第67話『マルクと恋バナ』
あの日から変わったことがある。
俺に話しかけて来た女子の格好を、マルクが真似するようになったということだ。
「…今日はセレナ嬢の真似か、一体どういうことだ?」
マルクの真似が結構上手なので思わず剣士の道よりもそっちの道を目指した方がいいと思えてしまった。
するとマルクがこちらにやってきた。
「…着いてきてください」
俺はマルクに手を握られて人気のない場所に誘導される。
倉庫の裏にやってきたらマルクは足を止めた。
「…お兄様、今僕が何を考えているかわかります?」
…?
いや分かるわけねぇじゃんと言いたいところなのだが、マルクは真剣に俺の方を見ているため、変な回答は出来ない。
…言えるわけねぇじゃん!
なんか勝手に考えていることを言ってしまったら、マルクのイメージが変わっちまう。
「…俺のこと?」
冗談っぽく言うと、マルクは黙ってしまった。
…図星?
なぜ?
「…どうした?」
「お兄様は...好きな人はいますか?」
「…?」
弟からの突然の恋バナ!
…恋バナしてしまったらお前に思いがバレてしまうだろうが!
だが、ちょっと教えてしまうくらいならいいだろう。
「…っていうか、ここで話すことか?」
「だって、最近お兄様の部屋は人が多いじゃないですかぁ…」
や、やめてくれぇ…
初めてキュン死してしまうじゃないか!
「じゃあ、夜に俺の部屋に来い」
「い、いいんですか?」
「ああ、それにあともう少しで授業だろ?」
「…本当ですね、では教室に向かいましょう!お兄様!」
突然の笑顔!
…キュン死しちゃってもいいわ。この笑顔を見れたなら…
________
「…入っていいぞ?」
「し、失礼します」
俺の部屋に入るのは何度もあるはずのマルクなのだが、今日はなぜだか緊張していた。
マルクの持ってきたものを見ると、なんと枕まで持ってきているのである。
「…枕まで持ってきたか、まあいいけどさ」
俺はもう受け入れることにした。
「それで…お兄様に好きな人はいますか?」
マルクはもう俺のベッドにもぐりこんで質問してくる。
俺は椅子に座ってマルクと話す。
「…一応いるぞ?」
「そうですか…」
マルクは少ししょんげりとする。
俺はこのまま特徴を話す。
「…そいつはとても可愛らしいやつでな、話しているだけでこっちも幸せになるんだ。そいつはとても嫉妬深くてな、それでいてとっても身近な人なんだ。だから…一緒に過ごしていくって考えると、すごい幸せだなって思うんだ」
「…///」
マルクは俺の布団の中にうずくまってしまった。
俺はその後、明かりを消して椅子に座って寝ることにした。
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僕は今、お兄様の部屋にいます。
そしてお兄様の好きな人の話を聞いています。
でもその特徴が…
『…そいつはとても可愛らしいやつでな、話しているだけでこっちも幸せになるんだ。そいつはとても嫉妬深くてな、それでいてとっても身近な人なんだ。だから…一緒に過ごしていくって考えると、すごい幸せだなって思うんだ』
(…僕のこと?!)
マルクはアウリスの話を聞いて、その相手が自分なのではないかと考えていた。もちろんそうなのであるのだが。
(…僕だとしたら、そう思ってくれていたのかな)
マルクはアウリスの言葉を噛みしめてアウリスのベッドに気付かぬ間に寝てしまった。