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番外編  筆頭魔術師サリバン

読んでいただきありがとうございます

これで最終回です

 マクドネル侯爵家から嫡男に変な魔術が使われているかもしれないと陛下に相談が持ちかけられた。怪しげな魔術には食指が動く筆頭魔術師である私のところに相談が来た。


好きな人の前で素っ気ない態度を取っているのだとか言う話だ。それは思春期の男によく出る症状なのではと思ったが、陛下の命令を無下に断るわけにはいかないので、様子を見に出かけることにした。


令息を見た途端古代の闇魔法を掛けられていると分かった。背後に黒い靄が出ていたからだ。古い書物でしか見たことがないものと対峙が出来る嬉しさで、つい興奮してしまった。



早速魔法省に帰り陛下に謁見を申し込んだ。闇魔法は人の心を操ることが出来る為、大昔に禁じられ魔術師を見つけたら処刑に出来るという法律まで作られている危険なものだったからだ。



即日陛下から謁見の許可が出た。

驚かれた陛下は王宮に秘伝の水晶があると教えてくださった。ただ操れるのは王族のみ、王位を継承される王太子様に付き添うように仰せになった。


王太子様はまだ十歳だが既に覇者の風格を備えておられ、この話も平気なふうに受け流しておられた様に思う。


秘宝殿に入ると整然としていた。その中で水晶がキラキラと輝いていたのが、何やら気味が悪かった。

殿下に手をかざしていただくと一人の少女が写った。魔石を持ち祈りを捧げていた。既にかなりの呪いが発動していて、指先から黒くなっているのがはっきりと見て取れた。


もうすぐ魔物になってしまうと考えたので、殿下に告げ捕獲に向かった。呪い返しの術を使ってもよかったが、少女本人に魔術が使える訳でもなさそうだったからだ。後ろに本物の魔術師がいるとわかっていたので、自白させたいという思いがあった。


それにあの石だ、大変興味をそそられる。是非手に取って見てみたい。


捉えてみるとなんていうこともない普通のおかしな娘だった。人の婚約者を横恋慕してどこが悪いと騒いでいた。私のほうが相応しいとも言っていた。どこからそんな考えが出るものやらわからなかった。


呪った事の自覚もなかった。身体が黒くなっていることを気づかせてやれば、ガタガタと震えていただけだった。

人を呪わば穴二つという言葉など知らないのだろう。自分のしたことは自分に返ってくるものなのだ。


結局後ろで笑っているであろう魔術師は捉えられなかった。痕跡も残さず消えてしまった。侯爵家には悪気のなかった魔法使いで通した。一体何がしたかったのか不明のままだ。



無力感に苛まれたがいつか捕まえてやろうという目標にはなった。

自分より凄い魔術師などまだお目にかかったことがなかったからだ。

国の筆頭魔術師と持ち上げられてもこんな物だ。もっと修行を積まなくてはいけない。



侯爵令息のフィリップ君の魔術よけピアスに魔力を一年に一度だけ注ぎ込むことになった。彼は綺麗な顔をしているので、色々な奴に狙われて苦労をしてきたらしい。私も若い頃を思い出して同情してしまった。




魔術師は何故か美形が多い。故に誰彼に狙われる。もしかすると彼も魔術師として才能を秘めているのではないかと期待をしているのだが、初恋に目覚めたらしくちっとも興味を示さないのだ。


自分でピアスに魔力を入れられるようになるよと言ったら、食いついてきたのでこの方向で攻めて行こうと思う。



私が恋などというものをしたのはいつだっただろうか、思い出せないくらい昔のことだ。


幼い頃に森へ行き迷子になった事があった。両親とピクニックに行ったときだった。従者ともはぐれ途方に暮れた私は動かずに待っていればよかったものを、幼さ故に分からず母を求めて彷徨い歩いた。


