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The end of Reincarnation  作者: 桜野 華
第1章
16/45

第15話

残酷な表現や、女性妊婦にとって不快な表現が一部含まれます。

無理な方は、閲覧をおやめください。


 そして、深夜。

 一行は宿から国境手前まで転移すると、そこに手配した馬に乗り、国境を超えた。

 月が明るく、視界は悪くない。

 気配を辿りながら小1時間程馬を進めていくと、木が生い茂る林にぶつかった。根や枝等の障害物があり、馬は置いて進んだ方が良さそうである。


 シャルロットがある程度の範囲から馬が逃げ出さないよう結界で覆い、そこに馬を放すと、4人は徒歩で林の中に入った。

 といっても、シャルロットだけは軽く地面から浮き上がって進んでいる。

 曰く、歩くより空中を移動したほうが疲れないらしい。

 シャウエンやリンは慣れているが、ヴィクトールはやや呆れてため息をついた。


「お前の体力が無さ過ぎなのに呆れるべきか、魔力が有り余っていることに驚くべきか、微妙なところだな」


 空中浮遊や移動は、魔法式も複雑だし、魔力もそれなりに使用する。こんな使い方をする魔法師など、ヴィクトールは見たこともない。


「無駄なくギリギリまで効率よく魔力を消費しているの。この足元の悪い道を歩くより、よっぽど楽よ?」


 そんな軽口を交わしながら進んでいたが、20分ほど経ったところでシャルロットが止まった。


「ちょっと待って。シャウエン?」


 そうして、後ろを歩いていたシャウエンを振り返った。


「シャルロット、やはり君も感じるかい?だが……」


 シャウエンが厳しい表情を浮かべ、進行方向に目を凝らす。

 その視線を追って、シャルロットも探索のための魔法式を展開した。


「ん……方向は、南西ね。あと、こちらに異動してくる群れ?も。

 どうやらこちらの存在を勘付かれたみたいだわ」


 ヴィクトールも潜めた声で同意した。


「そうだな。こっちに近づいてくる気配は感じるぞ」


 いち早く身体強化したリンが、月明かりを遮る林の中からにも関わらず、群れの方向と数をおおよそ正確に視認した。


「シャルロット様、10時の方向に、およそ20視認!距離は1000デール」


「ええ……魔獣?じゃない?ただ殺意は感じるわね。シャウエン、このまま気配を辿って。ヴィクトールとリンは迎撃準備。気をつけて!魔獣の群れにしては、こちらを認識して進行する動きの統率が取れすぎているわ。私は、ここでシャウエンのサポートに入る」


 それを聞いたシャルロットが、頷き、探索魔法からの情報を分析して指示を出す。

 ヴィクトールはその様子に舌を巻いた。自然な様子で指揮を取る彼女は、的確に素早い判断を下していく。どうやら戦闘経験はそれなりにあるようだ。

 大丈夫だ……と、素直に感じた。任せられる。


 ヴィクトールとリンは頷いて武器を構える。


「よし。じゃあ出るぞ」


 走り出そうとしたその時、二人の身体をそれぞれ、何かが薄く覆ったのを感じた。


「結界をかけたわ。物理攻撃と魔法攻撃からの耐性を強化した。でも、毒物には気をつけて。外に漏れる魔力量も抑えてある。

 リン、ヴィクトールの指示で動いて。そして、彼を守って。シャウエンのことは心配いらないわ。あと敵の側では偽名を使って!」


 詠唱なしで、薄く強力な結界が張られた。武器にはかからず、どうやら身体にピッタリと沿う感じでかかっている。戦闘には支障がなさそうだ。外に漏れる魔力も抑えられているから、余計なことに気を遣わず戦える。全力でやるわけにはいかないが。

 ヴィクトールがニヤリと嗤った。


「ほぉ、いいな。これ」


 リンは慣れた感覚に、シャルロットに礼を言った。


「ありがとうございます!お任せください!」


 そう言って、二人はこちらに近づいて来る群れに向かって、走り出した。

 身体強化し、かなりのスピードで木々の間を駆け抜けていく。群れを後方の二人に近づけないこと。そして、その正体を暴きながら数を減らし、敵の撤退時に本拠地を探れれば良い。可能ならこちらの全戦力は、相手に明かさずに。


