第32話
長いですが、キリの良いところまで一気に行きます。
イリス国とザイディーン王国に跨る国境の森は、東部、北部、西部の三方を山に囲まれ、南側に大きく拡がる広大な森である。その森は、ヤーミルの森と呼ばれ多様な生物が生息する地であった。植物も豊かでこの森の固有種も結構あるが、野生生物や魔獣などは生息地が分散しており、広大な森が生物の混在を許していた。また、北側の深部には遺跡らしきもの存在し、数多くの冒険者が出入りする森でもあった。
その森の南端に近い部分、東のイリス領と西のザイディーン領の中間地点には、ヤーミルの森に入る冒険者達を相手に、冒険者ギルドを中心とした宿屋や食堂、武具、防具、生活用品などを扱う商店などが集まり、人口数百人ほどの小さな街が存在する。街の住民よりも、冒険者や、出入りの商人、商人に雇われた傭兵など、町民以外の人間の数の方が多いくらいで、荒っぽい連中も少なくはないのだが、ここのギルドの遣り手のギルド長が、治安維持にも一役買っていた。
子育てや老後の暮らしには向かない街なので、街を構成するのは10代半ばから50代位までと自衛できる者が多く、無理な者は護衛を雇っていることもあって、そう大きな事件やトラブルもなかったのだが、ここしばらくは何だかキナ臭い。
森に入った冒険者が、何組も戻ってこないのだ。中には、ザイディーンのルディン侯爵領でも実力派と言われるパーティーもあり、ギルドはもちろん街中でも、なんとも言えない緊張感が漂っていた。
そんな中、街に現れた8人の男女が、ギルドを訪ねた。
全員がローブを纏いフードを深く被っていたので顔は確認できないが、イリス国宰相の書状を手にギルド長への面会を申し入れ、慌てた受付係が頭を何度も下げながら、上階の応接室に全員を案内した。
書状に目を通したギルド長も、目の前の仕事を放り出して、応接室に急ぎやって来た。
さすがに部屋の中では全員フードを外してはいたものの、名乗りもなく、挨拶もそこそこに質問が始まったので、ギルド長はとにかく尋ねられたことに丁寧に答えていく。
「ここ1ヶ月ちょっと前から、7組ですね。中には捜索に出てそのままというパーティーもあります。最近は森の奥に入る依頼は断っています」
「森の奥というが、失踪場所の特定は出来ているのか?」
「特定、というか、遺跡周辺の採集や素材収集依頼を受けたパーティーが4組、その捜索に2組。あとの1組は更に奥まで行っていました」
他にも、森の入口近辺の被害は無いのか? 魔獣の発生や個体数に変化はあるか? 目撃情報は? と、たて続けに質問され、ギルド長は、一体この方たちは誰なんだ?と言う疑問を持ちながらも、とても相手に尋ねられるような雰囲気も無く、ただただ答えるのに必死であった。
ひとしきり尋ね終わったところで、質問をしていた男が、今度はギルド長に依頼した。
「なるほどね。ギルド長、俺達はこれからしばらくの間この街に滞在して、森の調査に入る。宿屋を一件貸し切りにしたいのだが」
ギルド長は、8人をさり気なく観察する。10代後半から30代前半までの男女だが、主に話しているのは20歳を超えた位の若者だ。全員が、タイプは違うが整った顔立ちで、特に最年少と思われる少女は人外と言われても頷けるほどの美しさだし、話している若者も金髪碧眼の怜悧な美形だ。
こんな集団、その辺を歩いているだけでトラブルを呼び込みそうである。全員がフードを被って、ギルドに来たのも無理がない。
宿は当然貸し切りにするしかないだろう。そもそも、どう見ても貴族の集団だと思われたし、話をしていた若者は、なんとなく見たことがありそうな気もする。人に命令することにも慣れている様子だ。
強い魔力は感じられないが、魔力を抑えている可能性が高いし、この森の失踪事件の調査に来たというなら、それ相応の実力者だろう。体格が良く、隙のない剣士も半数程度混じっている。その他の者も、底が読めない何かを隠し持っているようで、全く油断が出来ない。
ギルド長は、余計な詮索はせず、要求に従ったほうが良いと、賢明な判断を下した。後で受付係にも言って聞かせなければ。宿も、設備と主人の性格を考えると、選択肢は限られる。
