11 翌朝
朝日が顔を出したころ、俺はまたブートキャンプに足を運んでいた。まだ火の刻の初めなのもあって、昨日は怒声と悲鳴で賑わっていたトラックには人影もない。
なので堂々と教会へ入り、地下への扉を下っていく。
「おはよう。眠れなかったか?」
もっこりと膨らんだシーツの中のネムに声をかけると、まるでゾンビのようにネムはベットから這い出してきた。指先が赤くなっているのを見るに、かなりチョーカーを外そうと頑張ったらしい。ま、無駄だけどな。
いくら一朝一夕で使えるようになる初歩の封印魔術とはいえ、非力な少女の力で破れるほど脆くもない。
だが、これまた随分とキツかったようだ。ネムは身体を起こせないほど疲労しているにも関わらず、恨めしそうな、死んだ魚のような目をこちらに向けていた。
「....流石に今日は訓練を課さないでおこうか」
昨晩は眠れなかっただろうし、それに今も魔力回路が開けた影響で眠れないだけだ。確実に疲労は蓄積するし、それは健全な成長や今後の鍛錬に良くない。
せっかく魔法陣を刻んだのだから、それを有効活用できる下地は早めに整えるべきだろう。
.....そういえば、まだネムには刻んだ魔法陣のことを説明していなかったな。
「順序が逆になった気がするけど、ここでお前に刻んだ魔法陣について説明しておこう」
「......」
沈黙を肯定と受け取り、俺は魔法陣の機能を部屋にある黒板.... のような物に書き出した。
1 超回復の補助
2 命を前借りする魔力補給
3 筋肉密度を上げることで細身のまま肉体強度を上げられる
この1から3が主な魔法陣の効果だ。
まず、1の超回復の補助。この超回復というのは、前世でもあった「筋トレ後に筋肉が回復し、元の状態よりも強くなる現象」を指す。が、異世界ではそこに更なる強化要素があった。
というのも.... 少し話は逸れるが、まずこの世界における人類が扱うファンタジー要素は大きく分けて二つ。一つは俺のような魔術師が扱う魔術。そしてもう一つが、鍛錬によって肉体と魔力を同調させ、人外の膂力を獲得する武術だ。
ちなみに、武術は身体強化術の延長ね。
そしてこの武術.... 超回復が起こる段階で肉体と魔力の同調が飛躍的に促進されるという隠し要素?がある。よって、睡眠時に回復する魔力の余剰分を肉体に充てることで、武術鍛錬の効率を上げられるのだ。
それが一つ目の魔法陣の効果。
そして二つ目..... は、正直言って最後の切り札.... というより、イタチの最後っ屁だな。
「これに関しては、まだ覚える必要もない」
で、最後の三つ目。これは俺の背中にデカデカと刻まれた魔法陣にはない、女性専用の魔法陣だ。フィクションでよくある、「その細腕のどこにこんな力がァ!」みたいなシュチュエーションが楽しめる。ま、女には大切な要素なのだろう。しらんけど。
ちなみに、俺の魔法陣にはある「生命体の探知」「死の予感」など、生命魔術の系統に入るものは含まなかった。貴族がその血統魔術を分け与えるのは、自身の派閥に属する寄子の貴族家のみ。逆に言うと、これらをネムに刻めば俺はネムを一生飼殺す必要がある。
だから、俺はこれらを刻むことはしなかった。
俺はネムを生かすと決めたが、その人生まで縛ったわけじゃない。俺がネムを手元に置くのは、ネムに課された兵役の期間だけだ。それ以降は俺も干渉しないつもりでいる。
「よし。と、いった具合だな。何か質問は?」
依然としてネムは口を開かなかった。それを見届けて、俺は「今日一日は休みにしよう」とだけ残し、部屋を後にしようとして.....
「ん?」
背を向けた俺の服のすそが引っ張られる。見ると、ネムは布団からにゅっと出した細腕で服を掴んでいた。
「どしたん?」
「おいて.... いかないで」
「えぇ?」
何度も休むことを進めるが、ネムは断固として俺の服を離さない。疲れているだろうに、子供ながらあっぱれな根性だ。皮肉だけど。服が伸びる.... というか、千切れるから離しなさい!
しかし、結局俺はネムを背負って今日の見回りに出ることにした。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応




