第47話『決着』
俺は遠くの方からマルクたちを見つめていた。なんかヴィルシスさんが本来の姿になったり、マルクが剣を抜いたり…なんか相棒感出してるけど…どういう状況なん?
「…ヴォルティオール、倒れてない?」
そう、周りを見ると謎の女性とマルク、ヴィルシスが戦っている構図なのだが、ヴォリティオールが倒れているのがどうも気にかかる。
「…何でか知らんがピンチになってしまってる。絶対良くない」
作戦とはいえ遅刻している身なので少し足早に向かうことにした。
街の中央の噴水広場は氷漬けにされていた。その中からかき分けるように出てきたマルク達。
「…流石に神氷を出されたときはどうすればいいかと思いました。ありがとうございます、ヴィルシスさん」
お礼を言うと氷の塊から姿を表す。
「まあね、何とか炎陣を出せたから良かったけど、出せてなかったら今頃は固まっていたでしょうね…」
何とかなってよかったわと呟くヴィルシス、その後ろをついていく形になった。
周りを見渡すと賑やかな光景は真っ白に染め上げられていた。
「…とんでもない魔法ですね」
「そうね…」
とこちらを向きながら説明をし始めるヴィルシス。
「神氷というのは、そもそもの話氷という概念を作る魔法なの」
「概…念…」
「そう、だから全てを凍らせることのできる魔法なの」
魔法の使うことのできないマルクは概念だとか言われてもピンと来なかった。
「…とりあえずフィローネを探しましょう」
「そうですね」
こうして歩き出そうとしたとき
「すごいなぁ、これも演出か?」
と、この場の雰囲気に似合わない呑気な声が聞こえてきた。
おぉ、色々とすげぇなこれ
俺は氷漬けにされていた街の中心部に訪れていた。確か集合場所はここだった気がするのだが…
「お、お兄様!いいところに来てくれました!ヴォルティオールさんが…」
「アウリス!いいところに来たわ!」
と二人同時に話しかけてくるのでついつい混乱してしまう。
「…どっちかから話してくれないか?」
と俺は一回二人の喋っているところを遮る。
とにかく状況を説明してもらった後、「お兄様はこのようなことも予見されていらしたなんて…」なんて言っていたがよく分からない。だが褒められるのも悪くない気がしたので曖昧な感じで誤魔化した。
「…とりあえずヴォルティオールは俺の部屋で寝かせる。ヴォルティオールの体調次第でここに戻る、その間マルクはヴィルシスと一緒に行動してくれ、ヴィルシスも分かったか?」
と説明すると納得したのか了承してくれたが、ヴィルシスは「全く、人使いが荒いんだから」と言われてしまった。その点に関しては本当に申し訳なく思っている。
「…お兄様、気をつけてくださいね」
「あぁ、気をつける」
俺はヴォルティオールを抱えて自分の部屋に向かった。
先程の噴水広場には紫がかった髪色をした一人の妖麗な女性が立っていた。その場所に竜とマルクが到着した。
「…なんだ、生きてたんだ。後悔することになるよ?あのまま死んでいたほうが良かったことにね?」
と訴える。
「フィローネ、君は何がしたいんだ?」
「…ヴィルシス、私はもうフィローネという名前は捨てたよ。今の私は、NO.2の闇の操縦者よ」
「コードネーム…?!」
マルクは思い当たる節があった。
「…フィローネさんはもう、人の道を外れてしまってます」
「私も薄々感じていたけど、そのようね」
とマルクは剣を抜き、ヴィルシスは魔法を放つ用意ができていた。
「…次こそ、倒してみせます!」
そう意気込んだマルクだった。
とりあえず到着したが…とんでもない状態か?
ヴォルティオールをベッドに寝かせて様子を見ているのだが起きる様子はない。
この部屋は学園の部屋のため廊下とかには普通に生徒がいるのだがその廊下にいる生徒は生徒会に所属していたりと何かと用のある生徒しかいない。
「…さぁ、どうすればいいのだろうか」
女性を部屋に、しかもベッドに寝かせたこともないし、それなりに知識があるわけではない。しかもこんなところを誰かに見られたら…
「アウリス、何で女性を連れ込んでいるの?」
ほら〜!!!!!
「怪我人を救護していただけでしたか、失礼しました」
「納得してくれたようで良かった」
突然俺の部屋を訪れたハルトはどうやら女性を襲うと勘違いしたそうだ。そんなわけ無いだろ。
「というかこの方は…ヴォルティオールさん?何故怪我を…?」
「そこが俺にもわからないのだが…」
とハルトとも話すがよくわからなくなってきた。
「…容態が良くなるまで俺はここにいようと思うのだが、ハルトはどうする?」
「周りの先生に協力を仰ぎます!」
「そうしてくれるとありがたい」
そのままハルトは先生に報告しに行ったが…こっちの状況はあまり良くなっていなかった。
「マジでどうすればいいんだ?」
俺はそのまま頭を抱えることになった。
戦いは均衡状態になった。マルクはいつぞやの黒髪状態…分かりやすく言うならば覚醒状態だったのだ。
「…このままじゃ埒が明きません!」
「貴様らしぶといな!楽に始末ができん!」
とフィローネはマルクたちの対応に手を焼いているようだった。
「…仕方ないわね、これを使うしか…黒放電之宴」
ヴィルシスが雷属性の魔法を詠唱すると、空からものすごい量の雷が降ってくる。
「…くそ!こんな魔法があるなんて」
とフィローネはかろうじて避けているがギリギリだろう、ものすごい集中力でもなければできなかっただろう。
(…こんな魔法、ヴィルシスが使えるなんて…)
と驚いていると一つの剣が飛んできた。
「これ…は…あいつの…剣?…しまった!!!」
そして剣に気を取られたその隙をつかれ、雷に当たってしまったのだ。
戦い終わる頃には完全に氷塊は消えていた。いつもどおりの街になっていたが、ボロボロのマルクと満身創痍のフィローネがいた。
「…まさかこの私が負けるなんてね、驚いたわ」
ヴィルシスは満身創痍のフィローネのもとに駆け寄った。
「…フィローネ」
「ヴィルシス…ね」
と二人は見つめ合うも何も話すことはない。
「…懐かしいな、ヴィルシスと出会ったのは…ほんの30年前くらい?私が洞窟で迷子になっているところを助けてくれたんだよね」
懐かしいねと言いながら喋り続けるフィローネ。
「…気づくべきだったよね、私にはヴィルシスという幼馴染がいるのに…大切なことに気づくこともなくこんな取り返しのつかないことを…」
と泣きじゃくりながら口をつむぐフィローネ
「…ヴィルシスはさ、私のこと、どう思ってくれてたの?」
「フィローネ!もう喋らないで!」
と何とか喋ることをやめさせようとするヴィルシスなのだがそれでも喋るフィローネ
「…あぁ、死ぬってこんな感じなんだ。あの子もすごいよね、よく耐えれたものだな」
「もういい…喋らなくても…死んじゃう…」
「どうしようとも死んじゃうからさ、喋らせて。あの子についた魔法は私が死んじゃえば解呪できると思う。そうだ、言えてなかったけどさ、あのとき助けてくれて…ありがとうね…」
そう力を振り絞った後、フィローネの体から力が抜ける。
「フィローネ?嘘だ…フィローネ?返事…してよ…フィローネ?フィローネェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
この日、闇の操縦者ことフィローネは、親愛なる幼馴染に見送られ、息を引き取った。