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雑文推理「朝起きたら私の横で夫が死体になっていた。うん、まぁ良くある事だ。」

朝起きたら私の横で夫が死んでいた。

うん、まぁ良くある事だ。別に珍しくもない。そもそも夫というのは死ぬものだしな。


なので私は動かぬ人となった夫をベッドに残してシャネルの5番姿でキッチンへ向かい家庭用万能使用人である『ポチ』にコーヒーを淹れさせた。


「おはよう、ポチ。コーヒーを頂戴。今日はちょっとミルク多めにして。」

<ピッ、かしこまりました、奥様。>

私の魅力的なシャネルの5番姿を見てもポチは動揺などしない。何故ならばポチはロボットだからだ。でもその見た目は若いイケメン風であり、ポチを初めて見た人は絶対ポチをロボットだとは思わないだろう。

そんなポチ相手に私は今朝の出来事を話し始める。


「でね、また夫が死んでいたのよ。なので片付けておいてね。」

<ピッ、かしこまりました、奥様。そしておめでとうございます。>

人が死んだというのに何故かポチは私に賛辞の言葉を掛けてくる。まぁ、ここら辺はちゃんと理由があるのだがこの世界では当たり前のことだ。なので私も普通に応えた。


「ありがとう。でもまだこれで13人目だからもっとがんばらなくちゃ。なので1年後の新しい夫候補を探しておいてね。」

<ピッ、かしこまりました、奥様。なにかリクエストはございますか?>


「昔は男の甲斐性っていったら経済力だったけど、今は断然生命力よね。もしくは体力。でもマッチョは趣味じゃないの。だからいつも通りでいいわ。」

<ピッ、かしこまりました、奥様。>


そう、私は既に今回の件も含めるとバツ13なのだ。だがこれはこの世界では平均的な数字である。なので人に誇ろうと思ったら最低でも20はいかないと自慢も出来ない。

なので私は夫との最後の睦事むつみごとで授かったであろうお腹の子を出産し、再度、子を授かれる体になる半年後の為に新しい夫をポチに探すよう頼んだのだ。


因みに最初の挨拶でポチが私におめでとうございますと言ったのは、この事である。そう、昨晩私は今は亡き夫との赤ちゃんを授かったのだ。なので夫は天に召されたのである。

もっともこれはこの世界の摂理だ。そう、男というものは女を孕ませ子孫を残すのが人生の目的であり、無事子を孕ませた男はその時点で存在価値を失うのだ。だから死んでしまうのである。


いや、この言い方は少し語弊がある。何故ならば夫を殺したのはほかならぬ私だからだ。とは言っても別に私は夫の首など絞めてはいない。勿論ナイフでぶすりともしていない。

ではどうやって殺したのかというと『魂』を喰らったのだ。そう、この世界の女は自身を受精させた相手の魂を喰らうのである。


だが、それは生まれてくる赤ん坊の為だ。そう、元気な赤ん坊を産むには生命エネルギーである男の『魂』が必要不可欠なのである。

ただ、女がその捕食能力を発揮できるのは受精した時だけなので、必然的にその捕食対象は夫となるのだ。そしてその事は当然世の男性たちも知っている。


因みに先ほど『魂』を喰らう能力を発揮できるのは受精した時だけと言ったが例外もある。それは女性が無理やり犯された時だ。

これは犯人が避妊措置をしていても発動する。なのでこの世界では滅多にレイプ事件は起こらない。仮に起こっても犯人はその日の内に悶え苦しみ憤死してしまう。

もっともこの事を逆手にとり自殺の方法として女性をレイプする男もいるから安心は出来ない。まぁ、自殺を考えるようなやつは大抵自分の事しか考えないのが普通なので致し方ない事ではある。


因みにこの世界では一回の受精で授かる赤ん坊は大抵2人以上だ。ひとりだけというケースも無くはないが稀である。逆に多い場合は5つ子なんて事もある。まぁ、そうでないと種としての数が増えないのでこれまた自然な事だろう。

そう、この世界では男は遺伝子を未来へ繋ぐ為だけに存在しているのだ。なので実は30歳を過ぎても生きている男性は、どんなに世間に貢献していようとも肩身が狭いのである。


何と言ってもこの世界ではロボットが存在するので肉体労働に関する男性のアドバンテージはない。となると男性が唯一誇れる事は女性を孕ませる事だけなのだ。

なので世の男性たちは女性に対して猛烈にアピールし自分を売り込むのである。そして女性たちはそれらの中から優秀な遺伝子を持っているであろう男性を見極めて夫婦となるのだ。


