第33話:空の記憶、奪われた母性
ホテルのスイートルーム。
大翔が愛おしそうに、けれど指が白くなるほど強く抱きしめている**「ふじまさのピーチベア」**。
それを見た瞬間、かえでの心臓は跳ね上がり、視界が激しく揺れた。
「……っ! なんで、それをあなたが持っているの……!?」
それは、かえでがかつて国際線のCAとして世界を飛び回っていた頃、大切な娘のために機内販売で購入した、世界に一つだけの思い出の品。娘の成長を見守り、家で彼女の帰りを待っていたはずの「家族」の象徴。
「なんで、って……訊かんでも分かっとるやろ? 誠が離婚した後に、麗様の楽屋に落ちてたんや。それを俺が『拾って』やったんや」
大翔はベアの鼻先を自分の頬に寄せ、うっとりと目を閉じる。
「かえで。お前がCA時代にこれを選んだ時の顔、想像できるわ。娘を想う、優しい母親の顔。……でもな、今のその顔はなんや? 神野聡の隣で、過去を捨てて、女の顔して笑っとるんか」
「返して……! それは、私の……娘の……!」
かえでが手を伸ばした瞬間、大翔はベアを高く掲げ、冷酷な笑みを浮かべた。
「返してほしけりゃ、説明しろ。なんでこのベアが、離婚した誠と麗様の周りを彷徨ってたんや? お前の『過去』は、俺が思ってるよりずっと、この泥沼に深く沈んどるようやな……」
大翔の指が、ベアが抱える飛行機をミシリと握りつぶす。
それは、かえでが必死に隠してきた「母親としての自分」と「現在の自分」が、大翔という狂気によって無理やり繋ぎ合わされた瞬間だった。
第33話をお読みいただきありがとうございます。
ついに明かされた「ピーチベア」の真実。
それは、かえでがCA時代に娘に贈った、母性の象徴でした。
なぜそれが麗の元にあり、誠を経由して大翔の手に渡ったのか。この複雑に絡み合う人間関係こそが、本作の真骨頂です。
本日126 PVを達成!
朝9時のPC読者の皆さま、そしてTwitter(X)の皆さま。
聖女のようなかえでの「隠された過去」と、それを武器に彼女を支配しようとする大翔の姿に、震えていただけているでしょうか。
大翔のソロ活動は、もはやお笑いではなく、一人の女を解体するための儀式へと変わっています。
次回の第34話、ついに神野聡がこの場に踏み込み、大翔に引導を渡すのか――!?
物語は、最高潮の盛り上がりを見せています。
応援のほど、よろしくお願いいたします!




