回復と幸せ
読んでいただきありがとうございます。幸せな回になります。
フィリップの高熱は一週間続き、王宮から宮廷医師を派遣してもらいやっと回復の目処がたった。フィリップ以外にも多数の患者が出ていたため感冒の流行を恐れた王は国中の薬師に命じて治療薬を作らせた。
フィリップがリーナの領地への道筋で寄ったところを隈なく調べたら、小さな村が含まれていたと判明した。近道をするために通ったらしいのだが、そこで質の悪い感冒が流行っていたらしい。村人との交流はなかったが馬に水を飲ませていた。
水源から水を調べると細菌がいたという事が分かった。馬がもらった病原菌をいつの間にかうつされたわけだ。これを機にフィリップは体を鍛えることにした。
病気の間にリーナが決死の覚悟で会いに来てくれたと聞いたフィリップはますます愛情に歯止めがかからなくなってしまった。
リーナの方もフィリップが死んでしまうかもしれないと思った途端気持ちがはっきりと分かってしまった。
病気の後症状も完全に治り医師に外出の許可をもらったフィリップは、薔薇の花束を持ってリーナを訪ねることにした。
「危険を犯してお見舞いにきてくれたんだね、ありがとう」
「貴方が危篤だって聞いたからよ。最後なら文句の一つも言っておかないと気が済まないでしょう」
「うん、君が文句を言っていたのが聞こえたような気がした。一生口説くと言っておきながら死んだら許さないわよだったけ。おかげでまだあっちに行ったら駄目なんだって思えた」
「まあそんなところだけど無事に回復して良かったわ」
「改めて、僕と結婚してください。貴女しか愛さないし側にいたいのも貴女だけだ」
そう言うと薔薇の花束を差し出し大きなピンクゴールドのダイヤモンドの指輪を差し出した。頬を赤く染めたリーナが
「はい、よろしくお願いします」
と小さな声で返事をした。
「可愛い、指輪を付けてもいいかな?」
リーナの白く細い指に指輪を嵌めると指先に口付けを落とした。その瞳は蕩けるようでリーナは思わず目を逸らした。
「ちゃんと僕を見つめて、愛しいリーナ。後でご両親に挨拶に伺わないといけないね。いつも君に守られてばかりだったけどようやく守る事ができる。なんて幸せなんだろう」
十二歳で正式に婚約し直した。フィリップは体力を付けるため剣の稽古に励むことにした。今までも侯爵家嫡男としてやってはいたが、守る相手が出来ると気合が違った。リーナも侯爵家に通い夫人としての心得を学ぶことになった。
とは言っても可愛い義理の娘に会いたいだけの義両親なので厳しい事は無く、娘の様に教えられていた。
貴族学院に入学しても二人の親密さは変わらなかった。いつかの公爵令嬢を思い出しフィリップは毒舌に磨きを掛け、粉を掛けようとする令嬢を蹴散らしていた。
さらにリーナに害を為すものには容赦がなかった。いつの間にか姿が学院から消えていることもあれば、家ごと潰れた者もいたのでいつの間にか魔王と二つ名で呼ばれるようになった。
サリバン様にはピアスに魔力を一年に一度だけ注いでもらっている。フィリップの魔力も増えて来たので自分でやれるようになるのも後少しらしい。
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十八歳で学院を卒業すると結婚をした。フィリップの強い希望だった。侯爵邸の敷地に新しい屋敷を建てて貰い使用人を十人ほど雇う事にした。
家令や侍女長は本邸の方から連れてきたので安心の出来る配置になった。
リーナは女主人として家政に力を発揮することができていた。フィリップは魔法省に誘われたがリーナと過ごす時間が減るからといって断っていた。
フィリップは侯爵家の仕事の合間に休憩だと言ってリーナを膝に乗せ肩に頭を乗せ匂いを嗅ぐのが好きになっていた。リーナは香水をつけていないのに花の香がするのだ。それに柔らかい。たまらなくなってリーナの髪や顔中にキスをしたくなる。
そのたびに恥ずかしがる新妻が可愛くてしようがない。夜はそれ以上のことをしているというのに。
リーナは天使から大人の男に成長した夫をうっとりした目で見た。昔は感情が出ていなくて何を考えているのかしらと思っていたけれど、今は私を一番に考えてくれる優しい夫だと確信が持てる。あらゆるところで愛を囁いてくれるようになった。
