第55話『気付く』
ようやく俺がベッドから出られるようになった。
「来たわアウリス、水に落ちてしまったんだってね」
とちょっと笑うかのようにマリアがやって来た。
「懐かしいわ、私もとある滝で落ちてしまったの。でもある少年が助けてくれたの」
と昔話を切り出す。
「もしかして…アルテンの滝ですか?」
「そうだけど…よく分かったわね」
あらぁと言いながら驚くマリア。
「このタイミングで言うのもあれだけど…戻ってきたよ、マリア」
俺はもう疑問が確信に深まった。間違いなく、あの記憶の中の少女はマリアさんだ。
「戻って…え?やっぱり…アウリス?」
と何やら戸惑っているようだった。
人違いだとマジで困るんだけど…
「…アウリス、おかえり!!!」
そう言いながらマリアは俺に抱きつく。
やべぇ…マジいい匂いが…
そう思いながら俺はふと扉に目を移すとすごい形相をしたマルクがいた。
こちらの視線に気づくとマルクは扉を開けてこちらにやってきていた。
「…僕がいない間に随分と楽しそうことをしているじゃないですか、お兄様?」
この顔をしたマルク…長い間接してきてよく分かる。
俺、死んだ。
…朗報、まだ俺は生きていた。
「この人…あの闘技場の人じゃ…」
とマジの鬼の形相をするマルク
「久しぶりにあったもの、仕方ないじゃない」
と開き直るマリア。
「ま、まぁ…一回落ち着いてくれ。そして」
「お兄様は少し静かにしてください」
「は、はい…」
俺は発言権すらないようだ。
「懐かしいわね、昔はおばけが怖かったからアウリスと一緒に寝てもらったわ」
といっしょに寝た自慢をする。
…というか俺の記憶だとマリアと一緒のベッドには入ってないような…
「それなら僕だって一緒に寝ています」
と何とか対抗しようとする。
「何だったら僕は一緒にお風呂まで入っています。僕の勝ちですね」
と何故か勝利宣言までするマルク。
するとマリアは
「私は…」
とネタが無くなったのか言葉が詰まる。
もはやこの二人仲良しなのではないかとすら思ってしまう。
…何かそれは嫌だな。
…嫌?
どうして俺はマルクが他のやつと仲良くしているのを見るとこうも嫌悪感を抱くようになるのだろうか…
別にマルクだって将来は素敵な人を見つけて幸せに過ごしていくだろうし、もしそうなったら俺の出る幕はもうないだろうな。よく仲良くなった兄貴とくらいにしか思ってくれないだろうな。
もしそうだったらなんか嫌だ。もっと俺のことを考えてほしい。
なんかこの感覚、覚えがある。
前世でもしたな。
そう
この思いは…
恋だと気付いたときの気持ちだ。
あぁ、俺、
マルクのことが…好きだったんだな。
それも、ただのミーハー的な感情じゃない。もう生活の一部なんだ。
俺の抱く気持ちは…そんな測定機でも測れないくらいの重さなんだ。
「…アウリス、夜さ、時間ある?」
とマリアが俺に話しかけてきた。
「時間?あると思うが…」
「じゃあさ、ちょっと話したいことがあるからさ、アルテンの滝に来てくれない?」
と言いながらマリアは去ってしまった。
その時のマリアの目は、何故か少し悲しそうな目をしていた。