第36話『兄弟対決の決勝』
「ついにこの大会、決勝までやってきました!そんな決勝のカードは1番&14番対4番対15番です!」
司会がそう言うと観客は盛り上がる。こういう盛り上がりはスポーツとかでよく見る感じだ。
「よろしくね♡」
「…お兄様を…誑かして…」
「まあまあ落ち着いてくれ」
ああやってマルクの怒りを収めたあいつ、常識人だな間違いない。
「さあこの大会最後の試合が始まろうとしています!」
さああともう少しで始まるな、取り敢えず深呼吸だ。
「油断するなよ」
「あなたもね。この口調、やはり…」
「油断しないでくださいね」
「当たり前だ!」
「それでははじめ!」
こうして試合が始まった。
最初は様子を疑っていた。だが均衡状態を破ったのはマリアだった。
「私の魔法に沈むといいわ、闇空間」
そうして空間ごと削られる、幸いエルミーとマルクは避けていたため犠牲になることはなかった。
「マリア、それはやめてくれ」
「分かったわ」
もうあの魔法を使うことはないといいんだが…。
「お兄様、僕と戦ってくれませんか」
「マルク…」
「僕の実力を…知りたいのです」
「そうか、泣いて後悔するなよ。マリア、俺はマルクの相手をする。あいつの対応を頼んだ!」
「分かったわ」
「兄弟対決の決勝、悪くないな」
「行きます、空天神斬」
マルクは宙に飛び舞うと流れるがままに剣を振る、その動作は美しい。まるで雨のようだった。
だがアウリスは避けなかった。当たっているのにもかかわらず避けなかった。そのせいか身体から傷が出ていた。血が大量に出ていた。
全然避けることのなかったのでマルクは剣の動きを止めた。
「どうして避けないのですか、大量に出ていますよ、血」
「どうしてかな…これは避けちゃあいけないと思ったんだ…まあ俺のエゴだな…」
「そんな自分勝手…言わないでくださいよ…どんな思いで僕が兄様と戦っているのか分かっているですか!」
「…」
確かにアウリスは自分勝手な発言をしている。だがそれよりも決勝の場だと言うのに戦いもしなかったアウリスに腹が立った。
傷を負いまくったアウリスは限界に近かった。空天神斬は威力が高かった。普通なら死んでいた。だが驚異的な生命力で生き延びていた。
ヤバいなぁ…どうして避けなかった?避けたくても動かなかったぞ…それにしても痛ぇ…意識が朦朧と…仕方ない…これを使おう…前に発見した謎の薬だ…
「ホイよ…俺の…切り札だ…」
パリーン…
アウリスが薬を投げると何かの割れる音がした、ガラスの割れる音だ。
「何だこの匂いは!」
おっさん、俺も思うよ。嗅いだとき臭えなと思ったもん。
「…この匂いは…まさか!魔力増量剤?!」
「マリアさん、知ってるんすか?」
「知っているなんてものじゃないわよ、この大会では持っている時点で駄目なものよ!」
ドーピングみたいなものなのかね…。というか持っててもいけないやつなの?そんなん置いとくなよ!
「そうか…この試合は、もう捨てだ」
そうして闘技場の真ん中にやってきて
「…俺達は降参する、負けを認めるってことだ!」
会場がしんとする。まさか負けを認めるなんて…
「なんと、1番と14番は降参の宣言をしました!こんなこと決勝では初めてだー!」
そう司会が言うとブーイングの嵐だった。
「もっと続けろ!」
「こんな醜い決勝を見るために金払ったんじゃないからな!」
「ちょっとマイクを」
「何を…ちょ!やめ…」
アウリスは司会者のマイクを無理やり取って周りに宣言した。
『皆さん、もっと迫力ある戦い、みたいでしょ?ここからはルール無し、死んでもおかしくないハラハラドキドキのとんでもない無法地帯の決勝戦だー!』
俺が言うと会場はかなり盛り上がった。ブーイングは一つも聞こえなくなっていた。
「1番やるじゃねえか!」
「確かに物足りなかったからな!」
「ちょっと…?」
「アライさんは離れたところから見てください、死ぬと思うので」
「は、はぁ…」
司会者が後ろに後ずさったところで再び舞台に上がった。
「何のつもりなの?」
「…ワクワクのない戦いなんて嫌でしょ?」
そうして勝者は決まったものの戦いを繰り広げていた。とにかく離れるアウリス、攻撃を続けるマルク、魔法を放つマリア、様子を見るエルミー、まだ決勝らしい戦いとは言えないが会場は盛り上がっていた。
(流石に血まみれだと来るところがあるな…)
そう、忘れてはいけないのはアウリスが傷まみれだというところだった。
「逃げてばっかでいいのですか?」
「うるさい…」
マルクが煽ってくるようになったのだが…タイミングを見極めているんだ黙ってろ!
「戦ってみると変わったな、マルク」
「成長…と言ってください」
「もうとどめを刺しますね、水流け…」
「あらよっと」
バナナみたいな皮を投げてみた。
「あ…」
マルクは滑ってしまった。確実に終わった。頭をぶつける…
「激しく行き過ぎかよ、弟の面倒を見るこっちの身にもなってくれよ」
何とアウリスはマルクをお姫様抱っこしていたのだ。
「どうだ?お前の剣はあっちにある」
「負け…ですね、お兄様にはかないません」
「マリアー、そっちは終わったか?」
俺はマリアの様子を確認する。
「終わらせましたわっと、このエルミーという人、かなり手強かったわ」
「…まあ本体なら俺らの勝ちなんだが…司会者!表彰式だ!」
「…え?まあ、優勝者が決まりました!これより表彰を始めていきたいと思います!」
そうして表彰式が始まろうとしていた
「…お兄様」
「どうした?」
「…そろそろ降ろしてください…恥ずかしいです///」
「あ!すまない!」
マルクを降ろしたあと、周りを見ていたら司会者や関係者はトロフィーや何やらの準備を進めていた。