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赫の神は休めない  作者: sei10


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13 エルド大河

俺という貴族には休みという概念が存在しない。理由は、王都から派遣されてきた文官.... もとい、頭でっかち野郎が俺を馬車馬のごとくこき使うせいだ。


今日も今日とて、俺は朝から中央指令室として設営された天幕で、面倒くさい任務を寄こされた。


その名も、「エルド大河調査任務」


帝国領と王国領の境を流れるエルド大河は、ここ300年ほどは水龍の住処になっている。ゆえに、川が凍結して水龍とその眷属共が海に移動する時期以外は渡ることが難しい。


いわゆる天然の防波堤というヤツだ。しかし、冬はその限りでないのはお察しの通り。


魔王国と接していないために夏場をぬくぬくと過ごしている王国のハイエナ共は、この時期を見計らって帝国を引っかき回しに来るのだ。


今の月は11月で、例年の水龍大移動もちょうどこの頃。毎年の恒例行事みたいなもので、水龍にちょっかいを出しても生還できる面子(メンツ)で偵察がてら水質調査をしに行く... はずだった。


去年からは俺が単独で行くようになったけどね。人件費の削減ってヤツだよ、世知辛いね。


そもそも、誰も好き好んで死地に飛び込もうとはしないものだ。なんてったって、水龍は世界で五体しか発見例のない『祖龍』と呼ばれる龍の最高位。よって、偵察であっても冒険者と傭兵には莫大な追加料金が必要になるし、騎士連中は対人特化とは名ばかりのお荷物だから連れていくだけ無駄。


なら、俺一人で見てきた方が100倍マシだろう? ま、今日は背中のと合わせて二人だけどね。




「馬を一頭貸してくれ、今日中に返却する」


「はいよ。そこに名前と階級を書いてきな」


馬房の飼育係に声をかけ、壁から下げられた羊皮紙(ひようし)に文字を書く。


そうしてこげ茶色の馬を見繕うと、俺はネムを背中に縛り付けてからその背にまたがった。良く調教されているようで、軽く手綱(たづな)を引くだけでその方向を向いてくれる。


「よぅし、キャロップ号! 行くぞ!」


「そいつの名前はバルスですぜ」


藁のロールを崩しながら、飼育係はそんな不吉なことを言った。バルスって.... 墜落もとい落馬しそうな名前だな。縁起わっる。


「....改めて、バルス号! 行くぞ!」


そうして、二人と一匹は第三補給基地からエルド大河へと出発した。


まずは魔王国と帝国の北部前線である、通称"死の荒野"から東に進んでいくと、小さな森林地帯に出る。そこにはある程度整備された林道があり、そこを抜ければ海にも見紛うようなエルド大河が東と西を分断している。


小休憩を挟みつつだが、3時間ほどで目的地に到着できたのだから、今日の馬はアタリだな。


ネムはバルス号を干し草でねぎらっており、その隙に付近の太い木にバルス号を繋いでおく。


朝はげっそりとしていたネムも、俺の気づかいの甲斐(かい)あって馬上でもいびきをかいて寝ており、そのおかげで歩く気力を取り戻していた。


若さっていいね。


ネムが馬に夢中になっている間に、俺も俺の仕事へ向かう。とはいえ、水辺で腕を突っ込むだけだ。.....まだ凍結までは行ってないが、水龍とその取り巻きは既に移動を終えているな。であれば一週間ほどで大河も凍り始めるだろう。


「要警戒っと...」


木の板に張り付けた羊皮紙... もとい報告書を書き上げる。


ここは大陸でも北部なのもあって、冬場の寒波はすさまじい。ゆえに魔王国との戦いも一時中断となるのだが... 俺たち帝国は冬場にこちらへ兵力を割く必要がある。


例年通りなら、川辺に(やぐら)を等間隔で建てていき、そこから少し後ろに駐屯地を設営する。ま、大軍が攻めてくるようなことは今まで一度も無かったが、今年は魔王国から受けた被害が大きかったのもあって、その隙を突こうと王国が攻めてくることもあり得なくはない。


王国は四元素の魔術が発展している魔術大国なので、相応に魔道具の研究も進んでいるだろう。冬でも全裸で走り回れる火の魔道具を開発していれば、奴らは意気揚々と攻めてくる。それほどまでに、帝国と王国は仲が悪かった。


「.....ん?」


ちょっとした休暇気分で大河を眺めていると、不意に何か... 生命体の反応を背中の魔法陣が捉えた。南側から、川岸に沿ってこちらへと歩いてくる何者かだ。


「......」


とっさに大木の影に身を隠し、(ふところ)から取り出した手鏡で相手の出で立ちを探る。


一目見た印象は、まだ年若い冒険者の娘といったところ。しかし、こんな場所にそんなヤツがいるだけで怪しさ全開だ。帝国と王国の国境線に一人で.... それも、年齢からして高位の冒険者なんて可能性も少ない。


服装は典型的な初級冒険者の着ける皮鎧。しかし、服に着られているような印象を受ける。そして、腰には細身の剣を差していた。


「ァ......!?」


不意に、俺はその白亜の剣に対して猛烈な既視感を覚えた。そして、俺の思考は即座にその原因を思い出す。


それは十字剣と呼ばれる、聖騎士が正式礼装と定める騎士剣の一種。剣身に聖典より引用された言霊が刻まれた準聖物であり、その刃は魔術を切り払うとか。


そんな代物を堂々と腰に差している時点で、アイツは教国の手の者だ。それも、規律に厳しいと評判の聖騎士が単独行動をしているということは、それ即ちアイツの実力がそれに足ると認められたことを意味する。


教国が帝国と王国の小競り合いに介入? んなバカな。教国ほど大義のない戦争を嫌う国は他にない。ましてや、他国の争いに介入するなどもってのほかだ。


他に何か.... わざわざ聖騎士をこの地に派遣する程の事があった?





「.....ッチ、わっかんねぇなー」


いくら邪推しても、俺の頭じゃ分からないことは分からない。それに、このままいけば馬の世話をしているネムとあの推定聖騎士はばったり出くわすだろう。


「しゃーなし。ちょっくら”お話”しますかねぇ」


抑えていた気配を解き放ち、あからさまな気配を垂れ流す。そうしてこちらに気づいた少女騎士は、よどみなく抜いた十字剣をこちらに向けた。




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レビュー   狂喜乱舞

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