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赫の神は休めない  作者: sei10


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8 魔術の適性とは

「起きろ」








「起きろ、ネム二等騎士」


「..............むぅ? ッぁ!? りょうかい! い?」


薄暗いレンガ造りの部屋。そして、ネムはその中央に鎮座する物々しい椅子に縛り付けられている状態だ。当然ながら、ネムはあたりをきょろきょろと見まわし、困惑と恐怖の入り混じった表情でこちらを見つめている。


「....よし。では、今から魔術の適性を調べる」


「はい!」


考えることを放棄したのか、ただ威勢の良い返事だけを返すネム。その返事を確認して、俺は椅子を中心として展開された魔法陣を起動した。


この魔法陣の効果は単純明快で、中央の椅子に座る人物の魔術に対する適性を見るモノだ。


とは言っても、これで判別出来るのは一般魔術とよばれ、大陸で最も普及している四元素に、加えて光と闇の二属性。一括して4+2の『六大元素』という範囲の魔術だけ。貴族が相伝で受け継ぐ血統魔術などは対象外だ。


まぁ、別にネムがどこぞの高貴な血筋だなんてことは万に一つもないだろうし、ネムみたいな境遇は闇か火あたりの適性が強くなるので多分大丈夫だろう。



起動した魔法陣には、ポゥ.... と淡い光が灯り、その身に宿る適性を量り取る。まずは、一般魔法とも称されるほどに普及している四つの適性を測る魔法陣に魔力が巡り.... しかし、それらはうんともすんとも反応しない。


「.....ここまで適性が無いのは珍しいな」


続けて、魔法陣の光はより外周に張り巡らされた対となる円陣に移っていく。


その二つが示すのは光と闇への適性。かたや大陸全土で最も信仰される一神教において神から授けられた御技の一つにも数えられるモノ。かたや魔人族や魔物の多くが生まれ持って行使できるが故に、古い時代では禁忌とされたモノ。


そして、ネムが示したのはとても強い闇への適正だった。


「あーね。どうすっかなぁ...」


意図せず漏れたこの言葉には理由がある。


まず、魔術の適性とは精神の在り方に依存する。これは純然たる事実であり、魔術師たちにとっては一般教養レベルの基礎基本だ。実際に適性と精神の関係は500年続く魔術史における膨大な積み重ねによって証明されており、精神鑑定が魔術適正の判別手順として確立されている。


田舎の村とか、この魔法陣のような魔術師が手ずからに構築しなければいけない設備の無い場所では、「お前は血気盛んだから火!」とか、「自由奔放だから風かな?」とか。そんなあやふやな適性診断が行われてるが、これが実は結構当たる。


しかしそれは反対に、属性が分かればそれに対応した性格が自ずと分かるという事。


例を挙げれば、火は情熱や好奇心を持つ者... 時たまに復讐心を持つ者にも発現したりするし、風は自由、水は無垢、土は頑固、といった感じ。そして....


そして闇は、無力や喪失を心に抱える者に微笑む属性だ。


その魔術の大半が他者を直接的に害することしかできないモノであり、精神が歪んだ者が発現することが多い。それゆえに忌み嫌われ、呪術などとも揶揄(やゆ)される。


できれば復讐心ゆえの火属性とかがよかったんだが.... 仕方ないか。コイツの面倒を見るのは決定事項だし、闇属性を教えるアテはあるにはある。


「ふぅ..... よし。【解放(Ακύρωση)】 次だ」


俺は椅子の拘束を解除し、ネムについてくるよう促しつつも次の場所へと足を運ぶ。


今いる場所は新兵訓練場(ブートキャンプ)の地下であり、この地下室は魔力量に富んだ新兵のために俺が設置した、適性検査用の一室だ。その他にも俺の戦利品置き場なども併設されていたり、深手を負った兵士の処置をするための集中治療室とかも作ってある。


そして、俺が今向かっている場所は集中治療室。先ほどは深手を負った兵士の処置と言ったが、他にも生命魔術の一系統である魔術的処置を肉体に施す場合もここを利用する。


元より新兵訓練場(ブートキャンプ)には怒号と悲鳴が飛び交っているし、地下なので天然の防音機能もある。時たまにここで騎士爵の令息への肉体強化を行うのが、俺の寂しい懐を潤してくれていた。


そして、俺がネムに施す強化も、それら貴族の子供が受けることの多い肉体強化の施術だ。


魔力量にある程度は余裕のある貴族の血筋であれば、余剰分の魔力を肉体強化に消費できる。そして俺が施せる魔術は、成長に伴い完成されていく肉体の練度をさらに高めるモノだ。


ネムは年齢に似つかわしくないくらいには魔力が豊富なようだし、この施術を受けておいて損はない。ビオス伯爵家の50年前の女当主が、筋肉密度をより高めることで外見上はスラッとした女性的肉体美を保持しつつも、肉体強度を上げられる術式を開発したからな。


あとのデメリットは、その施術が死ぬほど痛いことくらいだ。麻痺と気絶をさせたとしても、それを上回る痛みで意識が覚醒してしまう位には痛い。


俺も幼少期に背中にデカデカとした魔法陣を刻まれたもので、その時の施術は今でも夢に見るほど痛かった。結果としてその施術を受ける人は、この世の者とは思えないような絶叫や悲鳴をだす。これが施術を地下室で行う理由だ。


「ネム。強くなりたいか?」


「....ぅん」


「痛くても?」


「.........うん」


「死ぬほど痛いぞ?」


「......................ぅん」


ネムはちょっとばかりチキったが、それでも座った目で言い切った。であれば俺から言うことは無い。


そうして到着した一室の手術台の上にネムを寝かせ、俺は手術台に刻印された魔法陣を起動させる。


「良い夢... は、見られないだろうけど。頑張れ」


麻痺に睡魔の魔術によって、ネムは穏やかな顔で本日2度目の眠りにつく。そうして俺は、素早く施術を進めていった。






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