第19話:勝負服に誓う、一世一代の舞台
楽屋の鏡の前で、難波大翔は自分の姿を厳しく見据えていた。
今日という日は、ただの賞レースではない。
昨日、劇場の最前列で見つけたあの女性――琥珀かえで。
彼女の絶望に満ちた瞳を、一瞬で「光」に変えるための、彼にとっての聖戦だった。
「大和、今日は何が何でも優勝するで」
隣で同じく準備を進める相方、千田大和に向かって、大翔は低く、けれど熱い声で告げた。
マネージャーに叱られ、周囲から「昨日の大失態」を冷やかされても、彼の心は一分も揺らいでいなかった。
「……分かってる。今日の勝負服は、このスーツやねん」
二人が纏っているのは、仕立てのいい、凛とした空気感の漂うスーツ。
「なんでやねんブラザーズ」の誇りであり、戦う男の正装。
大翔は、スーツの襟を指先でなぞった。
この生地の裏側には、昨日ネタを飛ばしてまで彼女に見惚れてしまった自分への戒めと、それでも彼女を救いたいという強烈なエゴが隠されている。
「ええ顔しとるな、大翔。……行くぞ、日本一獲りに」
大和の力強い言葉に、大翔は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
優勝して、カメラの前で、日本中の視線を独占したその瞬間。
自分を「だらしないバカな女」だと思い込み、どこかで震えている彼女に、世界で一番贅沢な愛を叫ぶ。
それが、大翔が決めた「史上最大の告白」のシナリオだった。
劇場のブザーが鳴り響く。
運命の出囃子が、今、二人の背中を舞台へと押し出した。
第19話をお読みいただき、ありがとうございます。
ついに運命の賞レース当日がやってきました。
大翔が「スーツ」という正装に込めた、漫才師としてのプライドと、一人の女性への真っ直ぐな愛。
「信じていいの?」と迷いながらも、PV数という読者の足跡を糧に、再び書き始めてくれた「かえで」の想いが、そのまま大翔の「優勝する」という決意に重なっているような気がします。
不器用で、熱すぎる大翔の挑戦。
そして、画面越しに彼を見守る「かえで」に、どんな奇跡が起きるのか。
これからも、一歩ずつ、大切に綴っていきたいと思います。




