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The end of Reincarnation  作者: 桜野 華
第1章
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第7話

ようやくヒロインとヒーローが顔を合わせます

 

 今晩の王室主催の舞踏会は、今年16歳となり成人を迎える貴族の子息令嬢達のデビューを祝う会である。


 王国の主たる貴族たちが出席し、新成人を祝福し、新たに社交界のメンバーに迎える子息令嬢の顔合わせも兼ねている。

 王国の社交界筆頭である王族も、新成人を祝うべく、一段高い雛壇から、会場に入場してくる彼らを迎えていた。


 ここザイディーン王国は、第28代国王ユージーン・ザイード・ルイ・ロイスダールが国主として統治している。

 濃い金髪に碧眼を持つ貫禄ある風貌で、もう間もなく48歳を迎えるところだ。

 レイラ王妃は公爵家の出身で、癖のあるプラチナブロンドに薄い水色の瞳の、優しげで美しい女性である。

 二人には、3人の子供がおり、王太子であるヴィクトールは22歳、長女マリアンヌ王女が18歳、第2王子のルーファスが15歳であり、いずれも両親に似て美しい容姿であった。

 今日出席の王族は、国王並びに王妃、そして、王太子とその妹の王女である。ルーファスは、未成年の為欠席していた。

 雛壇の王族席は、今日も華やかである。


 そしてここは、王城で最も広い大広間ではあるが、そこそこ魔力の高いものが揃っている。少々視力を強化すれば、離れたところから入場してくる新成人の顔もしっかり認識することが出来た。


 何番目かのコールで、本日デビューの令嬢が、王族の近衛騎士であるレオンハルトにエスコートされ入場してきた。

 その令嬢の美しさと、姿勢良く歩く優雅な所作に、一瞬会場ががどよめき感嘆のため息が漏れる。


 ヴィクトールも視線を向けたが、会場の人々とは別の驚きを持って、その令嬢を凝視した。


「あれは。まさか……そんなはずは?」


 思わず溢れたヴィクトールの呟きに、側に控えていた近衛騎士であるランドルフが顔を近づけて小声で尋ねる。


「どうかされました?殿下」


 今日は通常の言葉遣いである。当たり前だが。


「ラルフ、今入場したデビュタントの令嬢、見覚えないか?」


「?とても美しいご令嬢ですね。エスコートしてるのがレオンってことは、ディアモンド家のご令嬢ですね?」


 レオンハルトは近衛騎士団のランドルフの部下であり、王太子付き部隊の隊長でもある。今日は妹のデビュタントのエスコートのため、休暇を申請していた。


「あの、神国で見た魔法師にそっくりだ」


 そう、あの……空中に浮遊しながらも、精密で圧倒的な強さを持った魔法式を構成し、魔獣の群れを一瞬で跡形もなく消し去った、まだ少女に思えた美しい魔法師。

 その存在は、ヴィクトールに強烈な印象を残していた。

 あの、精緻で美しささえ感じる魔法式に対する純粋な興味。空中浮遊との並行使用には、どれほどの魔力を使うのか?ギリギリまで効率化させているのか?

 圧倒的な強さと、どこか神々しささえ感じた存在感。だが、継承式ではおそらく魔力を抑え、可憐な装いで微笑んでいた少女。


「言われてみれば、顔は良く似てますね?でも、雰囲気や覇気それに魔力が、全く違いますよ。それにレオンの妹ですよ?その子が神国にいたのはおかしいでしょう?」


 ランドルフがそう言うのはもっともだった。あの時彼女から感じた大きな魔力の気配を今感じることはないし、見るからに儚げな美少女で、あの時のような圧倒的な存在感も、まるでない。

 だが、ヴィクトールの勘は、彼女だと言っている。


「……」


(たしかに、魔獣を殲滅したときのあの印象からすれば大分違うが、継承式のときの様子を見れば、同一人物で間違いないのではないか?

 それに、あの時は身体強化して視力も大分上がっていた。あの顔を見間違える訳がない。

 第一あれだけ美しい容姿のものが、そういるか?

 魔力は、まあ隠しているとはいえ、もし神国の魔法師ということであれば、レオンの妹を名乗っていることはかなりの問題だ。どちらにしろ調査が必要だが……少し揺さぶりをかけてみるか?)


