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The end of Reincarnation  作者: 桜野 華
第1章
17/45

第16話

旅から戻ったので更新再開します。

閲覧注意。

妊産婦や女性に対し、一部残酷・不快な表現が含まれます。無理な方は閲覧をお控えください。

 

 ダイアンサス皇国ザカリー自治州にある、元はザカリー公国南の砦であったこの地。

 今は捨て置かれ、表向き半ば廃墟となったこの砦には、地下の研究所が存在する。

 亡きダイアンサス皇国の前皇帝の密命で、当時皇国の魔獣の研究者として第一人者であったジェイラード博士と、前皇帝の側近で筆頭魔法師であったエドガルドと共同で研究を進めていたのだ。


 先程、周辺を警戒させていた梟型魔獣のキメラから、ザイディーン国側から近づく者達がいると発見の知らせが入り、実戦訓練を兼ねて1部隊20体ほど出した。

 情報では、男女四人で馬に乗って近づいてきており、魔力はそれほど高くは無さそうだとのことだったが、筆頭魔法師であったエドガルドの感知にかからないとなると、おそらく下級魔法師程度の者が、行方不明者の捜索に駆り出されたのだろう。部隊を出して此方の存在を知られるのは厄介だし、何かあると疑われるのは面倒だが、貴重な女が手に入りそうなのはありがたかった。男と馬は、部隊の一部のキメラにとって良い餌になってくれるだろう。おそらく骨も残らない。深夜でもあるし、キレイに始末してしまえば、問題ないと判断した。それに、そろそろ準備も整いつつある。


「女達の様子はどうだ?」


 エドガルドは、ジェイラード博士の部屋を訪ねると、その後ろ姿に声をかけた。しばらくぶりに姿を見るが、この男はいつ寝ているのかと思う程、研究にのめり込んでいる。上級魔法師並の魔力を持っていて、幻術を得意としていた。


「幻術と催眠が程よく効いていますよ。素直なものです。思考力を落して、自主的にやっていることは、生命活動に必要なことだけですね」


 博士はエドガルドを振り返ることもなく、とつとつと答える。いつものことなので、エドガルドも気にしない。

 気になるのは、戦力の確保だ。


「種付けと胎児の成長促進は、順調か?」


「女達の生理周期に左右されますが、魔獣の仔なのでね。3ヶ月ほどで出産できます。人の子よりは大分小さいですし、負担は少ないですから、出産後数ヶ月で次の仔を孕めますよ。

 排卵も誘発しているので、受精率も良いですし、双胎は普通で、多胎の妊娠も時々ありますね。

 魔獣の種に例の『混じりの禁術』を施して女の肚に転移させているので、効率がいいですね」


 博士のもとでキメラ生産に携わる魔法師は、それぞれの得意分野があるため、分業で作業を行っている。エドガルドも種の転移の際には、他に可能な者がいないため、作業に駆り出されているのだった。


「仔の方はどうだ?今年産まれた個体の成長具合はどのくらい進んでいる?」


「成長具合は、こちらも『活性化と促進の禁術』の影響で普通の魔獣と同程度の速度で成長しますよ。1年あれば人間の子供の10歳程度の体格ですかね。知能の発達もまずまずです。2年目の個体はかなり使えるようになっています。意思伝達も魔法も上手に使いますよ。時々実戦の訓練もさせているんでしょう?」


「ああ、だがあまり派手にも動かせなくてな……先程ちょっとした侵入者を狩りに20体ほど出した。女が手に入りそうなんでな。

 近々自治州相手に実戦に投入したいのだが、何体くらい出せる?おそらく軍が相手になる。」


「1/3は無理ですね。100弱ってところです。そろそろ戦力的にも使えると思いますよ?隠密行動も2年目以上の個体には問題ないでしょう。100弱の戦力で、奇襲をかければ、ここザカリー自治州程度の制圧も可能だと思いますよ。

 ただ術の影響で、寿命は5年から7年ですね。女達も3年も繰り返せば生殖機能も落ちてくる」


「そうだな、前皇帝が殺害されて2年弱。存命の頃から対ザイディーン戦の為に進められていた計画だが……まさか志半ばで自分の息子に寝首を搔かれることになるとはな。

 しかし、そろそろ実行に移すにはいい頃合いだろう。軍人達との連携も取れてきている。

 新皇帝もここに気がつくかもしれん。その前に何とか打って出たいところだが……」


 エドガルドは思案する。今この研究所に詰めている魔法師は23、皇国軍出身の戦闘職は50程、戦闘可能なキメラが約100。まずは、ここザカリー自治州を手に入れ、各地に隠れ住んだり、捕らえられている前皇帝派を集めて、小国として独立させたいところだ。