喉が渇き倒れてしまった私を助けてくれたのが、森に一人で暮らすサラだった。

家に連れて帰ってくれ水と食べ物を与えてくれ、ポーションを飲ませてくれた。

サラは綺麗なお姉さんだった。

一人で暮らしているらしく粗末な家だったが、花が飾られ、薬草の匂いが家中に充満していた。

「お姉さん助けてくれてありがとうございます」

「もう良くなったみたいだから、森の入口まで送っていくね。坊やの家の人が探していると思うわ。森に一人で入ってはだめよ。恐い動物に食べられてしまう所だったんだから」

「もう入りません。僕はサリバンと言います。おねえさんの名前を教えてください」

「そうね、サラよ。もう会うこともないと思うけど」

「両親がお礼をしたいと言うと思います」

「随分しっかりしてるのね。お礼はいらないけど、気がすまないと言うのなら森の入口に置いて貰えばいいわ。じゃあねサリバン君」



気がつくと森の入口にいて、探し回っていた屋敷のものと出会うことになった。

その時のサリバンは興奮状態で森で綺麗なお姉さんに助けて貰ったと話したらしい。


それから神殿に行き助かったお礼の祈りを捧げている時に魔力が膨大だとわかり、魔法省に魔力のコントロールの仕方を学びに行くことになった。



思い返せばサラというお姉さんがサリバンの初恋だったのではないかと思う。とても淡いものだけに心の奥深くにしまわれていた。

大人になったサリバンはほんわかとした温かい記憶を大切に閉じ込める事にした。



魔法にしか興味のない若者はめきめき頭角を現し今では筆頭魔術師になってしまった。容姿を見られて女性に寄って来られるのはまっぴらごめんである。それでなくても伯爵令息だ。出かけるときはローブが欠かせないものになっていた。

地位と容姿にしか興味のない女性などお断りなのである。



フィリップの事は他人事と思えなかった。初恋を応援してあげたいくらいに思っていた。同じような立場で恋を叶えるのは奇跡に近い事だ。

呪いを使って横恋慕するなど言語道断、入れ込み方が少しいつもと違っていても誰にも文句を言わせるつもりはなかった。



立派な後継として育ったフィリップに後を頼み世界を見て回るのは楽しかった。魔法の無くなった国もあれば、魔法に頼っている国もあり多いに見聞が広められた。そのうちの一つの国で懐かしい魔法の波動を感じた。もしかしたらと心が浮き立った。



魔力に引き寄せられて近づいてみると若い女性が楽しそうに薬草の世話をしていた。サラだった。年を取っていないということは魔女なのか、近くに寄ってみることにした。


見知らぬ男が近づいて来たので警戒された。

「サラ様、僕のことを覚えておられますでしょうか。昔森で助けていただいたサリバンと言います」

「知らないわ、ずっとこの国から出たことがないの。誰かと間違えておられるのではないですか」

「貴女の魔法の波動がサラ様とそっくりなのです。間違えるはずがありません」

「では私の遠縁の者かもしれません。その人に何か御用があったのですか?」

「いいえ、懐かしくて近づいただけです。申し訳ありませんでした。遠縁の方なら今お幸せかどうかご存知ありませんか?」

「親しいわけではないのでよくわかりませんが、何かあれば知らせが来るようになっているので無事だと思います」

「そうですか、また遊びに来ていいですか?」

「何も面白いところなんてないと思いますが」

「ここは波動のせいか居心地がいいのです。貴女のお名前をお聞きしてもいいですか?」

「エミリーです」

「では、エミリー様失礼します。今度来る時はお土産を持ってきますよ」

「あまり来ては欲しくないのですけど、ここの生活をかき乱されたくないので」

「努力します、ではまた」



エミリーこそが恩人サラで魔女だとわかるのはもう少し後の話。

サリバンは恩人を見つけただけで最初は大満足だったが、恋心に気づき情熱的に迫って行くことになる。

誤字報告ありがとうございます。感謝しかありません。

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