「まあ、ちょっと探りをいれてみるか?」


 面白い、と純粋に思う。そして、素の彼女に興味がある。例え間者だとしても、あれだけの力を持つ彼女をこちらに得られれば、大きな利になるはず。


「殿下……デビューしたてのお嬢さんをあんまり威圧しないで下さいね。だいたい神国のあれ程の魔法師なら、もっと上手くやると思いますし、こんなところに出てきませんよ。しかもあんな目立つ容姿で。間者には向いてませんよ」


 ランドルフが釘を刺す。


「確かにそうなんだが……まあ、純粋な興味もある」


 確かに間者には向かないな、と納得もする。


「あ〜面倒事の予感しかしない」


 ランドルフが胃を押さえて呟いた。



 今年のデビュタントの入場が終わり、今は、軽食を饗された歓談の時間だ。


 その間、デビュタントは順に王族へ挨拶にやってくる。


 パートナーは、家族か婚約者が務めるのが慣例であり、シャルロットも兄を伴っている。

 近衛騎士隊長でもあるレオンハルトは、王族も良く知った顔である。

 気負わずにシャルロットを紹介した。


「国王陛下並びに王妃陛下、王太子殿下王女殿下に、ご挨拶申し上げます。

 この度、我が家のシャルロット・ティナ・オル・ディアモンドが、成人いたしまして、社交界の末席に加えていただくことになりました。どうぞお見知り置きのほど、よろしくお願い申し上げます」


「お初にお目にかかります。ディアモンド家の長女シャルロットと申します。成人したばかりの未熟者ですので、今後ご指導のほどよろしくお願い申し上げます」


 二人の挨拶に国王であるユージーンがにこやかに答えた。


「ディアモンドはこんなに美しい令嬢を隠していたのだな。成人おめでとう。今日は楽しんでいきなさい」


「ありがとうございます、陛下」


 滞りなく顔合わせも済み、雛壇を降りようとしたところだった。

 国王の隣からヴィクトールが突然声をかけた。だが、かけられたのはセイレーン神国語でである。


『待て、シャルロットと言ったか?そなた今はどの学校に在学している』


『私は、王立の魔法師養成学校に在学中でございます』


 思わず、そのまま神国語で答えた。


『随分と神国語が達者だな』


 その言葉に次にシャルロットは、ガイザール帝国語で答えた。


『ありがとうございます。語学は得意なんです。数カ国語は話せます』


 兄が首を傾げながら、言葉を添えた。


「殿下、妹の語学力は確かです。必要であれば、どうぞお声がけください」


「なかなか優秀なご令嬢だな。良く励めよ」


 そう言ってヴィクトールは、二人を解放した。


「ありがとうございます。では失礼します」


 軽く頭を下げて、二人はその場を後にした。

 だが王太子の意図が掴めず、目を合わせて首を傾げてしまう。


「シャロン、お前王太子と面識があったのか?」


「いいえ、全くの初対面ですわ」


「だよな?いや、あんなふうに探られたからさ」


「やっぱり探られていましたわよね?身に覚えはないのですけれど」


「まあ、何かあれば明日にでも聞いてくるだろ?それにしてもいつの間に、大陸共通語の他にも何カ国語もマスターしたんだな」


「時間はたっぷりありましたから」


 もともと時間さえあれば、シャルロットは本を読んでいた。

(影が読んでいることもよくあるが)

 座学の成績が優秀なのも、レオンハルトはよく知っている。

 殿下も気になることがあれば、明日の勤務時にでも直接尋ねられるだろう。



 だが、王太子の不可解な行動はこれで終わらなかった。


 いよいよ、ファーストダンスとなったところ、ヴィクトールはシャルロットの前に現れた。


 本日の装いは、深い紺を主体に、きらびやかな装飾をふんだんにあしらった式典用の軍服である。金髪碧眼の美しい顔で微笑みながら、シャルロットの目の前に立つと、


「ディアモンド令嬢、ファーストダンスを私と踊ってはいただけませんか?」


 と、手を差し出したのだ。


 だが、間髪入れず、シャルロットは腰を落とし目を伏せる。


「光栄ですわ、殿下。ですが私では、殿下のお側にはとても立てませんわ。どうぞ殿下に相応しいご令嬢と……」


 お断り一択だ。


「殿下何卒ご容赦を。我が妹は未だ婚約者がおりません。殿下とはいずれかの機会にまた、ということでどうか……」


 レオンハルトも加勢してくれる。


 ここで王太子と踊ったりしたら、シャルロットは、婚約者候補だの、秘密の恋人などと、あることないこと言われ、デビューしたてで噂の渦中に放り込まれてしまう。

 未だ婚約者がいないシャルロットにとって、今後の社交にもマイナスにしかならない。


「成る程。それならなおさら、ファーストダンスは私と」


 ヴィクトールは二人の言葉をそう言ってなかった事にして、スマートながら強引にシャルロットの手を取ると、腰に手を回し、ダンスフロアへ連れ出したのだった。


 レオンハルトは、常にないこの王太子の行動の意図が全くわからず、ついぼーっと二人を見送ってしまったのだった。







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