「こっちは思う存分研究と、禁術が扱えれば協力は惜しみませんよ。この設備と資金で好きな研究がこれだけ捗ってるんでね。新皇帝には邪魔はされたくないですねえ」


 エドガルドを横目で一瞥すると、ジェイラードは鬱蒼と笑いながら、研究レポートをまとめていた。





 翌朝宿の会議室には、略式ではあるが正装姿の4人が集まった。ザイディーン王国王太子とその婚約者、そしてセイレーン神国の国王と男性従者姿のリンである。

 一同をざっと見回し、ヴィクトールが言った。


「非常時の謁見としては、まあ、こんなものか?」


「ええ、問題ないでしょう。シャルロットは、魔力は抑えたままで?」


 シャウエンがそれに答え、シャルロットを振り返った。


「そうね。魔道具は外してきたから、結界だけで行くわ」


 シャルロットが頷く。


「あとは皇国の出方次第ということですね」


 リンがシャルロットに尋ねた。


「そうなるわね、リン。ところであなたはそれで良いの?」


「はい。今日はレンということで」


 シャルロットの言葉ににっこり笑ってリンが答えた。


「リンは結構な魔力持ちだからね。皇国は一夫多妻制だから、念のためだよ、シャルロット」


 シャウエンが言葉を足す。


「ま、お前は俺と婚約してるから、問題ないだろ」


 ヴィクトールの言葉にシャルロットは納得した。


「なるほど。リンほど魔力があると良い側室候補なわけね? では、私はヴィクトールと仲の良い婚約者ということで」


 そう言いながら、シャルロットはヴィクトールの腕に手を添えた。ヴィクトールも頷くとシャルロットの手をそっと取って自分の腕に回す。


「そうしてくれ。シャウエン先触れは送ったな? 

 じゃあ行くぞ。座標はここだ。一斉に飛ぶ」


 シャウエンが頷いたのを見て、4人は一斉に転移した。


 ダイアンサス皇国の皇城転移の間では、皇国宰相と皇国の騎士が10人ほど待ち構えていた。4人が現れると、宰相が進み礼を取る。


「ようこそ、ダイアンサス皇国へ。私は皇帝ゼルメル・ダイアンサスを兄に持ち、皇国の宰相を勤めていますルードヴィッヒ・ダイアンサスと申します。シャウエン国王陛下、ヴィクトール王太子殿下お待ちしておりました」


 20代前半の青年である。褐色の肌、銀に近いストレートの肩につくくらいの髪に薄紅色の瞳を持つ、柔和な雰囲気の男性だ。


「急な謁見申し込みにも関わらず、お時間を作っていただき感謝します、ルードヴィッヒ殿。早速ですが、皇帝陛下にお会いしたいのですが」


 この場で1番身分の高いシャウエンが、そう言いながら前に出た。


「はい。ご案内いたします。ですがその前に、ご一緒にいらっしゃったお二方をご紹介頂いてもよろしいでしょうか?」


 ルードヴィッヒがシャルロットとリンを見ながら、シャウエンに願い出る。


「もちろんです。こちらはヴィクトール殿下の婚約者で、シャルロット・ティナ・オル・ディアモンド侯爵令嬢。そしてこちらは彼女の従者でレンと申します。今回の謁見内容の情報提供者として、同行しました」


「かしこまりました。殿下のご婚約の噂は我が国にも届いています。この度はおめでとうございます。お会いできて光栄です、ディアモンド侯爵令嬢。

 では、皆様こちらへどうぞ」


 シャウエンの紹介は形式的な確認事項のようなものだ。ルードヴィッヒは、ヴィクトールとシャルロットに祝辞を簡単に述べると、4人を促した。



 しばらく進むと、扉の前に立ったルードヴィッヒがノックをして来客を告げる。

 中の返事を待って、扉を開けた。


「この度の謁見会場は、こちらになります。どうぞ」


 中では、20代半ばの青年が立ち上がって一同を迎えた。

 ルードヴィッヒに肌や髪や瞳は良く似た色合いだが、纏う雰囲気がまるで違う。銀髪は短く刈り上げ、瞳も紅色が強い。背が高くガッシリとした体格の鋭い視線の持ち主だ。ダイアンサス皇国皇帝、ゼルメル・ダイアンサスである。