 ……が数分後、群れと相対したヴィクトールとリンは、その異形に思わず目を瞠った。魔獣でも人でもない。だが、どちらの特徴も持ち合わせた異様な生き物。

 人の頭部をもち、胴体は四足の虎の魔獣のようであったり、頭部が狼の魔獣でありながら、人の手足を持つもの。羽と鋭い爪を持つ人や、上半身が人、下半身は蜘蛛というものまで。

 どの個体からも国の中〜下級魔法師並みの魔力は感じられ、何よりもその視線から知性が感じられる。


「なんだ?あれは」


 思わずそんな言葉が、ヴィクトールの口から溢れる。


「……キメラ?」


 リンが恐る恐る口にした。


 敵がそんな二人に、薄い嘲笑を向けた……ように見えた。

 蜘蛛人間が手を降ると、2体ずつ組になってそれぞれに向かってきたのだった。



「シャルロット」


 一方、ヴィクトール達の後方で、気配を辿る作業に集中していたシャウエンを守りながら、前方の戦闘にも気を配っていたシャルロットは、シャウエンの声に彼を振り返った。


「シャウエン?何かわかった?」


 シャウエンは、気配の元を辿るように目を眇めて一点を眺めていたが、やがて目を伏せて思案するように息をついた。


「気配の出どころはだいたい。だが、規模が予想外に大きい。リン達が応戦しているが、程々で引いた方がいい。そして、恐らくこれは禁術の類だ」


 やはり、とシャルロットも頷いた。前方の戦況は、芳しくない。全力でないとはいえ、あの実力者の二人が苦戦するなら、分が悪そうだ。


「わかった。取り敢えず二人と合流して、一旦引きましょう。スピードを上げて向かうわね?」


「ああ」


 そう言って、シャウエンと自身に先程と同じ結界を張ると、二人は身体強化して前方の戦場へ向かったのだった。



 ヴィクトールとリンは、次から次へと間断なく襲いかかってくる敵の猛攻を、なんとか無傷で防いでいるが、防戦を強いられ、完全に倒せたのはそれぞれ数体だけだった。ただ、自分たちの後方に敵を漏らさない程度には、善戦している。

