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301号室の訪問者  作者: 社菘


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2.玄関チャイム


 一人暮らしをはじめてから、三ヶ月ほどが経った。

 毎日、新しい環境に慣れることに精一杯で、学校と不慣れな家事に疲れていた。でも、新しい友達もできて毎日が楽しい。そんな私は、すっかりあの日の出来事を忘れていたのだ。


 ピンポーン


 ある日曜日、家の片付けをしていた私の耳にインターホンのチャイムが届いた。ただ、私はその音にひどく驚いてしまった。なんせ、このチャイムの音は「玄関」から聞こえるものなのだ。


「え……?」


 このマンションはオートロックだ。家主以外の人はエントランスで部屋番号を押して、解錠されたらオートロックの中に入れる仕組みは誰もが知っているだろう。

 その、エントランスからのチャイムと玄関のチャイムの音は区別されている。掃除をしていた私の耳に届いた音は後者のほうで、エントランスから呼び出された覚えもオートロックを解錠した覚えもない。

 しかも、玄関前からチャイムを鳴らされても、誰が来ているのか映像で確認することができないのだ。すなわち、ドアスコープを覗かないといけなくて――


 ピンポーン


「ひっ」


 続けて鳴るチャイム音にびくっと体が震える。

 ドアスコープを覗いて誰がいるのか確認するべきか、このまま居留守を決め込むか考えあぐねていると、テーブルに置いていたスマホが着信を知らせた。


「も、もしもしっ!?」

「あ、春香?」

「香澄……!」


 電話の主は、専門学校で出会った友達の香澄。友達の声を聞くと安心して、私はホッと胸を撫で下ろした。


「あのさ、今……」

「わたし今、春香の部屋の前なんだけどさー」

「……え?」


 スマホ越しに聞こえた香澄の言葉に、唖然とした。香澄が何を言ったのかもう一度確認すると「だから、春香の部屋の前にいるんだってば!」と繰り返された。


「うちの前にいるの?」

「そう! 二回もインターホン鳴らしたのに、全然出てこないから電話したの」

「な、なんだぁ……!」


 そっと玄関スコープを覗くと、そこには本当に香澄が立っていた。やっと安心してドアを開けると、彼女は通話ボタンを切って「おそーい!」と拗ねたように頬を膨らませた。


「そんなこと言われても……驚いたんだもん、仕方ないでしょ?」

「ごめんごめん! 出ていく人がドアを開けてくれたから、入っちゃった」

「えーっ⁉︎ オートロックの意味……」


 結果的に友達だからよかったものの、これが全く知らない人だったら――そんなことを考えると、怖くなった。どんな理由があるとしても、私は絶対に中に招き入れたりしないことを誓った。


「それにしても、やっぱり新築は綺麗だね。一人暮らしとか羨ましい!」

「でも、全部自分でやらなくちゃだし、結構大変だよ。やっと少しずつ慣れてきたかなって感じで」


 香澄はバスで30分ほどかけて通ってきている、実家住みだ。最初は私だけの自由なお城が手に入ったと浮かれていたけれど、早くもホームシックになっている私には香澄のほうが羨ましい。

 バスで帰れる距離に実家があるなんて、すごく恵まれている環境だと身に染みて実感しているのだ。


「そうだ! サプライズで来たのにはちゃーんとワケがあるのよ」

「なに?」


 香澄は持っていた可愛い紙袋を差し出す。「開けてみて!」と言われ、開封してみた。


「誕生日おめでとう! 玄関マットなんだけど、春香に似合いそうだなと思って買っちゃったんだよね」


 誕生日プレゼントだといって受け取ったのは、淡いピンク色が可愛い、花と黒猫の柄の玄関マット。殺風景な玄関に置いてみると、一気に華やいだ。


「オレンジの照明とも合ってるじゃん!」

「すっごく嬉しい! ありがとう、香澄」


 突然チャイムが鳴った時はどうしようかと焦っていたけれど、こんなに嬉しいサプライズだったことにホッとしていた。

 部屋の壁は真っ白だが床がダークブラウンなので、どうしても暗い雰囲気になると感じていたところに香澄からのプレゼントはとてもマッチしている。玄関を見るたびに可愛らしい玄関マットが目を引いて、思わず微笑んでしまうほど。


