第4.5話『お兄様』sideマルク・クロドネス
この話と5話を同じ日に投稿します、ご了承ください。
第5話 19時00分
僕の名前はマルク・クロドネス。小さな頃の記憶はなく、気づいたらクロドネス家の次男になっていた。僕にはお兄様がいて、そのお兄様はかっこいいのだけど、少しだけ怖かった。
なんか近づくなみたいな雰囲気を出していた。僕に対しては何もやっていなかったけど、家族と話したりすることはなかった。けどお兄様は僕のことを気にかけているのか、危ないことをしようとしたら口は悪いようだけど止めたり、心配しているようだった。
そんなある日、お父様とお母様に水晶に触らされて、そして何故か残念がっていた。お父様から聞いたらそれは魔力量を測るものだったらしい。そしてお父様から言われたのは、
「マルク、お前には魔力がなかったんだよ」
お父様は「大丈夫だからな」とか言っていた。
マリョク、とは何かわからなかったんだけど、アウリス兄様にはあったらしい。それからというもの、外を出ると、
「あれが魔力無しのマルク?」
「やめなさいよ」
「貴族としては恥さらしよね」
「普通に暮らしてて恥ずかしくないのかしら」
と度々言われるようになった。これを気にしない性格ならどれほど良かったのだろうか。マルクの性格上、考え込んでしまった。何故自分は魔力のない状態で生まれてしまったのか、親に謝れるのであれば謝りたかった。こんな落ちこぼれでごめんなさいと。
少ししてからもう慣れてしまった。小言を言われる生活に。それでも言われたら少し気にしてしまう。そして自分は気を紛らわすかのように剣を扱うようになった。
周りから剣を使っても同じと言われたがそんなことはどうでも良かった。どうやらマルクには剣の才能があったらしく、剣の扱いでは屋敷の中で勝てるものはいなかったらしい。
マルクは剣を振っている間は嫌なことを忘れられた。剣の実力を確かめたかったので兵士と戦ってみた。結果としてはマルクの勝ちだった。マルクは初めて味わった、勝利というものを。それからは趣味ではなく、自分の職業として剣を振るおうと決意したマルクは、更に剣に打ち込むようだった。
少しして、兄様の様子は変わった。食堂の位置がわからなかったり、誰に対してもはじめましてみたいな反応だった。そこからマルクはアウリスと話すために部屋に向かった。メイドが出た後を見計らい、部屋に入った。
「アウリス…兄様…ちょっとよろしいですか?」
「どうしたマルク」
「あの、兄様って、魔法は使えますか?」
兄様には魔力はある、そんなの分かりきっていたことだった。それでもマルクは聞きたかったのだ。
「魔法…か、まだ使えないと思うぞ」
まだ使えない、だがそれはあともう少しで使えるようになるという暗示だったのだ。
「やはり…そうですよね、兄様はいずれ使えますもの」
「マルクは使えないのか?」
「…はい、生まれつきなものでして、魔法を使っているところを見ると羨ましいのです」
正直話すのが怖かった。魔力のない弟として馬鹿にされてしまうのではないかと。
そして、当たり前のように魔法を使える兄様が羨ましかったのだ。
「…そうか」
「…ごめんなさい、兄様の足を引っ張ってしまって」
いつの間にか本心が溢れていた。こんな弟でごめんなさい、こんな落ちこぼれでごめんなさい、こんなグズでごめんなさい、色々とマルクは謝りたかった。自分の存在で兄様の足を引っ張ってしまうと考えると頭の中で出てくるのは謝罪の言葉ばかりだった。
「そんなことはないぞ、魔法が使えなかろうと、俺の弟に変わりはないのだから」
まさかの一言だった。まさか自分の弟が魔力がなくて、魔法が使えない異端児だと言うのに、お兄様はそれでも僕を弟として認めてくれていた。
「…兄様」
「足を引っ張っているって?全然そんなことないぞ、だから胸を張ってくれ」
それは、これまで苦しみ、悩み続けてきたマルクにとって救いのある言葉だった。
魔力のないものにこんなことを言える人がどこにいるのか。その言葉を信じてもいいのかわからなかったけど、信じたかった。信じられるのであれば信じたかった。
「…うぐ…」
今まで抑え込んでいた感情が一気に出てきた。今までこんなことはなかったのに、けども、兄様の言葉で救われた感覚がした。
「…今日は満足するまで俺がいてやる、好きなだけ泣いてろ」
口調はいつもの兄様でしたが、安心できる感覚があった。ぬくもりがあった。少なくとも、今までの人生で感じることのなかった感覚だった。だからこそ、マルクの溜まりに溜まった感情が一気に放出されたののだろう。泣きつかれてしまったであろうマルクは、眠りについたあと、ベットに運ばれた。
そして翌日、マルクはアウリスよりも早く起き、アウリスの部屋に忍び込み、
(ありがとうございます、僕のことを救ってくれて、お兄様のお陰で自分に自信を持てました。お兄様、大好きです)
そう思いを乗せると、アウリスの額にそっと唇を当てたのであった。
二話連続投稿となりますが許してください。