もっとも夫婦でいる期間は短い。何故ならば先にも説明したが夫は妻を妊娠させたら生まれてくる子供たちの為に魂を喰われ死んでしまうから。

因みに女性たちは子育てはしない。いえ、昔はしていたのだけど今は優秀な子育てロボットがいるので女性は子育てのストレスから解放されたのだ。


ただ、スキンシップが減った分、自分の子に対する愛情は薄れているかも知れない。もっともこの子供への愛情も出産時のリスクを避ける為に少なく産んで大事に育てるという、人間が生み出した生存継承戦法から来たものだとしたら、正常に産みさえすれば後はロボットが育ててくれる環境では不必要なものとして退化してもおかしくないだろう。


だがこの事は男性側からすると非常に不公平な事に思われるかも知れない。だがそれは自然の摂理だ。この事から逃れられる存在はいない。

いや、実は男性は長い年月をかけて進化し、この摂理に逆らう術を編み出していた。


そう、彼らはなんと魂を喰われて死んでも生まれて来る赤ん坊たちの誰かに転生するのである。

もっともこの転生率はそんなに高くないらしい。専門の研究機関の発表では33%くらいだそうだ。更に転生したとしても前世の記憶はないらしい。


まぁ、何かの拍子に思い出すケースもあるらしいが稀な事例だろう。

かくしてこの世界では種の存続に関しては女性が主導権を握っているのである。


そもそも現在はパワー的なチカラが必要な事が起きてもロボットで対応できるし、知的作業に関しても別に男女で差はない。仮にあったとしたらそれは個体差である。

なのでこの世界では男性というものは本当に遺伝子を未来へ繋ぐだけの存在なのだ。


そして今、私のお腹には新しい生命が宿った。多分死んでしまった夫の魂もいるはずだ。そうゆう意味では私は夫を殺してはいないとも言える。いや、それどころかこの世界へ新たに産み出そうとしているのだ。

もっとも、ここら辺の捉え方は人それぞれだろう。そして色々な考え方や受け止め方があるから『物語』は生まれてくるのだ。


そんな事をぼーっと考えていた私にポチが声をかけてきた。

<ピッ、奥様。一男お坊ちゃまよりメールが届いています。>

「あら、めずらしい。いいわ、読み上げて。」


<ピッ、かしこまりました、奥様。>

『拝啓、母上様。お元気でしようか?実は母上様に紹介したい女性がいます。なので来週の休日にお伺いしてもよろしいですか? 敬具 一男より。大好きな母上様へ』

<ピッ、以上でございます、奥様。>


「あらあら、いつのまにか一男も大人の階段を昇っちゃっていたのね。むーっ、でも少し早過ぎない?どう思うポチ。」

<ピッ、一男坊ちゃまももう16歳ですから適齢期でございます。奥様。>


「そっか、となると私は毎年子供を産んでいるからこれからは1年毎に子供たちが旅立って行く可能性があるのねぇ。むーっ、ひとりくらいは女の子だったらよかったのに。」

<ピッ、次にお生まれになるお子はきっと珠のような女の子でございますよ、奥様。>


「ふふふ、ありがとう、ポチ。でも今回はちょっと間が空いて4年ぶりの出産だから不安だわ。」

<ピッ、3年前は『丙午 (ひのえうま)』の年でしたし、その後にパンデミックが起こりましたから仕方ありません。ですから奥様にはなんの責もございません。それにご出産に関しては確かに些か高齢出産の時期にさしかかってはいますがご心配には及びません。これからお子様がお生まれになるまで私がサポート致します。なので奥様におかれましては心安らかにその日をお待ち下さい。>


「解ったわ、ポチ。大丈夫よ、私は絶対丈夫な赤ちゃんを産んでみせるわ。」

<ピッ、はい、奥様。私も微力ながら全力でお仕え致します。では少々気が早いのですが、生まれて来るお子の名前を考えては如何でしょう?因みに去年生まれた女の子で一番多かった名前は『凛 りん』ちゃんでございます。>


