第22話『社交パーティ』
俺達は夏休みに入っていた。夏休みくらいゆっくりゴロゴロしていたいんだが…
「アウリス、マルク、せっかくの機会だから社交パーティに出てみないか?」
この手紙をマルクと一緒に見たらマルクが不機嫌だった。分かるぜその気持ち、
夏休みを台無しにされたその気持ちは…。
城の中、豪華に飾り付けされているシャンデリアの下、俺達(以外)はパーティを楽しんでいた。
ちなみに俺は全く楽しくなかった。誰が来ても全く嬉しくなかった。こんな自分が望んでもいないパーティに出ることがこんなにも鬼畜だったなんて…。
「お兄様、楽しんでいますか?」
「…少し気分が悪いかもしれない、外の空気を吸ってくるよ」
「そうですか、僕はまだ食事を楽しむとしましょう」
そうすると俺はバルコニーに出ていくことにした。
「…奇遇ですね、アウリス殿」
やべぇ、会いたくねえ相手に出会ってしまったかも…
「アウリス殿にお聞きしたいことがあるのですが…」
「…」
「…あなたが防具や武器屋に立ち寄っていた際の女性の方を教えていただきたいのですが…」
何?!それはどんなことだ?!待て、全く思い出せないぞ、本当に。
「…お兄様、今の話は本当ですか?」
ちょっと待った!なんで思い出している途中にお前が来んだよ、まだこっち思い出している途中だって言うのに…
「アウリス殿…」
「お兄様…」
『どういうことか説明してもらうわよ!(もらいますよ!)』
全く思い出せないのだが〜!?
「そういうことでしたの〜女装していただけですのね!」
「まさか自分の女装の件でこうなっているとは思わなかったです…」
まず女装という言葉を受け入れている時点でおかしいと思うんだけどなぁ…
「わかってもらえただけ十分です…」
それにしてもまさかあの時だとは思わなかったな。あんな瞬間、見られていたのか…。確かにあのときのマルクは誰がどう見ても女性だった。あんなのはたから見ればただのカップルだった…。俺が迂闊だった。
「…アウリス殿、お聞きしますが…私とやり直しませんか?」
「はぁ…ご遠慮させていただきます」
「どうしてなのでしょうか、やはり私ごときではいけないのでしょうか」
ごときという言葉で自虐してしまうほどになっているのだろう。
「アリシア様は少し俺のことを買いかぶり過ぎだと思います。それにアリシア様はもっと良い相手がいると思ったのです」
この言葉に少なくとも嘘はなかった。
「…」
また告白されたのだが、第一王女と婚約をされたのであれば目立つに違いない、それだけは避けたいところ…。
「…仕方ないのですね。それがあなたの答えとするのであれば、私からは何も言えません」
「申し訳ありません…」
「わたしはこれで行きますわ…、それじゃあ、またね…」
アリシアっぽくない、お嬢様の使うような言葉を使わず、率直に別れを告げた。アリシアの目には涙を浮かべているようにも見えたが、その理由を俺は聞き出すこともできなかった。
(私という人間はアウリス殿にはどう見えているのでしょうか)
アリシアは社交パーティから早退し、自室の窓から景色を見ていた。自分はさっき、アウリスに振られた。アリシアはアウリスに恋をしていたのだ。あのときの縁談から魅力を感じていた。
アリシアは政略的な理由でもなく、経済的な理由でもなく、純粋に、愛が欲しかった。アウリスは自分の欲しがる愛を満たしてくれると思ったからだ。
けれども、そんなアウリスに断られてしまったアリシアにとってもはや生きる理由は残されていなかった。けれどもそこで理由もなくすぐに暴れる子ではないアリシアだった。感情のコントロールは貴族にしてはできている方だった。
(私という人物像は、あなたにはどう写って見えるのか、教えてくれませんか)
問えば問うほど涙が出てきそうになった。寸前で我慢できていると考えたほうが楽だった。けれども、自分はアウリスの争奪戦に負けた一人の女の子、そういう思考が巡ってきた結果、もう感情を抑えることができなかった。もうアリシアは収まることのなく、感情をむき出しにしていたのだ。