 しかし、それぞれ規格外の戦闘力を誇る二人に、あまり余裕が無いのも事実であった。


「ちっ……再生が早すぎる!」


 手足や、身体の一部を傷つけたり切り落としたりしても、すぐに再生してくる生き物に思わず舌打ちしたヴィクトールだが、意外と冷静なリンが、また一体首を落とした。

 彼女は細身の両刃の剣を、双剣で使っている。


「首を落して胴体と切り離さないと、動きが止まりませんね。焼き払うのもこの林の中じゃ無理だし、残り14ですか」


 ある程度時間は稼いだが、これ以上は二人では厳しくなりそうだった。情報はおおよそ得られたはずと、ヴィクトールは判断する。


「割と強力な魔法師に魔獣の再生能力と機動力を合わせた感じだな?知性があって、統率が取れているから、こっちの数が少ない分不利だ!一旦引くぞ!」


 そう言って離脱を試みようと、隙を窺ったときだった。


「お待たせしました。幻術をかけて引きますよ」


 涼しげで穏やかな声が、耳に響いた。その声に、二人の緊張がふっと和らぐ。


「ティナ様!カイ様!」


 リンの声に優しく微笑むシャルロットがいた。凄惨な戦場に不似合いな清廉さだが、一通り見回すと視線を鋭くした。

 そして、指示を出す。


「二人共、そのまま私の後ろへ回ってください!カイ!」


 シャウエンに声をかけると同時に、周囲に霧が立ち込め、あっという間に敵からの視界を遮った。

 更に、何やら敵同士で攻撃しあっている様子が伺える。


「これは⁉」


 おそらく幻術と認識阻害等の複数の魔法式の同時行使して、敵の目を欺いているのだ。

 かなり高度な闇系統の魔法で、発動速度の速さからシャウエンの実力が伺い知れる。


「……では、このまま4人まとめて転移します」


 ヴィクトールの感嘆の声に、シャルロットは薄く笑うと、4人分の転移魔法を無詠唱で展開させ、拠点の宿へと飛んだのだった。









 宿に転移で到着し、3階の会議室に戻った途端、リンがほっと息をついて言った。


「良い拠点があって、助かりましたね」


 それにシャルロットが答える。


「馬は置いてきてしまいましたが……結界は外しておいたので、無事に逃げているといいのですが」


「あの状況だ。やむを得ずだろ。さて、状況確認といこうか?」


 ヴィクトールの声に、シャルロットが頷いて、再び地図を指さしていく。


「まずは、例の気配からね。出どころは、ザカリー自治州の元南の砦付近の地下あたり。地図だとこの辺かしら?」


「そうだね。そして、気配は禁術。規模も大きい。君たちが応戦した魔獣と人のキメラを、産み出しているんだろう」


 シャウエンも頷いて、意識して淡々と話す。


「産み出す?」


 ヴィクトールが、どういうことだ?とシャウエンに問う。


「そう、言葉通り、多数の女性の気配と、産み出されたキメラの気配がした。だが、本来の魔獣の気配は殆どない。おそらく、魔獣の種を女性の肚で孵している?」


 シャウエンが続けた台詞に、リンが息を呑んだ。


「そんな!」


 だが、それ以上は何も言わず、言葉を飲み込んだ。シャルロットはリンを心配そうに見たが、そのまま続けた。


「禁術は、掛け合わせと成長速度で使われた?」


 シャルロットの疑問に、シャウエンは頷く。


「おそらく。ただ見えたわけじゃない。あくまでも出てきた敵と気配を辿った結果から考えられる仮説だ」


「規模が大きいと言ったな?」


 ヴィクトールが尋ねた。


「キメラの数だけで、そうだね、150程度は感知した。他に魔法師もおよそ20程はいる。戦闘にはどれだけ使えるかはわからないが。おそらく守護している戦闘職もいると思う。

 君たちは実際戦って、どうだった?あのキメラを一人当たりどのくらい倒せそうだい?」


 シャウエンが、今度はヴィクトールに確認する。


「状況や周りの地形によるな。今日は能力的にも枷があったから何とも言えないが、全力でやれば一気に10体弱は行けるだろう。ただ、囚われている女性を救助しながら、詳細不明の敵地の建物内となると、状況はかなり不利になる」


 ヴィクトールの分析に、リンも続ける。声はもう冷静だった。


「そうですね。キメラの能力もバリエーションがあるかもしれませんし、再生能力が高いので、完全に殺すか消すかしないと」


「再生能力は、成長速度の早さにも関連している? 時間を進める魔法を組み込んでいる? どちらにしろ仕掛けるには、こちらの頭数が足りていないわね」


 シャルロットは、相手の戦力を分析しながら考える。ヴィクトールの実力は把握できたが、このメンバーだけでは、全員無傷でとはいかなそうである。かと言って、下手に人数を増やしても余計な犠牲者が出るだけだ。

 もう数人でいい。ヴィクトール並の実力者が欲しいところだ。

 そんなシャルロットの考えを読んだかのように、シャウエンが声をかけた。


「ダイアンサス皇国から借りようか? 明日、もう今日か……午前中に謁見許可が降りたよ」


 朗報だ。

 ダイアンサス皇国現皇帝であるゼルメル・ダイアンサスは、今年24になる若き皇帝だ。残虐で横暴だった前皇帝を兄弟と共に暗殺し、前皇帝が一方的に侵略した周辺国五国を今は自治州として、治めている。

 当時と言っても数年前までのことだが、ダイアンサスと国境を接するザイディーンの西端やそこから南北に広がる同盟国は、皇国との小競り合いのため、そこそこな戦力を投入していた。

 ゼルメルが皇帝になった経緯は若干物騒だったが、聞こえてくる評判は悪くはない。

 神国の継承式には、彼の参謀とされる弟が代理で出席し、本人を見たこともないが、おそらくこの問題を放置はしないだろう。

 ただ、シャルロットより外国のトップと面識があるシャウエンやヴィクトールの方が詳しいだろう。


「それが良いと思うけど、素直に出してくれるかしら?