「凛か・・、まぁ悪くはないけど私としては花の名前がいいかな。出来ればすごくゴージャスなのがいいんだけど?」

<ピッ、となると『ラフレシア』などは如何でしょうか?この花は世界一大きな花としてギネスにも載っていますし、某宇宙海賊漫画の敵役女王のお名前でもあります。>


「語感は悪くないけど実際の『ラフレシア』はビジュアルが微妙だから却下だわ。」


<ピッ、では古代中国にて『百花の王』と謳われた『牡丹』はいかがですか、奥様。>

「あーっ、あの花は確かにゴージャスよね。でも語感が微妙だわ。なので小学校に入学してから男の子にからかわれないかしら?」


<ピッ、そのような男子児童は私が説教しておきますのでご安心下さい、奥様。>

「ふふふ、ほどほどにしておいてね。でもそうなると後の候補は・・。『薔薇』は漢字がまさにゴージャスって感じだけど名前としては微妙よね。『菊子』は気品があるけど、名字と被るしゴージャスというよりは清楚って感じだわ・・。んーっ、女の子の名前って難しいわ~。」


<ピッ、確かに一男坊ちゃまたちの時は生まれた順に『数字+男』で統一しましたので楽と言えば楽でしたね、奥様。>

「そうね、でも思春期を迎えた子たちからは大ブーイングだったわ。俺たちはおそ松クンブラザーズじゃねぇーっ!って。」


<ピッ、最近は男の子の名前もキラキラ系が増えましたから。これも世の流れでございます、奥様。>

こんな他愛の無いポチとの会話に対して、私の中に突然いたずら心が芽生えた。


「ねぇ、ポチ。ちょっとクイズを出してあげるわ。さて、私の名前はなんと言うのでしょう?」

<ピッ、奥様。読者の方々を試そうとなされていますね?ですか問題が簡単過ぎます。なんせこれまでの文中に頻繁に出ていますから。>


「そうね、でもこうゆうのが割りと常識が邪魔して判らないものなのよ。」

<ピッ、さすがです、奥様。いわゆる『引っかけ』というやつですね。>


「まぁ、珍しいと言えば珍しいかも知れないけど探せば結構いそうな名前よね。」

<ピッ、そうでございますね、奥様。因みに読者の方々にヒントを出してあげても宜しいですか?>


「『文中で頻繁に使われている』だけでも結構なヒントだったと思うけど?まぁ、いいわ。こうゆうのって判らないとモヤモヤするしね。」


<ピッ、ありがとうございます、奥様。それではヒントですっ!奥様のお名前は漢字で書くと一文字ですっ!これで判らなかったら小学生からやり直せっ!>


「ポチ、言葉が荒いわよ。と言うか本当に小学校に乱入されたら困るわ。」

<ピッ、申し訳ございませんでした、奥様。配慮が足りませんでした。でも本当にそれくらいのレベルの推理ですけどね。>


「さて、それじゃ私は出かけるわ。なので夫の後始末は宜しくね。」

<ピッ、かしこまりました、奥様。全ては私にお任せ下さい。またお帰りになるまでには後任の旦那様候補も見繕っておきます。それでは道中、お気をつけていってらっしゃいませ。>


ポチの言葉を背中で聞き流しながら私は久々の独身を謳歌する為に町へ出かけた。でもその前に病院に寄って行こう。そしてお腹の子の性別を調べてもらうのだ。

そう、今は科学が発達して受精後直ぐに卵子内の染色体数が判るのだ。まぁ、また男の子だったら少しがっかりだけど、そこはあきらめるしかない。


でも何となくだけど今度こそ女の子の気がするのよね。

なので私は期待に胸を膨らませて自動運転のタクシーに掛かり付け産婦人科の名前を告げたのであった。


-お後がよろしいようで。-

この物語は昆虫のカマキリと一部の鳥類の行動を参考にしました。

こんな世界はねぇーっ!と思った方もいるかも知れませんが、結構あるんですよ?


因みに奥様のフルネームは『菊地 奥』です。なのでポチは奥様の事を『奥様』ではなく『奥』様と名前で呼んでいたのです。

ね、結構簡単な問題だったでしょ?

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― 新着の感想 ―
 人類が進化し、科学技術も発達した社会なのに丙午の迷信がしっかり残っている、と驚き、むしろ人類女子全員「男を食い殺す」女子なので丙午かどうか関係ないのでは、と思い、しかし不合理的なものが意外と残ってし…
推理……?
 嫌な進化をしたものですね。これは人類の人口が増え過ぎないよう適応した結果なのでしょうか。  あと男性が生まれてくる子どもに転生というのは、さすがに書いていて筆者様が自己嫌悪を覚えたからかな?  記憶…
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