第28話『NO.12対アリシア』
アリシアはNO.12との戦いにおいて劣勢であることは確実だった。何故ならNO.12の言う通り、アリシアは回復魔法しか使えなかった。回復魔法で敵を倒せるかと言われたらそうではない。
「あなたみたいな可愛らしい子、嫌いだわぁ、何故って?私よりも可愛らしいからよ」
「そんな理由、あっていいはずがないですわ…」
アリシアは怒っていた。なんと自分勝手な理由でそんなことをするのだろうかと
「あなたの場合は、いじめがいがあるわねぇ♡」
「…」
アリシアは何も言えなくなってしまっていた。ここまでの人間が存在するのかと疑ってしまったのだ。残念ながらこれは現実、夢ではないのである。この絶望的状況にアリシアは呆然となることしかできなかった。
…このおっさん誰だ?俺の可愛い弟をいじめていたから殺したまでだけど…それに…
『決まっているだろ、俺の可愛い弟を傷つけた。それだけだ』
なんて臭いセリフはいてしまったー!死ぬときにこれ思い出したら黒歴史確定だろこれ…
いまアウリスはマルクを抱えている、姫様抱っこの状態で運んでいた。
どこに運べばいいのかわからないな…取り敢えず木陰で休ませるまでか?
「ガラクタまみれだな、何が起きたのやら…マルク、教えてくれないか?」
なんちゃって…まあ喋るわけが
「お兄様は気づいていたのですね、さすがです」
「おまっ、傷はいいのか?!」
「少し痛みますが…まあなんともないです」
大丈夫なのだそうだ、絶対嘘だろう。
「絶対嘘だろ、取り敢えずこのあたりだとまずい、休める場所を探そう。しばらくはこの状態が続くが…我慢できるか?」
「大丈夫です。僕はあなたの弟なのですから」
「じゃあ大丈夫か、行くぞ」
(この状態…?もしかしてお兄様…)
「…やはり無理かもしれません…///」
「すまん、もう無理だ、耐えてくれ」
「…///」
「どうしたのぉ?逃げてばっかじゃ私に勝てないわよぉ?」
アリシアは自分の置かれている状況がかなりまずいと判断したためすぐに逃げの判断を取った。町中を駆け巡るが、足の速さは同じなのか全く差が縮まらないし、逆に差がつくわけでもない。均衡状態だったのだ。
「超回復!」
「回復魔法を放ったところで私に勝てるわけが…」
だがアリシアも何も考えていないわけではなかった。
「超回復!超回復!超回復!」
とにかく回復魔法を放った。その中でもレベルの高いものをだ。
アリシアはかつての想い人、アウリスからとあることを聞いていたのを思い出した。
〜学園内〜
実験をする教室にいたアリシアとアウリスはとあることをやっていた。
「いいですかアリシア様、ものには容量というものがあります」
「それは知っていますわ」
「例えばこのコップに水をいれるとしましょう、ギリギリまでいれるとどうなると思いますか?」
「…こぼれるわね」
「コップの大きさだけでは水を入れきれなかったんです。これを魔法でやってみるとどうなると思いますか?」
「…魔法で?」
「…この法則は魔法にも言えることですし、貴族的なことを申しますと、人間関係にも使えるわけです。なので人間関係にも最新の注意を払っての生活も心がけていくと良いですよ」
そしてアウリスがいなくなった教室にはアリシアのみ残されていた。
「…魔法…容量…考えたことなかった…」
アリシアは深く受け止めたが、アウリスは(アリシアってたまにとんでもないことするからなぁ、人は繊細だということを教えてやらないとな)と思っていただけなのである。
「どうじで…ごの…わだじが…」
NO.12は回復魔法を食らっただけなのだが何故かダメージを負っていた。もう耐えられない、苦しい、そんな思いがNO.12を支配していた。
(くっ苦しい…こんなこと…今までなかったのに…)
「やってみて正解でしたね…まさかこんなに効果があるなんて…」
この少女は何を言っているのか分からなかった。このタイミングを…まさか狙っていたのか!と質問したかったが口から出ることはなかった。
「…まあ仮説になりますが、あなたがダメージを負っているのは回復魔法の容量を超えたためだと思われます。要するに中毒状態というわけです」
(回復魔法の…中毒…?)
全く聞いたことがなかった。いくら人を回復させる回復魔法だとしても、回復魔法でダメージを追わせる方法は思いつかなかったからである。
「あなたの体はこれ以上回復魔法をかけたら死ぬ状態までありますね…普通ならいらない量までかけてしまっているので…」
「た…だずげ」
「嫌です♡」
その後、NO.12は変死体として発見されたそうだ。なんとも恐ろしい最後なのだろうか…
〜救護テント内〜
マルクは考えていた。自分はNO.11の戦いを経て自分は倒せるほどの実力を持っていたのか…
(恐らく僕はお兄様がいなければ殺されていたはず…)
とにかくあの場面にアウリスが来ていなければ(ガチのたまたま)、あのとき剣に刺されて死んでたことは明らかだった。
(…それにしても、お兄様かっこよかったなぁ…)
そう、自分を助け出したときの状況、マルクは目覚めていたのだ。一部始終見ていたのである。
(「決まっているだろ、俺の可愛い弟を傷つけた。それだけだ」、この言葉、何度でも思い出します///)
「大丈夫か?マルク、俺が運んでいる間ずっと顔抑えていたけど、顔になにかあったのか?」
「…心配いりませんお兄様、もう大丈夫です」
「そうか、ゆっくり休んどけ、食欲はあるか?」
「今はそんなにですね、すいません」
「いや、ないならいいんだ。そうだ」
「?」
アウリスはマルクの近くに行くと、なんとベッドの上で体を起こしていたマルクを抱きしめたのだ。
「…兄様?」
「マルク、お前は悩みがあるとき、目を逸らす癖がある」
「…」
「きっとさっきの戦いで思い悩んでいるところもあるだろ?少しでも良いから聞かせてくれ」
「…兄様…ちょっと恥ずかしいです…」
俺がマルクの顔を見ると相当顔を赤らめていた。
「…あ、すまない!嫌だったか?」
「いえいえ、お兄様のなかはいつも僕を安心させてくれました。でもこういうことをするときはちゃんと段階を踏むものですよ?…覚えてくださいね?」
段階ってなんだ?とは思ったがまぁマルクがそう言うんだったら納得するしかないだろうな。
「そうか…覚えておく」
そうして一夜にして幕を開けた第一戦はアウリス側の勝利になったのである。
これは一夜開ける前
「…そういう事があったんだな」
「そうですね」
俺はマルクの話を聞いていた。とにかく街で大変なことがあったらしい。マルクも巻き込まれたらしい。不審者に巻き込まれるって大変だな。
「…じゃあ俺はこれで、おやすみ」
「……ちょっと待ってください」
「?」
マルクは俺のことを呼び止めると恥ずかしそうに喋った。
「…今日は一日中一緒にいてほしいです。お願いです」
「別に構わないが…」
「ありがとうございます♡」
(お兄様が…1日中…♡)
そうして1日中マルクといっしょにいたアウリスはいつの間にかマルクを覆いかぶさる形で寝落ちしていたのである。