「ようこそ。神国国王陛下、並びに王国王太子殿下と婚約者殿。両国の王族とその婚約殿がお揃いで我が国にお越しとは……ルードヴィッヒ、お前以外を下がらせろ」


 ゼルメルは一同をサッと見回すと、挨拶もそこそこにルードヴィッヒに命じた。


「は?陛下?……かしこまりました。皆下がれ。」


 一瞬ルードヴィッヒが言い淀むが、すぐに表情を引き締めて騎士たちと側仕えの文官を下がらせる。


「さて、結界も張った。初めましてと言いたいところだが、ニ国の代表者がお忍びで来たところをみると、急を要する案件らしいな? 礼儀云々は置いておいて、早速本題に入りたい。俺のことはゼルメルでいい。」


 ゼルメルが命じた通りに一同が退室すると、防音結界を張り、早速ゼルメルが4人に向かい合う。


「話が早くて助かる、ゼルメル殿。ヴィクトール・レイド・ルイ・ロイスダールだ。俺のこともヴィクトールと」


 それにヴィクトールが答えた。シャウエンも続ける。


「シャウエン・カイ・リーです。私のこともシャウエンで結構です」


「で、俺の婚約者のシャルロット・ティナ・オル・ディアモンド侯爵令嬢と従者のレンだ」


 ヴィクトールがシャルロットを紹介すると、ゼルメルは彼女をじっと見てニヤリと笑う。


「ほお……これはお美しい。で、令嬢? その結界は解いていただけないのかな?」


「失礼いたしました、ゼルメル皇帝陛下……これでよろしいでしょうか」


 ゼルメルの言葉に、シャルロットはヴィクトールの腕から手を外し、一歩前に出ると表情を変えずに自身を覆う結界を解く。


「!?……なるほどね」


 強大な魔力の気配が現れた。ヴィクトールも懐かしい感覚に密かに息を呑む。表情に出すことは無いが。セイレーン神国で、初めてシャルロットに出会った時以来だ。

 ゼルメルも一瞬目を見張ると、そう小さく呟き、シャルロットの前に進み片膝をついた。

 顔を上げシャルロットを見つめると、先程の表情とは一転、恭しく微笑んだ。


「お会いできて光栄です、聖女殿。婚約されたとは驚きましたが、シャウエン殿が共にいるのは納得しました。このゼルメル、聖女殿の為ならば協力は惜しみません」


 その言葉にルードヴィッヒも息を呑んで、胸に手を当て頭を下げた。

 ヴィクトールは、表情を動かすことなく心中で考えを巡らす。


(聖女?あの神話に描かれている?どういうことだ?シャルロットがその聖女ということか?伝説上の人物ではなく、実在していたのか……だが、皇帝の協力はありがたい。詳細と事情は後で問い詰めるか。全くシャウエンとリンもだな)


 聖女と言われ、ヴィクトールの頭の中に神話が浮かんだ。知識としては、確かに知っていた。昨晩もシャウエンに聞かれたが、シャルロットがその聖女だと言われれば、いろいろなことが腑に落ちて、そうか……と納得もする。だが、興味がなかったため詳細までは把握していなかった。


 一方シャルロットも、表情を変えることなく、周知の事実であるように振る舞っている。ヴィクトールをチラリとも見ない。

 そして、優美に微笑んで言葉を続けた。


「私のことは、シャルロットで結構ですわ、陛下。ヴィクトールとは縁がありまして婚約しましたの……ところで今日こちらに伺ったのは、皇国内ザカリー自治州とザイディーン王国の国境付近で起こっている件についてのご相談ですわ。ヴィクトール?お願いしても?」


 そうして何事も無かったようにヴィクトールに話を振ってくる。ヴィクトールは、一つため息をつくと、ゼルメル相手にもう一度事の顛末を話すことになり、更に昨晩の調査の結果も合わせて、情報を共有したのだった。


