Side ネム
わたしのお家は、村のおっきな門のすぐ近くにある小さな家でした。
お母さんの顔は思い出せないけれど、お父さんはいつも朝ごはんと夜ごはんを作ってくれました。
お父さんは村の衛兵さんで、近所の薬師のおじちゃんが言うには ”帝国の犬” というらしいです。近所の孤児院の友達とかくれんぼをしているときに、そう話しているのを聞きました。
意味はよく分からなかったけれど、たぶん強くてカッコいい仕事をしているんだと思います。
ある日、お父さんがお仕事で遠くに行かなきゃいけないと、寂しそうな顔で言いました。その時のお父さんの顔は真っ赤で、普段は見かけない小麦色の瓶を片手に大声を出していました。
その時のお父さんはちょっぴり怖かったけど、普段お父さんがしてくれるように頭をなでると、お父さんは私のことを抱きしめて、静かになってくれました。
ちょっとだけ痛かったけれど、あったかくてうれしかったです。
それから数日後に、私は村の孤児院で暮らすことになりました。お父さんは「せんそう」というのに行くらしいです。初めは良く分からなかったけど、神父様がお父さんの代わりだということを聞いて、なんとなく分かりました。
昼間は孤児院のみんなと遊ぶだけで楽しいけど、朝と夜に食べるシチューの味は少しだけ薄い気がしました。でも、周りのみんなはいつもよりおいしいと、興奮気味にシチューにがっついていました。
それからわたしは、シスター様の言うとおりにお祈りをするようになりました。朝と夜に、お父さんが元気で帰ってきますようにって、そう祈ればきっといつかお父さんも帰ってきてくれる。そう、シスター様は言いました。
シチューは、少しだけ味が濃くなった気がします。
お父さんが戦争に行ってから、2年くらいが経ちました。まだお父さんは帰ってきません。でも、毎日祈りは欠かしていないので、きっとお父さんは元気です。
しかし、私たちの村は元気ではないみたいでした。村の農家さんたちが育てている麦が不作だったそうで、毎年行われる収穫祭は出来ないそうです。
村じゅうが、なんともいえないピリピリとした空気をまとっていました。そして、ごはんが食べられなくなったと言って、近所の家族は他の街へ行ってしまいました。
それからというもの、近所に住む人たちはどんどんいなくなってしまいました。木こりのおじさんが村からいなくなると、それに続いていっぱいの人がいなくなってしまいました。
ある朝、食事当番だった私が起きると、今日はシスター様の姿がありませんでした。
不思議に思って神父様の部屋に行っても、そこはもぬけの空でした。でも、私は食事当番です。他のみんなが起きてくる前にごはんを作らないといけません。そう思って食糧庫を見てみましたが、そこももぬけの空でした。
それから、孤児院はおかしくなってしまいました。
年長組のお兄ちゃんやお姉ちゃんは、それから三日後にはいなくなってしまいました。彼らは、自分の食い扶持や身寄りを探せと、そう言葉を残して、村から出て行きました。なんでも、10さいになった人は街で冒険者見習いとして生きられるそうです。
わたしもついていきたかったけど、わたしはまだ8さい。必死にお願いしたら、最年長の子に殴られちゃいました。
そして、わたしは食い扶持を探しました。でも、近所に残った村の人たちの家をめぐってみたけど、どこでも門前払い。
「無駄飯ぐらいは野垂れ死ね」と、近所のおばさんに言われました。
だから、わたしは身寄りの方を探すことにしました。
お父さんは戦争に行ったそうです。なので、わたしも戦争に行けばお父さんと会えるはず。ちょうど、村には義勇兵という戦争に行く人の馬車が来ていました。そこでは数人の村人さんが皮の腕巻きを貰っていて、それがあれば戦争に行けるそうです。
なのでわたしも、その腕巻きを着けました。
腕巻きには変な模様が掛かれていて、少しだけポカポカするような感じがしました。そして、困ったような顔をした大人の人に腕巻きを見せると、わたしは戦争に行ける馬車に乗れました。
馬車には初めて乗ったけど、始めはおしりが痛かったです。ゴトゴト、ゴトゴト、馬車の揺れに慣れてきたころ、一人のおじいさんがわたしに話しかけてきました。
「お嬢ちゃん、どうしてここに?」
「わたし、お父さんのことろに行くの」
「ふむ.... この馬車がどこへ行くかはしっているかい?」
「戦争に行けるんでしょ? お父さんも戦争に行ったの。だからわたしも行くの」
「.............」
それから、おじいさんは黙ってしまいました。
良く見るとお爺さんは片足が棒で出来ていて、手には銀色の手錠を着けていました。それについて聞いてみると、おじいさんは昔にも戦争に行ったことがあるとだけ言いました。
他にも、おじいさんはパンをくれました。皮の鎧を着ている人がたまにパンを一つくれるけど、それだけでお腹は膨れません。そうして粉がついた指を舐めていると、おじいさんはパンを一つくれるんです。
そんなことが何日か続いて、わたしはついに戦争にやってきました。
おじいさんは最後に、「胸にピカピカしたバッチを着けている子供がいたら、その子と喋ってみなさい。もしかしたら、同情してくれるかもしれない」と、そんなことを言いました。だけど、わたしはお父さんを探しに来たんです。ピカピカも、バッチも、わたしにはいらない。
おっきな建物に着いてから、わたしは周りの大人の人にお父さんについて聞いて回りました。
だけど、だれもお父さんのことを教えてくれません。一人目の人は、悲しそうな顔をして目を背けちゃいました。二人目の人は、お父さんは死んだと言いました。
でも、わたしは祈っていたんです。だから、お父さんは元気なんです。
そうしてついにわたしは、見つけました。
「お父さん!」
その言葉が出たのは、見覚えのある鉄の鎧が見えたからです。村の門に立っているお父さんの後ろ姿が、その人の後ろ姿と重なりました。そうしてわたしは駆け寄って.... だけど、その人の顔はお父さんじゃありませんでした。
「んだよ?」
ぶっきらぼうなその人に、わたしは今までと同じ質問をします。
「ベリオ・ガフって人を知りませんか?」
「はぁ? 知らねぇよ」
「ッじゃ、じゃあそのよろいはどこで!?」
面倒くさそうに、その人はこういいました。
「その辺の死体から剥いだんだよ」
そこから先は覚えていません。
ただ二つ、お父さんの名前と、おじいさんの言葉だけが、頭の中でずっと響いています。
「ピカピカした... ばっち」
わたしの見上げた先には、金色のバッチを胸に付けた男の子がいました。
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レビュー 狂喜乱舞
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