マイナス1の立方根からはじめよう
ゼロからでも、1からでもなく。
私は数学が大好きで恋には疎いよくある少年でした。そんな私でも何かロマンチックなこと起きないかな、と思うくらいには健全でした。ある日のこと、私は担任に呼ばれました。この娘に数学の問題の解き方を教えてやれとのことでした。おー、ロマンチックなことってこんな風に起こるの??二人で図書室にいくことにしました。ただ、期待よりも、あまりの緊張で呼吸ができません。呼吸のサイクルって、吸入、圧縮、燃焼、排気だっけ?なんて考えたら、ますます、呼吸ができません。条件反射って、忘れると大変だな。
さて、図書室には、黒板のあるワークスペースがあります。そのスペースが空いていました。みせてもらった数学の問題はこれ、
x^3=-1
を満たす複素数xを3つ答えよです。複素平面を知っていたから、答えは思い付きました。複素平面上で、3回角度を変えて、-1になる複素数を探せば良いからです。
しかしです。私は、ど緊張しています。しかも、その娘は私のタイプときかたら、もう私の頭の中は何色なのかわかりません。どうやって解こうかな?何を説明しようかな。
私が思いついたのは、複素平面を使ったやり方です。しかし、複素平面から理解してもらわなくてはなりません。
そうこうしているうちに、N次方程式の複素数の解はN個あることを、知ってはいても、自分では証明できないことに気づいてしまいました。つまり、この方程式に3つの答えがあると、なぜ出題者はいえるのか。そんなことが思い浮かんだ私がどうやって、この娘に教えられるでしょう。
一つのやり方を思いつきました。問題をよく読むと、x=-1以外のあと二つの解を求めよ、でした。高校数学では、二次方程式の解法は教えることになっています。そこで、出題者の意図が読めました。
僕は思い切って声を出した。
「つまり、こういうことだと思う」
黒板に数式を書き始める。黒板消しは使わない。x^3=-1は、
x^3+1=0 (1)
とかける。解の一つは-1とわかっているのだから因数分解できる。つまり、
(x+1)(x^2+b・x+c)=0 (2)
と書けるはずだ。(2)が(1)に等しくなるように、b、cを決めれば、x^2+b・x+c=0となる二次方程式の二つの解を求めればよい。(2)をばらすと、
x^3+(1+b)・x^2+(b+c)・x+c=0 (3)
よって、
1+b=0 (4a)
b+c=0 (4b)
c=1 (4c)
これを解いて、
b=-1 c=1 (5)
を得る。求める解は、以下の二次方程式の解になる。
x^2-x+1=0 (6)
これは解の公式から、以下を得る。
x=1/2±i・3^(1/2)/2 (7)
ここでiは虚数である。解けた!この娘もわかってくれたみたい。言葉はないけど、コクリとうなづいてくれた。
「出題者の意図はこうだと思う。二次方程式なら僕たちになら解けることがわかっている。この問題は三次方程式を解く問題だけど、一つの答え-1を示して、残りの二つを求めよ。つまり、残りの二つは二次方程式で解けることに、僕らが気づけるか試したんだろう」
この娘には、出題者の意図を考えることが新鮮だったみたい。すこーしだけ楽しそう。よかった!
「別の解き方もあるよ」
私はカッコつけて、いいとこ見せたくなったのは否めません。
とはいえ、理解しやすいようにさっきと似た解き方です。
「方程式の解で最初から因数分解してみたらどうだろう。さっきのやり方を少し変えてみよう。」
方程式の解をα、β、γとすると、方程式はどう書けるかわかるかな?あの娘が黒板に書いた。
(x-α)(x-β)(x-γ)=0 (8)
その通り!やっぱり、この娘も数学好きなんじゃん。一つの解は-1であることがわかっている。
「α=-1とすれば式(2)はどうなる?」
この娘が黒板に書いた。
(x+1)(x-β)(x-γ)=0 (9)
になる。(9)を(1)になるように、βとγを決めればよいことも、わかったみたい。この娘は、(3)をばらして、
x^3-(β+γ-1)・x^2+(βγ-β-γ)・x+βγ=0 (10)
と書いた。よって、βとγは以下をみたす。
β+γ-1=0 (11a)
βγ-β-γ=0 (11b)
βγ=1 (11c)
(11a)と(11c)が満たされれば、(11b)は満たされる。さっきよりちょっぴり式変形が面倒だ。でも、この娘は慎重に計算をすすめる。(11c)より、γ=1/βと黒板に書く。僕は、
「式(1)でx=0は解ではないのでβで割っていいんだね」
とあいづちをうつ。この娘は、γ=1/βを(11a)に代入する。
β+1/β-1=0 (12a)
少し戸惑いながら、両辺にβをかける。
β^2-β+1=0 (12b)
これは式(6)と同じだ!βとγは同じ式をみたすから、(12b)のβの二次方程式の二つの解がβとγで、これが式(1)の解、式(7)になる。別解のできあがりだ!この娘が解いてみせたことが、とっても嬉しい!
