよ!」
というのがショートヘアーの茶髪の言い分だったけど、味方である仲間2人に黙殺されてしまう始末。無念。ちょっと同情する。・・・ほんのちょっとだけどね。
ということで、事情説明として簡単に、ショートヘヤーの茶髪の人を指さして、
「ベルトにぶら下げてあった飾り見てたら、肩つかまれて迫られた」
と話したら。
どすっ「ふぐっ!」
再び紺色フードの人の拳が、今度はショートヘアーの茶髪の右頬に埋め込まれた。
無念、言い訳すらさせてもらえないとは・・・
「ちょ、待てオーリ!いや、待ってください?何で拳振り上げてるの!?落ち着けオーリ!お願いだから!!」
「言い訳か、セグ?・・・見苦しいッ。こんな場所で、堂々と子供に襲い掛かるとは見損なったぞ」
「え!?なんで『犯罪者確定!問答無用!』みたいな言い方になってるの!?うそ?冗談?え??まじなの!?それ誤解だからね!!俺の話を聞こうよオーリ!」
「言い訳などいらん。散れ」
しかもリオールさんが私を後ろにかばって後ずさりし始めるし、五分刈りの茶髪さんが背中の剣を抜こうとするとか、なんだかカオスなことになってきた。
そろそろお腹もすいてきたので、もう一発殴ろうとしていた紺色フードの人を止めに行くことにします。
まぁ、実際の所は・・・淡々とした声で一方的に悪者みたいに言われて、弁解も聞いてもらえないショートヘアーの茶髪の姿がちょっと憐れすぎたっていうか、なんというか。
うん、オトナのセカイってタイヘンね?