怪しい人には気をつけましょう
父、母から見送りの言葉を妹からは謎の言葉を貰った後に家を出てから、もう12時間程になる。
この世界アルステナの暦は、最高神であるミュラとその娘あるいは息子である神々【アルステナ12神】を含めた計13神から1年を13月、1月を65日、1週間を13日、1日を26時間としている。
今はミュラの月の2日である。ミュラの月は始まりの月とも呼ばれる。もう一度ミュラの月が巡って来ると一年となる。
「ふぁ~あ。」
今日は暖かく風が心地よく吹いていて 眠たくなるくらいだった。
現在ウルトは学園のある水の都と名高い都市ユミラトにやっと到着し一休みしていた所である。
流石は飛竜便、普通なら一週間はかかるのを僅か10時間程だった。
「何度見てもキレイな都だなー。」
都の至る所に水路が引かれている。そう、この都は海の上に建っているのだ。
「おっと、見とれるのは此れくらいにして早く寮に行かないと。」
都の景色に後ろ髪を引かれつつも学園の寮へと向かう。学園は都の中心に位置し、寮はその周りにある。
合格通知と一緒に届いた地図を見ながら寮へと向かう。
「・・・・迷った。」
都は水路のせいもありとても入り組んでいてどっちに進んでいるのかわからなくなった。
「ヤバイな、どうしよう。」
「やあ、君どうしたの?迷子?」
僕が地図を片手にウロウロしていると、如何にも遊び人な金髪のチャラい兄さんが声を掛けてきた。
「その格好、君も今年からエレミスチア学園の生徒でしょ。オレもなんだ。学園まで案内しちゃうヨ~。」
ラッキーだ。学園まで案内してもらえば寮の位置も分かるはず。しかし、出会ったばかりの人に着いて行ってもいいのだろうか?しかも、こんなにチャラそう人に・・・・
(イヤイヤ、人を見かけで決めつけるなんて最低だ。大丈夫、きっとこの人はとても親切で僕が心配て声を掛けてきたんだ。)
「ねぇ、君聞いてる?」
「えっ!!は、はい。お願いします。」
「任せてくれヨー。オレってば5日前に着いてここら辺はもうバッチリ覚えてるからネー。おっと、オレの名前はヤム・バンライン15歳だ、君の名前は?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらヤムと名乗った少年が聞いてくる。
(高いなぁ~)
15歳にしては身長が高いが、ウルトの身長が低すぎるので余計に高く見えるのだ。ヤンの身長が低く見積もって160程に対してウルトは高く見積もっても150程度。
(まぁ、僕だってこれから大きくなるもん。なるよね?)
「僕の名前はウルト・トーリエ、15歳です。この白いのは使い魔のフィルです。よろしくお願いします。」
「ウルトちゃんとフィルか。ヨロシク。じゃあ、早速、学園まで案内してアゲルヨ。着いてきナ~」
―――――――――
結論
見かけで判断するのは良くないが、見かけも判断の材料にすべし。
「待てやァ、ゴラァッ。」
「待ちませぇーん」
只今僕は絶賛逃走中だ。
何故ならあの後、彼に着いて行ったらドンドン人気の無い報告へ進んで行き、気がついたら怪しげなおじさん達に囲まれました。
見かけ通り悪い人でしたよ。チクショウめ、おっと、こう言う言葉は使っちゃいけないんだった。
エルが恐いんだよね。
「・・・・兄さんにはそんな乱暴な言葉は似合わない。次に使えば・・ドカン。」
ドカン。これだけ聞くと微笑ましい表現だが、断じてあれは人にそんな生易しいものでは無かった。
偶々隙を突いて逃げ出したがそれからずっと鬼ごっこだ。
走りは僕の方が速いが地の理は向こうにある。
(また曲がり角だ。右か左どっちに行けば。)
「フィル!!」
フィルは尻尾を使って右を指す。
すぐに右に曲がり突っ走る。
「バカが。ソッチは行き止まりだ。」
「フィ~~ル~!!」
ちびっこ白竜はあからさまに顔を逸らす。「キュー、キュ、キュ」
そんなことをしてる間に前には壁が。
「どうする、どうする、このままじゃ捕まるよ。」
「諦めろ、嬢ちゃん大人しくすれば悪いようにはしねぇ。」
(追い付かれたッ)壁を背に扇状に囲まれた。
相手はヤムを含め20人。(絶望的だよね。とりあえず隙ができるまで時間稼ぎをしなきゃ。)
「ヤムさん騙したんですか。」
一団の真ん中に居るヤムに問いかける。
「ゴメンネェ、俺さ金に困っててネー。ウルトちゃんとその白竜は高く売れそうらしぃ。」
「な、人身売買は重罪ですよ。」
「ググァ」
奴隷の売買は何百年も前に禁止されている。買った者も売った者も終身刑もしくは死刑だ。
「まぁ、ドコにでも抜け穴があるんダヨネー。まぁ、運が無かったとおもっブハ」
今だっ、僕は手に隠し持っていた石を思いっきり投げつけ、「フィル!!」「キュピィ」その小さな体からは想像できないほどのブレスを放出した。
周りのゴロツキ達は炎から逃げようと道の脇に寄る。その隙を逃さずに真ん中を突っ切ろうとするが足が何かに掴まれ動けない。
(なんだ?)
僕の足を掴んでいたのは地面から生える土の手だった。
「クソガッ。オレの顔に傷をつけやがって。」顔を押さえながら立ち上がるヤムがこちらを睨み付ける。
「土系統魔術〈マッドハンド〉?。」
「アァ、んな初級魔術と一緒にすんじゃねぇヨ。」ヤムが手を振りかざすと地面から人形が作られる。
「〈ゴーレム〉。中級魔術?違ういくら何でもこんなに簡単に作るには相等な実力が必要なはず。ということは固有能力 〈ギフト〉か。」
「そういうこった。舐めた真似しやがって逃げられるとおもうなヨ」
ヤムがこちらに迫って来るが足は掴まれたままだ。逃げられない。周りのゴロツキ共も余裕の表情だ。
(まだ、学園に入ってすらいないのに。どうする、使うべきか。)
僕がいわゆる絶体絶命な状態に陥っていた時、「そうだな、我が学園の生徒に手を出して逃げられると思わない事だヤム・バンライン。」怒りに満ちた声が響き渡った。