第44話『私は②』
お兄様は本当に遅れてくるらしい。そう思っていたらヴォルティオールさんがやって来た。
「…こんにちはマルクさん」
「ヴォルティオールさん…こんにちは」
少し気まずい空気感に苛まれながらも会話を続ける。
「ところでアウリスさんは…」
「お兄様は少し遅れてくるそうです」
「そう…ですか…」
遅れることを報告すると更に気まずくなってしまった。するとヴィルシスはマルクの耳元でこっそりと囁いた
「…ヴォルティオールのあの感じ、どこか懐かしい魔力を感じるけど…」
「魔力?」
ヴィルシスさん曰く、ヴォルティオールさんから魔力を感じ取れるらしい。
「そう、あの魔力…」
となにかを伝えようとしたタイミングでヴォルティオールさんが話しかけてきた。
「…大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
どうやら心配してくれているだけだった。
「縺ゥ縺?@縺ヲ」
「?」
ヴォルティオールさんは何かを呟いているように聞こえたが聞こえなかった。
「縺ゥ縺?@縺ヲ縺ゅ>縺、縺後>繧九?」
「ヴォルティオール…さん?」
よくわからない言語を喋っていた。
「危ない!」
いつの間にか自分は空中に浮かんでいた。
「…ヴィルシスさん…」
「思い出した、あれは…闇暗組織の能力者の一人…」
自分はヴォルティオールさんを見つめていた。何が起きたのか分からなかった。
「操りし者 闇の操縦者」
「闇の操縦者?」
初めて聞くことだったので疑問に思っているとヴィルシスさんが説明してくれた。
「闇の操縦者っていうのは一人の人間を操ることができるっていう能力なんだけど、これの一番恐ろしいのは自覚症状がないことなのね」
「自覚症状…?」
「そう、自覚する機会がないから気づくこともないの」
「…じゃあ今のヴォルティオールさんの状態は」
どうなんですかと言い切る前にヴィルシスさんが答えてくれた。
「状態は最悪って言ったとこ…もう喋っている時間はないよ」
「そう…ですか」
「一つ言っておくね、この能力の攻略方法はね、信頼することだから。覚えていてね」
「信頼…すること…」
信頼…この言葉は自分にとってこれほど深く浸透したことはないと思う。今まで自分が困難を乗り越えられたのは兄を、アウリスを信用していたからだった。
今ヴォルティオールの身に起こっていることを考えると信頼っていうのはどう関連すべきかは分からない。
けれども、今の彼女にするべきことは多分…
「じゃあ下ろすよ」
「うん」
地面に着地したマルクはヴォルティオールのもとにたどり着いた。
「ヴォルティオールさん…」
「…」
先程は喋っていたのだが今は口を開いていなかった。
「…大丈夫、僕が来たから。安心していいよ」
この一言を言い放つと彼女の右手は無意識にマルクの手に届いた。