12 キャラバン
背中に背負ったネムの体温を感じながら、俺はまず第三補給基地に足を運んでいた。ちなみにだが、ふくらみなどは一切感じられなかった。断崖絶壁である。
そんな調子で歩を進め、俺は初めに補給基地の中央に建てられた天幕を訪れた。そこで本日の任務の手続きを行い、朝飯ついでに基地の見回りも兼ねた散歩をする。
そうして武器補給処から始まり、食料配給所、魔導通信施設、衛生兵駐屯地、最後に嗜好品補給処まで、そんな順で俺とネムは補給基地を見て回った。
「って感じかな? 特に食糧配給所は普段からお世話になるし、衛生兵には媚び売っといたほうがもしもの時に助かりやすい。覚えとけ」
「.....うん」
配給所で受け取った朝飯の黒パンをスープでふやかしつつ、俺はネムに軽い戦場の知恵講座を開いていた。ちなみにネムは固形物ではなく消化にいい粥を、震える手ですくっている。
「おぅい! そこの坊主と嬢ちゃん! 今回は良い品が入っているよー!」
そんなこんなで食事を終えた俺たちに、間延びしたお声がかかった。
見慣れない顔だが.... 嗜好品補給所に露店を開いている様子からして、冬ごもり前最後のキャラバンか。ちょうど色々入用だったし、寄ってみようか。
「よし、好きな物を買ってやろう」
「.....ほんとう?」
「ほんとほんと」
千鳥足で立ち上がったネムを背負いなおし、声をかけて来た商人.... なんとも胡散臭そうな顔をしているおっさんの露店に顔を出す。
「坊ちゃん! 今日は冬前最後ってわけで、普段ならお高い品も安く売れますぜ?」
開口一番、おっさんは有無を言わせぬ勢いでまくし立てた。あからさまに金の記章を見て目の色を変えたな。ちょっとだけ俺の警戒度メーターが上昇した。
「とりあえず... 肌触りの良い布と、女児向けの服はあるかい?」
「布は... 安いので銅貨三枚。逆に上物は教国印の新品が、一枚で金貨五枚! これは洗礼を受けた特別な糸を使っているから、洗濯不要で10年は持つぜぃ?」
「あー じゃ、上物を頼む。だが金貨五枚はボり過ぎだぞ? せいぜい金貨3枚が良いとこだ」
「おいおい坊主、それはやりすぎってもんだぜ! いくら安く売るってったって限度ってもんがある」
「.....じゃ、金貨四枚で良い。だけど、追加でその布の切れ端を付けてくれ」
「よっし! 取引成立だな、坊主。あと、背中の嬢ちゃんの背丈なら、向かいの店がおすすめだ。あと、俺の兄弟がやってる古物商なんかもおすすめだぜ? 目利きに自信があるなら掘り出しモンが見つかるかもな」
ほくほく顔の商人から折りたたまれた布の包を受け取り、俺はそれを腰に下げた小さな袋にしまい込んだ。そして.... 目の色を二転三転させた商人に向かって、一言。
「戦場商人なら、引き際は弁えているな?」
腰の袋めがけて突き出されたその手を、俺は即座に踏み付けていた。
この小袋は俗にいうアイテムボックス。小さな布地に特別な処理を施した糸が魔法陣を描くように縫い込まれた、帝国の空間魔術を継承する侯爵家が独占販売する魔道具。空間の拡張率にもよるが、時価で金貨300枚は下らない。
商人の欲に眩んだ目が、手のひらから伝わる骨の軋む痛みで恐怖に上書きされてゆく。
「良いことを聞いた礼に今回は赦す。だが、二度目はない」
「.......寛大な処置を賜り、感謝申し上げます..............」
うずくまる商人を尻目に、俺は向かいの露店へと向かった。
「....こわ」
「俺ほど心優しい貴族は、帝国中を探してもそういないぞ? 前も行った通り、本来ならその場で斬首だ」
そんなやり取りをしつつ、向かいの服売りの露店を物色する。売り子の婆さんは先ほどの光景を見ていたようで、ビクビクしながらおすすめの服を出してきた。
最終的に、俺は銀貨五枚で質素な普段着を三着に、冒険者用のコルセットと胸当てが付いたタイトな服を一着。加えて下着の詰め合わせをサービスしてもらえた。普段着と下着はともかく、皮のコルセットに鉄製の胸当ては本来かなり値段が張る。いい買い物が出来たな。
「よし、次は古物商行ってみようか。好きな装飾品を見繕ってくれ」
「.....うん!」
今まで聞いた中で一番いい返事だ。やっぱり女は着飾るのが好きねぇ....
そんなことをぼやきつつ、俺とネムは露店に並べられた装飾品を見て回る。装飾品は錆び付いた指輪から片方しかない耳飾りまで、色々な種類があった。
その中でも、俺は特に魔力を感じられる品を見繕う。
「コレ.... いや?」
目についたのは青い宝石のあしらわれたピアス。米粒程の大きさしかないが、魔力の含有量的にかなりの上物だ。変な不純物もなく、魔術の刻印用や触媒としても使える一級品に見える。
とでもじゃないが、こんな粗雑に扱われるような代物ではなかった。
しかし、俺はピアスを付けるような趣味も無いし... かといってネムにわざわざピアスを付けさせるってのも気が引ける。
なんというか.... 前世の気性ゆえに、ピアスとかに厳ついイメージを持っちゃってるんだよな。女性は普通に着けるんだろうけど... いかんな、貴族ならば普通に男女問わずつけてるし、あまり偏見は持たない方が良い。
買っておいて、気が向いたら加工してみよう。
「おっちゃん、これはいくら?」
「おぉ? それは.... そうさな、銀貨一枚で」
「買った」
少々食い気味に銀貨を渡すと、店主は怪訝な表情をしつつも丁寧にピアスを包んでくれた。そして、背中に背負ったネムの方を見ると、ネムはある一点に視線を向けている。
「へぇ.... 指輪か」
特に目を引く何かがあるわけでもないが、ネムはその指輪に見入っていた。少し傷が入っているが... 気に入ったのかな?
「アレにするか?」
「うん」
店主にその指輪と.... あと、目に留まった髪紐を手に取って渡す。
「こりゃあ... 銅貨5枚と、銀貨3枚ってとこだな」
「え”?」
「こいっァ金糸を編み込んでる髪紐でな。特別なまじないが掛かってるわけじゃないんだが、その分値段はたけぇよ」
「....しゃーない。買った」
俺がてきとうに選んだ物とはいえ、あれだけネムに豪語しておきながら値切るのもどうかと思い、俺は交渉せずに二品を受け取った。
そうして、ネムの人差し指にでも指輪を付けようとして....
「ゆるいな」
子供の指には少々大きすぎたらしい。しかし、そこで店主はこちらに声をかけてきた。
「ほれ、コレで首に下げな」
そう言ってずいと出されたのは、何の変哲もない金属製のチェーン。受け取って指輪を通し、首から下げるとピッタリだ。
「で、銅貨3枚」
「.....商魂たくましいね」
銅貨三枚を追加で手渡し、俺たち二人はキャラバンを後にした。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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