「かしこまりました。この街一番の宿に連絡を取ってみます。しばらくお待ち下さい」
ギルドからの紹介で、一行は街一番の宿屋をとりあえず1週間借り上げた。全部で20室程だが半分程は広めの部屋とのことで、それぞれ個室で使うことが出来る。部屋には、風呂場やトイレ、簡単な応接セットも付いており、悪くない。
宿屋の主人も、余計なことは聞かず説明だけすると、ご用の際はお呼びくださいと、引っ込んだ。
一同はそれぞれの部屋に荷物を置くと、ラウンジとして使われているという部屋に集まった。念のため防音結界も張っておく。
メンバーは、帝国のフェリアスと護衛騎士のアルバス、王国からは、ヴィクトール、シャルロット、ランドルフ、神国からは、シャウエン、リンとレンの8名である。
シャルロットが全員に茶を入れたので、一口飲みながらヴィクトールが言った。
「さて、辺境の街の割には、まあまあの宿だな」
「しばらく拠点にするからね〜。こうやって会議が出来る部屋があるのも助かるよ」
フェリアスもそう言って茶をのむと、美味しい、と目を瞠った。シャルロットが小さく笑うと、彼に尋ねる。
「早速決めることは、調査方法と分担ですね? フェル、どうしましょう?」
「ん〜……シャウエン、禁術的なモノはどう?」
ここの主導はフェリアスである。今までの調査結果も含め、一番情報を持っているのは彼だし、その分析力も非常に高い。
「はっきりはしないけど、痕跡はありそうな感じだね。なんだろう?距離があるのかな?」
シャウエンが目を伏せ集中して探ってみたが、やがて首を振った。
それを見ていたヴィクトールが、じゃあ別口から、と、テーブルに広げられた地図を指差す。ギルド長が用意してくれたものだ。
「遺跡の辺りに行ったパーティーが失踪していると言っていたな?」
行方不明になったパーティーが受けた依頼の、主な採集地と、魔獣の縄張りが、赤丸で印されている。素材を集めるならこの周辺が効率が良いと言われている場所だった。
確かに遺跡と呼ばれている場所を囲むように点在している。そもそもそれも、何の遺跡かは不明だが。
シャルロットが地図を眺めながら言った。
「座標があれば転移可能だけど……」
転移するためには、その場所を示す座標が必要で、地図では無く、実際その地に行くことでその土地から受け取れるものである。ただ、誰でもと言うわけではなく、転移が使える魔法師が魔法式に座標を乗せるという独特の感覚なので、転移が使えない者には、その意味というか感覚がわからない。なので、当然ただの地図に座標は表示されない。ただし、転移可能者同士が座標を共有することは、可能である。
シャルロットは、生きてきた時間が長く、様々な地域で生活していたため、当然大陸中の主な場所の座標は取得している。あとは、例外的に神国国王との(神具によるものとおそらく遺伝的な?)繋がりがあるので、お互いのいる場所には、転移が可能だった。
しかし、彼女はこれまでこの森に来たことは無かった。このメンバーの中で、誰かが訪れたことがあるのなら、共有するのは可能だが。
ヴィクトールは一同を見回し、最後にアルバスに視線をやったが、黙って首を横に振られた。
「無さそうだな。最初は歩いていくしかないか」
そう言って、もう一度地図に視線を落とした。
「地図だと直線距離は3万デール程か。身体強化しても、調査をしながら、障害物や魔獣に遭遇することを考えると、朝から出て夕方に到着位か?」
ランドルフもヴィクトールの横から地図を覗き込み、おおよその目測をたてた。リンがそれに頷きつつ、日帰りを提案する。
「到着して座標さえ取得すれば、夜はここに転移して戻ってくればいいですね」
森の中で夜を越すのは、得策ではない。
フェリアスが、その案を採用した。
「じゃあ、まずは遺跡までのお散歩だね?誰が出る?」
ヴィクトールが手を挙げた。
「俺とシャルロット、ラルフで行こう。その後は、ここにいる全員が転移で行けるだろう?」
「シャルロット嬢には厳しくないか?森の中は道も悪いし」
ランドルフがシャルロットを気遣ったが、彼女は、問題ないと笑う。
「大丈夫ですよ。私は歩くわけではないので」
「は?」