 ねえ?新皇帝はこの件に関わっていると思う?」


「いや。おそらく関わってはいないな。だが、前皇帝はどうだったか……もしかしたら、これが負の遺産ってヤツかも知れん」


 ヴィクトールは、前皇帝の関与を示唆した。


「私も同じ意見だ。皇国がどこまで情報を持っているかは不明だが。シャルロット、ザカリー自治州の現当主はどうだい?」


 シャウエンも同意する。そして、アイザックと直接出会ったシャルロットに、彼の関与について尋ねた。


「彼に関しては、白とも黒とも……今の時点では判断がつかないわ」


 シャルロットは首を振る。シャウエンも同意し、ヴィクトールを見た。


「うちの部隊を動かすにせよ、皇国の許可はいるだろうし。どちらにしろ皇帝に会ってみて決めたほうが良さそうだね」


 シャウエンの視線に頷くと、ヴィクトールがまとめた。


「そうと決めたら、一旦休もう!午前10時に指定座標に飛ぶ。10分前には各々支度してここに集合だ」




 各自部屋に戻るために退室しようとしたところで、ヴィクトールはシャルロットを呼び止めた。


「シャルロット」


 シャルロットが振り返り、首を傾けた。


「どうしました?ヴィクトール」


「いや。さっきは結界助かった。礼を言う。で、お前は大丈夫か?」


 ヴィクトールは、シャルロットに歩み寄ると、彼女の頭に手を伸ばし、そっと撫でながら言った。


 戦闘中や話し合い中、彼女が動揺することは無かったが、現場も凄惨だったし、判明した内容も悍ましい。いくら大人びて見えても、シャルロットは若い女性だ。

 養成校で魔獣討伐訓練などの経験はあるだろうが、貴族女性なら、気を失う者もいるだろう。無理をしていないかと心配だった。


「ありがとうございます。ヴィクトールは、優しいですね。私これでも、結構いろいろ経験があるので、大丈夫ですよ?

 ……ただ、腹は立ってます。いろいろと手加減出来そうな気がしませんわ。女性達も一刻も早く開放して差し上げたいのですが……」


 シャルロットは、そんなヴィクトールに素直に感謝した。こうやって共に現場に来る者は、聖女である彼女を知るものばかりだったから、こんなふうに心配されるなんて、あまり無かった。

 こうやってヴィクトールが、シャルロットを普通の女性として扱ってくれることが嬉しくて、自然と微笑んでしまう。ただ、この事態そのものは、全く余談を許さない。時間を掛けている余裕も当然なかった。


 ヴィクトールが、そんなシャルロットにほっとしたように表情を緩め、彼女の瞳を覗き込んだ。


「今回、お前と来られて良かった」


「え?」


 ヴィクトールにまっすぐに見つめられて、そう言われたシャルロットは、目を瞬かせた。


「王宮で言葉を交わすだけより何倍も、今晩はお前のことを知れた気がする」


「上品なお嬢様じゃなくてごめんなさい?」


 そんな彼女の髪をクシャっとかき混ぜると、ヴィクトールは笑いながら言った。


「いいんじゃないか?背中を預けて共に戦える妻も悪くない」


「妻じゃないですけどね」


 無意識だろうか?その声に少し寂しさが混ざっている気がして、ヴィクトールは思わず口にしていた。


「じゃ、今のところは恋人?」


「は?」


 目を丸くして、ポカンと口をあけた彼女の顔が面白くて、ヴィクトールは声を上げて笑うと、彼女の額に軽く口づけを落して、ポンと軽く頭をたたく。

 そして、固まっている彼女の肩を抱き会議室を出ると、部屋の前まで送った。


「中にはリンがいるだろ?数時間だが、少し寝とけ?おやすみ」


 そう言って、手を振って廊下を隔てた向かい側の部屋に消えていった。


「う〜〜」

 しばらく顔を赤くして呆然としていたシャルロットだが、

(あんな風に人をからかって、そういえば、遊び人だったわ……)と、ハタと思い出し、なんだかどっと疲れて、部屋に入っていったのだった。







旅行に出るのでしばらく更新が止まります。

帰ってきたら再開します。

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