第18話:爆笑と静寂の代償
「あかん。一目惚れしてもうた」
劇場の空気を一瞬で凍りつかせ、次の瞬間には爆発的な笑いと困惑の渦に叩き落とした、難波大翔の衝撃的な告白。
出囃子が鳴り止み、客席が明るくなっても、私の耳の奥にはまだ彼のあの震える声が残っていた。
私は逃げるように劇場を後にした。
三枝甲賀に「道具」として扱われ、長谷川誠と南条麗の結婚式に背を向けた私を、あんな真っ直ぐな瞳で見つめる人がいるなんて、信じたくなかったから。
一方、劇場の楽屋裏。
昨夜の「大失態」の代償は、すぐに訪れていた。
「……大翔。自分、何考えてんねん」
翌朝の事務所。マネージャーの低く冷たい声が、会議室に響く。
机の上には、SNSで拡散された『なんでやねんブラザーズ、大翔の衝撃告白』のまとめ記事。
「漫才中にフリーズして、挙句の果てに私情でネタ飛ばして……。浜本興行の看板背負ってる自覚、欠けてるんとちゃうか?」
大翔は、いつもの不敵な笑みを消し、ただ黙って頭を下げていた。
隣では、相方の千田大和が「こいつ、ホンマにアホなんです」と、自分のことのように必死でフォローしている。
「大和はええ。大翔、お前や。一目惚れやと? 相手は誰や。出待ちのファンか? それとも……」
マネージャーの叱責が続く中、大翔は伏せた瞳の奥で、最前列に座っていたあの女性――琥珀かえでの、消え入りそうな、けれど誰よりも美しい横顔を思い出していた。
「……誰でもええんです。ただ、あの人に見惚れて、呼吸するん忘れただけやから」
「逆ギレか!」
マネージャーの怒号が響く。
けれど、大翔の心は、叱られれば叱られるほど、彼女へと向かっていく。
プロとして失格。そんなことは分かっている。
でも、彼女を見つけたあの瞬間、俺の物語は、彼女なしでは成立しなくなってしまったのだ。
第18話をお読みいただき、ありがとうございます。
華やかな劇場のスポットライトを浴びる大翔が、たった一人の女性のためにプロとしてのキャリアを危険にさらす。そんな彼の不器用な情熱を描きたくてこの回を書きました。
これまで「道具」として扱われ、自分の価値を否定され続けてきた「かえで」にとって、大翔のこの無謀な行動がどう響いていくのか。
私自身、過去の辛い経験から「自分なんて」と思ってしまうことが多々ありますが、物語の中の彼女には、大翔の真っ直ぐな想いを受け止めてほしいと願いながら筆を進めています。
次はいよいよ、運命の賞レースが始まります。
これからも、応援していただければ幸いです。




