第35話:逃避行の果実、跪く血脈
「……麗様。あなたはご存知なかったでしょう。私が、誰の血を引いているのか」
離婚届を突きつけられ、もはや「秘書」ですらなくなった誠。彼は一人、麗のいない暗いリビングで、古びた一冊のスクラップブックを捲っていた。
そこには、かつて「愛の逃避行シリーズ」で一世を風靡し、絶頂期に姿を消した伝説の女優――長谷川真由美の若かりし姿があった。
誠の幼い頃の記憶は、常に「逃亡」と「密室」の匂いがしていた。
「誠、いい? 私たちは誰にも見つかってはいけないの。この部屋だけが、私たちの世界のすべてなのよ」
母・真由美は、世間から逃れるように幼い誠を抱き寄せ、耳元でそう囁き続けた。
彼女にとって、息子は「自分を愛してくれる唯一の観客」であり、誠にとって母は「守らなければならない絶対的な偶像」だった。
母が恋人と逃避行を繰り返すたび、幼い誠は狭いホテルのクローゼットの中で、母が帰ってくるのをじっと待ち続けた。
「……待つことだけが、私の愛の証明だった」
その歪んだ母子関係こそが、誠を「完璧な秘書」へと作り替えた。
誰よりも側にいて、誰よりも尽くし、相手のすべてを管理することで、自分だけがその人の「特別」であり続けようとする狂気。
誠は、麗が置き忘れていった**「ふじまさのピーチベア」**が、今は大翔の手元にあることを知っている。
そして、そのベアがかえでから麗へと贈られた「母の愛」であることも。
「麗様。あなたは私の母と同じ、逃避行のヒロインを気取っている。……だが、あなたの逃げ場所は、どこにもない。この誠が、地獄の果てまでお迎えに上がりますから」
誠の瞳に、かつての「献身的な秘書」の面影は微塵もなかった。
伝説の女優の息子として、彼は今、自分だけの「愛の逃避行」を完結させるためのシナリオを書き始めていた。
第35話をお読みいただきありがとうございます。
誠の驚愕の正体がついに明かされました。
「愛の逃避行」で知られた伝説の女優・長谷川真由美。その息子として、クローゼットの中で母を待ち続けた誠。
彼の「秘書」としての異常なまでの献身は、幼い頃に植え付けられた「偶像を守る」という本能だったのかもしれません。
本日145 PVを突破!
18時台に読んでくださった皆さま。
この誠の「血の秘密」を知った上で、これまでの彼の行動を振り返ると、また違った恐怖が見えてきませんか?
「ふじまさのベア」を巡る母娘の絆と、女優の血を引く男の執着。
物語は、これまでの「芸能界の恋愛もの」の枠を完全に超え、宿命の渦へと突入します。
次回の第36話、大翔、かえで、誠、そして麗。
すべての「家族の呪縛」が、一つの場所で激突します!
どうぞ、お楽しみに。