夜は特に言葉と身体で落としにかかってくる。勝てる気がしないリーナだった。
飽きられないように自分磨きをしなくてはいけないとリーナは思う。
フィリップの愛情と侯爵家のメイドの手で磨かれたリーナが更に美しくなっていることを気がついていないのは本人だけだった。
一年後リーナの懐妊が分かった。フィリップはそっと妻を抱きしめて
「ありがとうリーナ、身体を今以上に大事にしてくれ。ここに愛の結晶がいるんだね。早く会いたいけどリーナを独り占め出来るのは今のうちだ。遠出は出来なくなったけど近くで楽しいことをしようね」
と言ってピクニックや買い物に出かけた。
回りで見ている使用人たちは主人夫婦の甘さに砂糖を吐きそうだったが、侯爵家の繁栄のためと壁に徹する事にした。
十ヶ月を少し過ぎた頃赤ん坊の産声が侯爵家から聞こえて来た。生まれたのは男の子だった。フィリップは泣いて喜び疲れ果てた妻を労った。
「可愛い息子をありがとう。よく頑張ったね、ゆっくり休んで」
身を綺麗にしてもらったリーナは連れてきて貰った赤ちゃんを抱きしめた。
赤ちゃんが自分の乳房に吸い付いてお乳を飲んでいる。それだけで感激してしまい母になったのだと実感した。この子を守っていかなくてはそう決意した瞬間だった。
フィリップも授乳しているリーナを見て感激したらしく「女神のようだ」と呟いた。
その後二男と二女に恵まれて賑やかな生活を送ることになった。
二人は景色の良い郊外に家を建てて嫡男に爵位を譲り老後の生活を送っている。静かだろうと思っていた生活は孫たちがよく遊びに来て賑やかになっていた。
手慰みに庭の一部分で作った野菜が孫たちに好評でお手伝いをすると大騒ぎだった。今も庭に作った畑で使用人たちと楽しそうに遊んでいる。今夜は野菜料理がたくさん並ぶのだろう。
陽当りのいい暖かな部屋でフィリップとお茶を飲んでいるとふと昔のことを思い出してしまった。
「昔貴方が呪いなんて物に掛けられたことがありましたわね。サリバン様のおかげで事なきを得ましたが。あのままだと私達どうなっていたんでしょうね」
「あのままだと私は一生独身であの子達は生まれていなかった。呪いは恐い物だったが、今では私も力を付けて魔法の腕は最上級だと言われるまでになった。君はなかなか解除されたことを信じてくれなかったな」
「貴方がそれまでと正反対の行動をするからですよ。急に口説いてきたりして、また違う呪いが掛かかったと思ってしまいました」
「口説くのは君だけだと決めていたからな」
「遠い昔の話ですね」
「一生口説くと言ったのを忘れたのかな、可愛い奥様は。愛してるよリーナ、君だけだ」
顔を赤くしたリーナは話を逸らした。
「貴方が魔法省に勤められてサリバン様は世界を旅されているんですよね」
「恩人の頼みは断り切れなかったからな」
「突然帰って来られるかもしれませんわ、魔法の話ができると楽しそうですね」
「リーナがいてくれたら良いよ、愛してる。きっと僕はリーナに愛を囁かなくては死んでしまう呪いにかかったんだ」
「またそんな事を言って、私も愛しています」
「本当かい、嬉しいな」
「嘘なんてつきませんわ。でも貴方の側にいるために出来るだけ綺麗でいたいんです」
「君はいつまでも美しいよ。良く運動もしている。それに魔法の力を侮ってはいけないよ、身体を若返えらせるなんて簡単なんだから。そうだ今度若返りの魔法を掛けてデートに行こうじゃないか」
「まあ楽しそうね、若い子達がするようなデートがしてみたいわ」
「外国に旅行に行くのもいいかもしれないね」
「楽しみが沢山でわくわくするわ」
「あの子達が帰ったら今夜変身してみようか、昔の君と僕に戻るなんて楽しいに決まってるよ」
「私はいけおじの貴方も好きだけど」
「君は僕の欲しい言葉をくれる天才だよ」
「本当の事を言ったまでよ」
愛を一生囁くと誓った旦那さまは約束を守り愛してくれている。私もそれに応えたい。ここは魔法の国なのだから。
誤字報告ありがとうございます。ようやく自分の気持ちに気づいたリーナ、フィリップが治って良かったです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。又お会い出来ますように。