「ラルフ、問題ないから、大丈夫だ」
よくわからないといった風なランドルフに苦笑して、ヴィクトールが言った。まあ、実際に見ないとちょっと信じがたいよな、とは敢えて口に出さない。
すると、話を変えるように、今度はレンが、地図の別の場所を指さした。
「では、その間、この湖の座標も取得して来ましょうか? ギルド長は、魔獣の数が増えていそうだと言っていましたし、生息状況がわかるかも知れません。水場には、いろいろ痕跡も残っているでしょう。シャウエン様とリンと行って来ましょうか?」
フェリアスはしばらく地図を眺めていたが、にっこり笑って頷いた。
「いいと思う。助かるよ。僕は、アルバスとここでお留守番かな?街の人にちょっと聞き込みでもしておくよ」
翌朝の早朝、宿で2食分を用意してもらった為それを持ち、ヴィクトール達は宿を出た。シャウエン達は、一刻ほど後に出発予定だ。
夜は明けているものの、まだ白い月が西の空ギリギリに残っている。今晩が満月なので、ほぼ正円に近い。雲は殆どなく、日中は夏の日差しが厳しそうだが、森の中は陽が遮られ風が吹けば快適だろう。軽装で動けるのは助かる。
シャルロットが、地図と3人の現在位置を投影してくれた。ザカリーの一件で使ったものだが、初めての地で森の中では、かなり助かる。
「本当にいろいろ反則技だよなあ」
森の中を1時間ほど進んで、休憩と朝食を取るため、ちょっとした空間に3人が腰を下ろすと同時に、ランドルフが呆れたようにボヤいた。
ここまで、ヴィクトールを先頭に、シャルロット、ランドルフと続いて進んできたが、身体強化してそれなりのスピードで進むヴィクトールに、全く遅れを取らずに着いていくシャルロットに驚きつつ、その足元を見た瞬間、
「はあっ!?」
と、ランドルフが思わず大声を上げた。すぐにヴィクトールにうるさい、と言われて黙ったが。
確かに昨日、彼女は歩くわけではない、と言っていた。が、ずっと浮遊しながら、森を進んでいくなんて予想もしていなかった。どれだけ魔力を使っているんだ?と問いただしたい。しかも、地図を投影させながらである。
「嬢ちゃん、魔力大丈夫か?これから調査しながら進むし、先は長いぞ?」
ランドルフは、本人の前で嬢ちゃん呼びをしていることも、頭から抜けているようである。シャルロットは、ランドルフの気遣いに、少し困ったように笑って答えた。
「浮遊魔法ですが、かなり効率化しているので、それ程魔力を使っているわけではないんですよ?むしろ自力で歩く方が消耗します。身体強化もかけてませんしね。投影は、自分達の光点しか出してませんし、地図の縮図を計算して、ただそこに反映しているだけなので問題ないです。ただ、魔獣の魔力を拾ってはいないので、突然出会うかも知れません。まあ、近づけば気配で察知出来ますから、このメンバーには必要ないですよね?」
シャルロットは、そもそもランドルフと比べ保有魔力がケタ違いなので、それが可能なのだが、そこには敢えて触れないでおく。
「まあ、こいつの規格外加減を認識するだけだ。深く考えないほうがいい」
ヴィクトールはすでに考えることを放棄している。
簡単に腹を満たしたところで、ヴィクトールは立ち上がった。
「そろそろ行くぞ。採集地を回りながら、遺跡まで行く」
シャルロットとランドルフは頷くと、彼の後に続いたのだった。
夕刻、採集地を回りながら、一行は遺跡にたどり着いた。
森が途絶え、視界が開けた場所である。その中心には石造りの崩れた建築物があり、3人はそこに足を進めた。高さは無く、広がりのある建物だったらしい。大きめの劇場ほどの広さだ。
シャルロットが何やら難しい顔をして、そこを見つめ、やがて足を止めた。
「どうした?シャルロット」
ヴィクトールが、様子のおかしい彼女にそう尋ねた。
「これ以上近づくのはやめましょう。明日、シャウエンも一緒に皆で来た方が良さそうです。座標は獲得しました。宿に戻りますよ」
シャルロットはそう言って2人を促す。反論する理由もないので、ヴィクトールとランドルフは頷いた。
そしてそのまま、宿に転移したのだった。
宿に戻り、汗を流した後、一同は食堂に集まっていた。夕食を並べたあとは人払いをし、防音結界を張り、それぞれが食事を摂りながら、今日一日の報告をする。
