第56話『俺は』
俺達は夜のアルテンの滝に来ていた。
月の光を反射する水たまりはとても美しく、滝を流れる音も聞いているだけで美しい。
「…懐かしいわ、ここでアウリスに助けてもらったっけ」
「そう…だな」
とあのときと同じまでとは行かないがそのような会話をする。
マリアは少し先に進んだところで歩くのをやめてこちらを向いた。
「…元々落ちなければ、今言うことを…もっと先に言えてたかもしれないのになぁ…」
と言いながら下を向く。
と思ったら急にこちらを真剣な眼差しで見つめる。
「…」
「…どうしたんだ?」
俺は突然見つめられるとは思っていなかったため、少し驚いてしまった。
「…ふふ、アウリスは変わったね。前だったら”…ふん”って言いながら私の話を聞くだけだったのに…」
とマリアは笑顔になって滝に視線を向ける。
「…私の言いたいこと、分からないわよね」
とこちらを向きながら
「…私、アウリスのことがずっと好きだったの。結婚…してくれない?」
と愛の告白をする。
だが俺は今日、マルクに対する思いに自覚した。
「…済まないが、その願いは聞くことが出来ない。俺は…マルクのことを好きでいるからだ」
俺の本当の思いをマリアに伝える。
「…そう、ね。それが…アウリスの気持ちだもんね…」
とマリアはそう呟き
「………ごめん、一人に…させてくれない?」
とアウリスにお願いされた。
さすがのアウリスも理解した。
そうしてアウリスがアルテンの滝を去る直前、彼女の…かつての少女の頬には涙がちらりと見えた。
…何か実際に言葉にするとマジで恥ずかしいな。本当に言って良かったのかは分からないが言わないと後悔しそうな感じがした。
「…終わりましたか?」
とマルクは質問をする。
「終わった…な。ちょっと寂しいが」
と口にするとマルクは気づけば俺の布団に潜り込んでいて
「もう夜も遅いですし寝ましょう、お兄様」
と俺に語りかけてくる。
今日の俺の判断は間違ってはなかった…と思う。でも、あのマリアの顔を見てしまうと…何が正解で、何が間違っていたのかがいよいよ分からなくなってくる。
「…お兄様は、マリアさんの気持ちを…どう思っていますか?」
とマルクが急に質問をしてきた。
「気持ち…?マリアが素直に気持ちを明かしてくれたのは嬉しかった。だから俺も正直に気持ちを伝えたんだ。嘘やその場しのぎは良くないって思って…」
とマルクに説明する。
「…お兄様がそうするのであれば」
とマルクは納得したかのようにこの話題を終わらせた。
するとすぐさまにものすごい量の魔力を感じた。
「…マルク、感じるな」
「はい…とんでもない魔力量ですね」
と俺達は窓の外を見る。一人の大柄な男がいた。
その男は、杖と剣を装備した状態でこちらの宿に入ってきた。