「春香、今度は泊まらせてね!」

「いいけど、今度はちゃんとエントランスから呼び出してよ?」

「あははっ! 分かった分かった、驚かせてごめんね」


 話し込んでいたら、いつの間にかとっぷりと日が暮れていた。

 明日も朝から授業があるし、泊まる準備もしていないので、香澄はバスに乗って帰って行った。

 彼女を見送った帰り道、夕飯を買うためにコンビニに寄って、数十分程度でマンションに帰り着く。


「……」


 スマホをいじりながら、3階に止まっているエレベーターを待っていた。バスに乗っている香澄から「また明日、学校でね!」というメッセージに、猫のスタンプで返信をする。その間にエレベーターは到着して、部屋に入って施錠した。


 ピンポーン


 ――ドキッと、驚きで心臓が跳ねた。

 もしかして、また香澄?忘れ物でもあったのかな?

 

 コン、コン


 ドアの前から動けなくなっていると、今度は直接ドアをノックされた。あまりにも驚きすぎて息を呑み、震える手でスマホにメッセージを打ち込む。


【香澄、今うちの前にいる?】


 すぐに香澄から返事がきて、私は驚愕した。


【そんなわけないじゃん! もう家に着くよ】


 香澄じゃないなら、誰?

 また違う住人が誰かを招き入れて、イタズラされてる?


 あまりの恐怖に震えながらも、なぜかその場から動くことができない。じっとドアのほうを見つめたまま、私は呆然と立ち尽くした。


 ピンポーン ピンポーン


 連続で鳴り響くチャイムの音は次第に何の音か分からなくなってくるほど、頭が麻痺してきた。そう思ったタイミングで、今度はドンドンドンっとドアを直接叩かれる。ドアノブもガチャガチャと乱暴に動き始めて、足をもつれさせながら私は寝室へと駆け込んだ。


(夢だ、これは悪い夢……! 現実じゃない、現実じゃないから……!)


 布団を頭から被り、イヤホンをつけて、一晩中大音量で音楽を流した。だから、どのタイミングで静かになったのか定かではない。ただ、翌朝7時頃に目が覚めた時はシンと静まり返っていた。


(やっぱり夢、だったのかな……?)


 あの出来事が夢か現実か、確認する術はない。ただ、悪い夢だと思わないと精神が持たないと自己防衛本能が働いた。


「――うわっ、びっくりした!」

「昨日、オーナーさんが掃除してたのにね」


 学校に行く支度をしていると、ドアの向こうから隣に住むカップルの困惑した声が聞こえてきた。


(何に驚いたんだろう?)


 カップルの足音が遠ざかって、そっと玄関を開けた。そして私は、昨日の出来事が夢ではなかったことを確信したのだ。


「何これ……っ!」


 ドアの前には、黒い髪の毛が落ちていた。

 大量の髪の毛というわけではなく、数十本の塊だ。一見してみれば、ただのゴミの塊に見えなくもない。

 ただ不審だったのは、その髪の毛が私のものではないこと。私は胸の上くらいのセミロングだが、この髪の毛は一本が長いように見える。何より、私は黒髪ではなく、茶髪なのだ。


「気持ち悪い……」


 学校に行く時間なのもあり、私は髪の毛の塊を足で蹴飛ばして部屋の前から移動させた。

 何となく、この髪の毛と昨日の不可解な出来事は関連があるのではないかと思えた。


「ただのイタズラ……だよね」


 ここら辺は私が通う専門学校のほかに、大学もある。このマンションにも大学生のような人が住んでいるのを見たことがあるので、そういう学生のイタズラだと考えた。


 ――いや、そう思いたかっただけだけれど。


 

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