ヴィクトールは、今日の行程と調査結果を説明した後、シャルロットにその後を引き継いだ。シャルロットは、遺跡の座標を示した後、その場で感じた妙な感覚について、言葉にする。
「はっきりとはわからないんですが、非常に嫌な感じがする何かがいるんです。多分、シャウエンならもっとはっきりと感じられるかも知れません。あの場所も、遺跡と呼んでいいのか?何に使われていたのかしら?」
フェリアスが、考え込みながら、それに答えるように言った。
「ヤーミルの森が、素材集めの為に、開拓というか冒険者が入り始めたのは、ここ100年弱と言っていたよ? ギルドが出来たのは約70年前で、その頃から少しずつ街も造られたらしいね。遺跡と言うなら、更に時代が遡るのだと思うけど。シャロンは聞いたことない?」
「いえ。これだけ広大な森なら、それなりの年月が経っているはず。街や国があったとしても、かなり昔のことになるのかしら?」
フェリアスも、遺跡に関する歴史について、持っている知識を思い起こしてみたが、心当たりはなかった。
結局、明日全員で探索するしかないだろうという結論に達し、その場はお開きになったのだった。
その夜、深夜を超えた時間のことだった。部屋の外から遠慮がちに送られた伝達魔法に、ヴィクトールは寝台から起き上がり、入口の扉を開ける。
そこには、しっかりと服を着込んだシャルロットが立っていた。まるでこれから戦闘に出掛けるような出で立ちである。
「シャルロット……」
シャルロットは、深夜の訪問に、申し訳無さそうにヴィクトールを見上げている。ヴィクトールはさっと周囲を見回し、誰の姿も見えないことを確認すると、彼女を部屋に招き入れた。念の為防音結界も張る。
「どうした?シャルロット」
彼女のただならぬ様子に、ヴィクトールは真剣な表情でシャルロットの顔を覗き込んだ。
「呼ばれているんです」
どこか遠くを見るように、だが少しだけ眉間にシワを寄せて、シャルロットは言った。
「何?」
思わずヴィクトールは聞き返す。頭痛を感じるのか?シャルロットは、片手でこめかみの辺りを押さえた。
「誰かはわからないのですが、先程から、聖女を呼んでいるんです」
「行くんだな?ちょっと待ってろ」
ヴィクトールは即座に決断した。
婚約した当初なら、おそらくシャルロットは独りで飛び出して行っただろう。いや、シャウエンには声をかけたか?しかし、今、こうやって真っ先にヴィクトールの所に来てくれた。そのことに、ジワリとした嬉しさを覚えながら、すぐに身支度を始める。戦闘を想定したフル装備だ。魔力は抑えて行く。
休んでいるメンバーには、メモ書きで伝言を残し、ラウンジに飛ばしておいた。
「ヴィクトール。ごめんなさい」
「何言ってんだ。当たり前だろう?」
謝るシャルロットの髪をクシャッとかき混ぜ、なんてことないように笑うヴィクトールに、シャルロットの胸に何かが溢れて、心臓がツキンと痛んだ。嬉しい、切ない、幸せ、ごめんなさい、ごちゃ混ぜの感情に翻弄される。だが、最後に浮かんだ言葉は、
「ありがとう」
ちゃんと伝えて、シャルロットは微笑んだ。ヴィクトールが一瞬息を呑む。
そして、シャルロットはヴィクトールの手を取ると、そのまま転移した。
満月が中天を超えたところで、煌々と輝いている。夕方に訪れた遺跡と思われる建造物を前に、ヴィクトールとシャルロットは立っていた。
辺りは動物の声どころか、虫の声すら聞こえず、シンと静まり返っている。それがやけに不気味だった。
そして何より、ヴィクトールですら感じる、禍々しく澱んだ気配。
2人は何も言わずその場に立っていたが、やがてこちらに近づいてくる人影に、視線を向けた。
足音無く、ゆっくりと現れたのは、美しい女だった。絵姿で見た妓女スイレン。
身に纏っているのは、煽情的に見える身体にピッタリと沿った黒のドレス。大きく空いた胸元の上、彼女の首の下には、金貨程の紅い宝石が、とろりと鮮血の色を湛えて輝いている。
女は2人の前に来ると、足を止めた。ヴィクトールは無意識に間合いを測る。5歩、それだけあれば首を落とせるか?