「なるほど。ルードヴィッヒ、この件についてザカリーのアイザックからは何か言ってきているのか?」


 話を一通り聞いたゼルメルが、ルードヴィッヒを振り返る。

 ルードヴィッヒは、それに心当たりがあったため、スラスラと状況を報告した。


「前皇帝時代から若い夫婦や女性が行方不明になる事件が続いたため、自領で調査を行ってきたが一向に行方が知れず、数ヶ月前に中級以上の魔術師派遣の依頼がありました。しかし、何分人手不足のため半年程度はかかる見込と返事しましたが……まさかこんなことに……」


「アイザックの言うことに矛盾はないわね。女性たちのことを考えると一刻も早く解決したいところなの。それに、昨晩ちょっかいをかけたから、あまり時間を置かず一気に叩きたい。ただ、組織の規模もかなり大きくて、戦力的にこの人数では少々心許ないわ」


 それを聞いたシャルロットが、付け加える。


「では、俺が出るとして……他に転移が使えて、このメンバーで邪魔をせず戦えるものとなると、今出られるのは後2人ほどか……ルードヴィッヒ調整を頼む」


 ゼルメルがシャルロットの要求に、一同を眺めながら即座に判断を下していく。


「は。軍司令と筆頭魔法師殿に早速伝達魔法を飛ばします。あと、作戦用にアイザック殿にザカリー自治州の城での部屋の提供と、組織の捕縛用に州兵を待機させるよう依頼もしますが、情報漏洩をさけるため、皇帝視察警護の名目で通達します」


 そしてルードヴィッヒは皇帝の意向を汲み、具体的な内容をシャルロット達に説明しながら、ゼルメルに確認した。


「それでいい」


 そのやり取りにゼルメルとルードヴィッヒの有能さがうかがえる。

 シャウエンは、これなら問題ないだろうと、こちらの要求を願い出る。


「我々の国からも戦闘員を動員したいのですが、許可をいただきたい」


「聖女殿の従者もかなりの使い手のようだ。もちろん許可しよう。で、作戦の指揮は誰が取る?」


 各国の王族や高位の能力者が集まっての、戦闘行為を伴う作戦だ。ゼルメルはシャルロットを見ながら、試すようにニヤリと笑った。

 その視線に臆することなく、当然のようにシャルロットは答えた。


「私が取ります。おそらく、各国の戦闘員のチーム間の情報伝達と動きの把握、連携が必要でしょうから。詳細は、今晩10時にザカリー城で作戦参加者全員集合しての会議で。会議が終了したらそのまま出ます。

 それまでに作戦参加者にこれまでの情報共有と、戦闘の準備を整えてきてください。ルードヴィッヒ殿、後ほど集合場所となる転移座標をお知らせください」


「かしこまりました、聖女殿」


 淀みなくシャルロットが指示していく。

 シャウエン達が当然のように聞いているのを見て、ヴィクトールは、シャルロットがこれまでに何度となく戦闘や有力者との交渉の経験があることを知る。


(なるほどな。あたり前のように一人で解決しようと飛び出していこうとしたわけだ……神話では、聖女は何度も生まれかわるだったか?)


 以前一通りは目を通したはずの神話だが、やはり詳細は思い出せない。

 それでも、なんとなくシャルロットが見た目通りの16歳の少女ではないことは、良くわかった。そして、それがヴィクトールの興味と関心を更に惹きつける。

 彼女自身をもっと知りたい。そして、寄り添いたい。そんな想いがヴィクトールの心の奥から湧いてくる。


「レン、昨晩の戦闘についての記録はあるかしら?」


「こちらに」


 シャルロットの言葉に、リンが数枚の用紙を差し出す。それをそのままゼルメルに手渡すと、シャルロットが続けた。


「陛下。先程も触れましたが、キメラとの戦闘については、記録を差し上げますので同行の方とも共有しておいてください。あと、首謀者の心当たりがありましたら、そちらの情報もいただけると」


