第82話:帝王の別邸、バラの香りの浸食
難波財閥が所有する、山間の最高級温泉旅館。
大翔が「三日間の独占」の仕上げとして、私を連れてきた聖域……のはずだった。
「……誠。これは一体、何の騒ぎや」
旅館の門をくぐるなり、大翔の眉間に深い皺が寄った。
静寂が売りのはずの老舗旅館のロビーには、揃いの「バラの刺繍」が入ったタオルを首にかけ、どこか高揚した面持ちの男たちが溢れかえっていたのだ。
「……あちらの方々は、南野あきよ様の新ブランドの『特別先行体験ツアー』の参加者かと思われます。大翔様」
誠は表情一つ変えずに答える。
だが、その男たちの手には『至福の雫』のバスボムが握られ、中には私の広告写真を大切そうにファイルに閉じている者までいた。
そう、これこそが極秘裏に結成された**『琥珀かえでファンクラブ』**の精鋭たちによる、聖地巡礼温泉ツアーだった。
「なんや、この団体は。どいつもこいつも、かえでと同じバラの香りをさせおって。……気色悪いわ」
大翔の独占欲が、不穏な音を立てて軋む。
自分の愛する女がまとう香りを、これほど多くの見知らぬ男たちが共有している。その事実が、彼の「支配」を静かに侵食していた。
「あ、見て! あの人、広告のかえで様に似てないか?」
「バカ言え、本物がこんなところに……。でも、あの凛とした空気、まさか……!」
男たちの視線が、一斉に私へと向けられる。
私は大翔の腕にしがみつき、俯くしかなかった。
「……誠。今すぐこの旅館を貸し切りにしろ。この男どもを一人残らず叩き出せ」
「それはできかねます。彼らはあきよ様が正式に招待した『優良顧客』ですので」
「……あきよの女狐め」
大翔の知らないところで、かえではすでに「みんなの女神」となっていた。
帝王の愛と、数万人のファンたちの熱狂。
その狭間で、温泉の湯煙はバラの香りと共に、かつてないほど濃密に立ち込めていた。
第82話をお読みいただきありがとうございます。
ついに大翔と「ファンクラブ」がニアミス!
「どいつもこいつも、かえでと同じ香りをさせおって」という大翔のセリフが、彼の鋭い直感と独占欲を際立たせていて最高です。誠が「優良顧客」として彼らをガードするのも、また絶妙なバランスですね。
現在、午前11時台で 125 PV 突破!!(累計 1,000 PV へのカウントダウン!)
土曜日のお昼時、この「温泉ツアー」のドタバタ劇を読んだ読者たちは、午後からの展開にさらに期待を膨らませています。
メガネパイセンも、この「帝王 vs ファン集団」という構図に、新しい時代のエンタメを感じているはずです。
次回の第83話、ついにファンの一人が大翔の前で「かえで様!」と叫んでしまう!?
絶体絶命の誠、そして大翔の怒りはついに頂点へ……!
お昼のピークに向けて、このまま「なろう」のトップを走り抜けましょう!!