「久しいな。やっとお前に相見えることが出来て嬉しいわ」
女の口から出たのは、女性にしてはやや低めの、しかし妖艶さを感じる艷やかな声だった。シャルロットを見つめ、嬉しそうに微笑んでいる。
ヴィクトールの背にヒヤリと冷たい汗が流れた。圧倒される魔力量だ。
シャルロットは、一瞬目を眇めると、表情を消した。
同時に彼女自身を覆っていた結界を解除する。すると、本来の彼女の魔力が、女に対抗するように現れた。女に全く引けをとらない豊富で、そして綺麗で澄みわたるような魔力。
そして、冷たい美貌から発せられた玲瓏な声が、女に問う。
「……お前は?」
女は蔑むように口角を上げると、馬鹿にしたように言った。
「転生を繰り返すうちに、記憶も薄れたか? ナディア?いやセイレーンと呼ぶべきか」
シャルロットの表情が訝しげに歪む。だが、やがて出た言葉は、女の正体だった。
「まさか。ハーメリア?」
「ふふふっ。長かったわ。ずいぶんとこの石の中で眠ることになったけど、やっと理想の器に巡り合ったの。力も充分貯められた。これでもう、お前に遅れを取ることもないわ」
女が首元に嵌まる石に指を当てて嗤う。
シャルロットは、らしくなく小さく舌を打ち、小声で鋭くヴィクトールに言った。
「ヴィクトール。逃げて。そして、この森一帯から一般人を退去させて」
「何?」
ヴィクトールが聞き返すが、シャルロットは答えずにヴィクトールを急かす。
「早く!!」
シャルロットの切羽詰まった様子に、ヴィクトールは一瞬苦しげに顔を歪めたが、行動は早かった。
「チッ!死ぬなよ!」
一言、それだけはシャルロットに告げ、短い詠唱で転移した。
「ふん。1人逃がしたか。なかなか良い魔力を持っていそうだったが。まあいい。お前の後にゆっくり奪えば良い」
ハーメリアがにたりと笑いながら口にした言葉に、シャルロットは、呆れたように返した。
「そうやって、また人間を喰ってきたのか?魔女め。まさかまた会うことになるとはな」
「前回のようにやられはしないわ。お前の魔力はキレイね?その姿も男を誘うのに、とても役立ちそうよ?」
「人喰い魔女が」
心の底からそう言って、シャルロットは、南側後方、森を囲うようにそびえる東と西の山端を結び、街の北側2,000デール辺りを頂点とした、二等辺三角形の屋根ように結界を展開する。
長くは持たないだろうが、これで一般人の撤退までの時間は稼げるはず。
ヴィクトール……今ここにはいないけれど、心の中で名前を呼べば、それはシャルロットの力になった。
シャルロットは不敵に笑って宣言する。
「さあ、では始めようか。400年ぶりに決着をつけよう。魔女よ」
1デール=1㍍
30,000デール=30km位です