「わかった。夜までに用意しておく」


 ゼルメルが鷹揚に頷くと、ヴィクトールが会談の終了を告げる


「では、一旦我々は引き上げる。今晩また会おう」


「ああ。我が国のことで世話になる。よろしく頼む」


 ゼルメルとルードヴィッヒが軽く頭を下げると、一同も礼をして退室した。


 その後4人は宿に戻ってくる。

 リンがホッと息をついて、肩の力を抜いた。


「シャルロット様のお陰で、スムーズに協力が得られてよかったですね。」


「そうだね。私達は早速帰って準備してくる。それぞれもう1人ずつ連れて、今晩10時にザカリー城で」


 シャウエンがリンに同意すると、荷物をまとめて早速神国へ戻ると言う。


「ああ。休息も取れそうだしな。では、今夜」


 ヴィクトールも同意して、シャウエン達を見送ると、宿の者に声をかけ、ザイディーン王国の城の外れにある転移の間へと、シャルロットと共に転移したのだった。



 王国に戻った2人は、城内のシャルロットが滞在する客室に向かって歩いていた。客室の前まで来ると、ヴィクトールがシャルロットの頭に手を伸ばし、軽くポンポンと叩きながら目を合わせる。


「シャルロット。この件が片付いたら、シャウエンも含めお前とはとことん話し合いが必要そうだな? ま、今は勘弁してやるから、とりあえずゆっくり休め。午後9時にラルフと部屋に迎えに行く」


 シャルロットは困ったように眉を下げると、寂しげに答えた。


「ありがとう、ヴィクトール。うん、ちゃんと話しましょう」


「なんでそんな顔してる?別に説教するわけじゃないぞ?これからも共にあるために必要な話し合いだろ?」


 共にあるため……とシャルロットは目を伏せ小さく呟いたが、顔上げると無理やり笑顔を作ってヴィクトールに答えた。


「そうね。そうなるといいと思うわ」


 そんなシャルロットにヴィクトールは一つため息をつくと、片手を腰に回し、そっと抱き寄せる。

 シャルロットは、腕の中からヴィクトールを見上げた。


「……ヴィクトール?」


「難しいことは考えず今は休め。大丈夫だから」


 そう言って、ヴィクトールはそっとシャルロットのつむじに唇を落とした。

 シャルロットの肩から力が抜ける。


「ん。じゃあまた。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 まだ日は高いが、そんな言葉を残し、シャルロットは部屋に入って行った。


 ヴィクトールはその後執務室に向かい、側近たちを集め、シャルロットが聖女であることは伏せ、皇国で起こっていることと皇帝との話し合いについて、一通り報告した。


「さて、こっちの報告は以上だ。同伴する戦力としては、父上か軍総帥辺りが適任だが、この件に噛んでない上、危険もある。ここは、ラルフお前に頼みたい。行ってくれるか?」


「もちろん喜んで同行します。」


 ランドルフは、姿勢を正しヴィクトールに言った。


「ありがとう。では、午後9時にシャルロットと打ち合わせだ。それまで充分に休んで準備してくれ。俺も一休みする。かなりの魔力の消費を覚悟しておけ」


 ヴィクトールは早々にランドルフを退室させる。

 ヴィクトールも、執務の状態をざっと把握すると、問題無さそうなのを確認し、退室しようと扉に手をかけた。

 するとニールセンが、躊躇いがちに声をかけた。


「殿下。私の同行は許可いただけませんか?」


 ニールセンにしてみれば、ヴィクトールの側近としての役目を果たしたい他に、各国の最高峰の魔法師が集まっての戦闘に興味があるのだろう。

 たしかにニールセンは、魔法師としては不足はない。が、戦闘力は今回のメンバーの中ではやや劣る。危険度が高いこの作戦で、シャルロットは全員無傷での勝利を望んでいる。実際、治癒に回せるほどの魔力に余裕があるかもわからない。

 ヴィクトールは、首を振った。


「ニールすまないが、お前は、ここに残りヒューのサポートを頼む。ここに事情を知った上で、現場と父上を繋ぐ人間を残しておきたい」


「……かしこまりました。どうかお気をつけて。無事なお帰りを」


 ヴィクトールの言葉に、ニールセンはおそらく真意を知りながらも、無理に納得したのだろう。頭を下げて無事を祈る。


「ああ。シャルロットがいる。大丈夫だ」


「殿下。シャルロット嬢はもしや……いえ、この件が片付きましたら、また」


 ニールセンのことだ。シャルロットが聖女であることに辿り着いたのかもしれない。だが、今ではないと言葉を引いたのだろう。


「ああ。では頼んだ」


 そう言って、ヴィクトールは部屋を後にした。


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