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フィリップの気づき

お読みいただきありがとうございます

犯人を処刑する箇所があります。苦手な方は飛ばしてくださるとありがたいです

 筆頭魔術師サリバンは王宮の奥深く秘宝の置いてある部屋にたどり着いていた。国王に事のあらましを話すと一大事であると認識され真実を映す水晶玉を探すように命じられた。

秘宝は多く、王族のみが入ることが出来る権限を与えられていた。王太子が一緒に来ることになった。王族だけが水晶を見ることを許されていたからだ。



占い師が使う透明な水晶玉ではない。国宝に当たる物だからだ。呪い返しさえできる、使い方によっては恐ろしいものにこれからお目にかかろうというのだ。サリバンは思わず身震いをした。



秘宝は整然と置かれ探すのに手間はかからなかった。その存在を示すように燦然と輝いていた。

「殿下、使い方はご存知ですね。そっと手をかざしてください」

「これが真実を映す水晶か、随分綺麗なものだ」

「磨かなくてもこれだけ輝いているというのは流石に秘宝に相応しいです。さあ真実を見てみましょう」

「この令嬢はつい最近平民から公爵家へ引き取られた者ではないか。手に怪しげな石を持ち何やら呟いている。フィリップ殿とリーナ嬢の婚約が壊れるように何度も祈りを捧げている。これが呪いの正体か」

王太子はゾッとした。国の転覆でも願われたら一大事になる所だった。


「この石が魔石でしょう。どこで手に入れたやら、ルートが分かるといいのですが。娘の手足が黒くなってきております。早く捕らえないと魔物に変わってしまうでしょう。急ぎましょう、殿下」



こうして公爵令嬢フランソワは自覚のないまま捕らえられた。王家の騎士が大勢来て自分を縛ろうとするのに驚き大暴れした。公爵家としては全く知らないことだったのだが監督不行き届きで降格され伯爵になった。

躾もろくにしないで社交界に出したのだ。何か問題を起こすと思わなかった当主の責任は重いと言えるだろう。





その頃フィリップは頭の中の霞が綺麗に晴れていくような爽快感を味わっていた。

サリバンは侯爵とフィリップに会いに行き呪いが解けたことを伝え、もう婚約者の方と会われても大丈夫だと話した。当事者なので元公爵令嬢の事も言える範囲で伝えた。

知らないうちに呪われたフィリップは背中に冷や汗をかいていた。


「サリバン様、なんとお礼を申し上げたらいいのかわかりません。このご恩は一生忘れません。ありがとうございました」

「私もこんな呪いは文献の中でしか読んだことがありません。とても興味深いものでした。呪いの石は王家の秘密の隠し場所に閉じ込めて厳重に管理してあります。安心してください」

「どこで手に入れたのか白状したのでしょうか?」

「市井にいた時に知らない老婆に貰ったと言っておりました。何でも願いが叶う石だから大事にするようにと言われたらしいのですが、人の不幸と引き換えに自分の望みを叶えようとするからこんな事になったのです。その老婆が闇魔法を使えたのでしょう。秘宝は呪い返しも出来る物なのですが悪意が感じられませんでした。いたずら半分の気まぐれで渡したのかもしれません。国を挙げて行方を探しておりますが見つけるのは困難かと思われます」



フランソワは人を呪ったため刑に処された。体の半分が黒くなって来ておりそのままには出来ない状態だった。火魔法で焼かれたとのことだった。厳しい罰は免れなかった。公開処刑でなかった事が救いと言えた。あのままにしていれば罪のない者が被害に遭っていたか分からないのだから。




フィリップは自分を許すことが出来なかった。大事な人を呪いであろうと傷つけてしまったのだ。

「父上、リーナとの婚約は無かったことにしてください。呪いだったにせよ傷つけた事実は変わりません」

「それは考えないでもないが、怖がっていないで努力をしてみたらどうだ。好意を持っているのではないか?リーナ嬢は素晴らしい令嬢だ。このまま手を離したら二度とお前のところには来てくれないぞ、いいのかそれで」