さあ、もう一つの別解に進もう!答えをよくみてみよう。僕は全開だ!僕のクセを忘れるほどに。
x=1/2±i・3^(1/2)/2 (7)
正三角形の内角は全て60°、辺の長さを2とすると、高さは3^(1/2)です。式(7)をよく見ると、実数部は1/2=cos(60°)、虚数部は±3^(1/2)/2=sin(±60°)だ。複素数の実数部をx軸、虚数部をy軸とした二次元平面で現すことにしよう。これを複素平面という。式(7)は、複素平面の原点を中心とした半径1の円上の角度60°方向の点を現す。複素平面のx軸と原点と点を結ぶ線のなす角をθとする。複素平面で半径1の円上にある点z(θ)は以下で定義できる。
z(θ)=cos(θ)+i・sin(θ) (13)
いま、角θ1とθ2の複素数の掛け算を考える。
z(θ1)=cos(θ1)+i・sin(θ1) (14a)
z(θ2)=cos(θ2)+i・sin(θ2) (14b)
z(θ1)× z(θ2)=[cos(θ1)cos(θ2)-sin(θ1)sin(θ2)]
+i・[sin(θ1)cos(θ2)+cos(θ1)sin(θ2)] (15)
となる。三角関数の合成の公式、
cos(θ1+θ2)= cos(θ1)cos(θ2)-sin(θ1)sin(θ2)
sin(θ1+θ2)= sin(θ1)cos(θ2)+cos(θ1)sin(θ2)
より、
z(θ1)× z(θ2)= cos(θ1+θ2)+i・sin(θ1+θ2)
つまり、
z(θ1)× z(θ2)= z(θ1+θ2) (16)
となる!さて、式(1)を解くもう一つの解法は、
z(θ)^3=z(θ)× z(θ)× z(θ)
=z(2θ)× z(θ)
=z(3θ)
=-1
を解けば良い。よって、
z(3θ)=-1 +i・0 (17)
をみたすθを探せばよい。つまり、虚数がゼロで、実数は-1だから、複素平面では、180°の向きだ。180°に360°を引いても足しても向きは同じなので、例えば、以下の3つの角度がある。
3θ=180°、-180°、180+360=540°
それぞれ3で割る。
θ=60°、-60°、180°
が答えである。最後の180°は、x=-1である。θ=±60°が、残り二つの答えである。
さあ、複素平面を知ると世界が広がる。オイラーの公式、
e^(i・θ)=cos(θ)+i・sin(θ)
であることを示めそう。そうしたら、複素関数に進んで、ローラン展開やらなにやらすればコーシーの定理から高校生で習う積分の多くを簡単に計算できる(←もはや大学の数学だ、、)!これを示すには、うーむ。あれ、僕は誰に話してるんだ?
あの娘の顔が目に入った。あー、やってしまった、、。僕には、ひとたび数学に熱中したら最後!緊張も忘れ、周りが見えなくなるクセがあったのです。このクセはなんども私の数学好きを後押ししてくれました。相手がコワモテの数学教師でもひるみません。でも、この場面では考えものです。いつからだろう、あの娘のこと忘れてた!
*呼吸は、自律神経系により無意識に行われる条件反射です。ただ、意識して、呼吸のリズムや深さを変えることはできます。瞑想やリラクゼーションでは、深くゆっくりとした呼吸で行われます。