「そうですね、もう一度じっくり考えてみます、時間を頂いてもいいでしょうか?」

「ああ大切なことだ。考えてみなさい」



リーナとは手紙のやり取りをしている。彼女の領地は自然が沢山でのびのびと過ごしている様子が手紙から伝わってきていた。それに引き換え自分は報告書のような手紙しか書けていない。会えなくて寂しく思っていると書いてみようか。手紙なら自分が出せそうな気がするフィリップだった。




フィリップから呪いが解けたと手紙が届いた。相変わらず素っ気ない手紙だった。本当にあれは呪いだったのだろうかとまだ疑っているリーナである。

解けたのなら婚約解消だが次を考えなくてはいけない。どう考えても面倒だ。このまま婚約者のふりを頼んでしまおうかと考えていた。侯爵家に迷惑をかけられたのだ。こっちの願いも聞いてもらっても罰は当たらないはずだ。このまま領地にいて結婚せずに済むのならそうしたい。フィリップと偽の婚姻が大層魅力的な物に思えて来たリーナだった。



リーナだって年頃の女の子だ。恋愛に興味がないわけではない。だけど打ち解けていた婚約者に冷たくされたのはやはり心の傷になっていた。愛情だった訳では無いが簡単に態度を変えられた。人の心は儚いものだと子供ながらに分かってしまった。


✠✠✠✠✠


すっかり反省をしたフィリップはまずエステル伯爵に父と共に直接リーナに謝りたいと許しを貰うことから始めた。


伯爵は会わせることを渋った。娘の心を守ることが大事だからだ。まず手紙で心を開いてみろと課題を出した。


フィリップは心を込めて手紙を書くことから始めた。季節の美しさや花の綺麗さを褒める言葉を本で学び、リーナに手紙をしたためた。

リーナの良いところを一つずつその中に織り交ぜて書くようにした。


リーナの穏やかな性格、芯の通ったところ、フィリップの中身を見てくれたところ、所作の美しさ、挙げればきりがないほど手紙を書くたびにリーナの長所が浮かび、自分がどれだけ素晴らしい令嬢を近くに置いていたのかがわかった。

こうしてフィリップは恋する男へ変貌を遂げたのである。



この変わりぶりについて行けないのがリーナである。また変な呪いに掛かったと思ってしまった。手紙に気は確かなのかと何度も書いた。書いたが返って来るのはリーナを褒め称える甘い言葉ばかりだ。あのフィリップが甘い言葉を書くはずがない。呪いは継続していると考えたほうが良いだろうとリーナは考えた。何度も痛い思いをするのは嫌だった。



リーナは母に相談した。勿論偽装結婚を企んでいるとは感づかれないようにした。まだ先のことなのだから。

母は穏やかに微笑みながら

「一度会ってみるのもいいかもしれないわね。ちゃんと目で見て確かめた方が良いわ。あの人にはそう伝えてあげるから心配しなくて良いのよ。過保護になったのは、こんな事になったのは自分のせいだと責任を感じているからだと思うの」

「自分で見てみるのですね、お母様」

「そうよ、自分を信じてご覧なさい。きっと大丈夫よ。でも貴女はまだ可愛い私達の子供、これは駄目だと思ったら私達が守るわ」

「じゃあ、一度会って話をしてみます」



大きな味方を手に入れたリーナはフィリップを領地へ招待した。


チャンスを手にしたと思ったフィリップは慎重に事を運ぶことにした。リーナに似合うような髪飾りを王都の宝飾店で買った。流行りのスイーツも買った。夫人と弟には焼き菓子の詰め合わせだ。宝石箱のような彩りのお菓子が綺麗に並んでいた。チューリップの花束を買い萎れないように自分で魔法を掛けた。氷魔法が得意なので加減をしながら花を長持ちさせる事ができた。



二度と呪いなどに掛からないようにサリバン様に頼んで魔術よけのピアスも作って貰った。

馬車で三日かかるところにリーナの領地はあった。フィリップの新たな償いの日々が始まろうとしていた。

 




誤字脱字報告ありがとうございます

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