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The end of Reincarnation  作者: 桜野 華
第1章
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第14話

 

 そして、街の中心にある目抜き通りから僅かにそれた一角に建つ、落ち着いた雰囲気の宿に着くと、ヴィクトールは一同を促し中に入り、宿の受付係に手を上げて声をかけた。


「久しいな。今回は4人なんだが部屋はあるか?」


「お待ちしておりましたよ。3階へどうぞ」


 受付に立つ年配の男性が、愛想良く笑って、階段を差す。

 ヴィクトールも、助かる、とそのまま階段を上がっていく。残り3人もそれに続いた。


 3階へ上がる手前で、軽く結界を通り抜ける感覚があったが、皆黙ってそのまま階段を上りきり、ヴィクトールに続いて一室に入った。

 少し大き目な机と簡易な椅子が並べられ、会議も出来そうな部屋である。

 ヴィクトールに促され椅子に腰掛けながら、シャウエンは、部屋を見回し感心して声をかけた。


「ここは、ずいぶんと条件が良いね」


 ヴィクトールも腰掛けると、簡単に説明する。


「表向きは宿だが、実際は、軍情報部の活動拠点だ。徒歩で入ったのは周囲の目を気にしてだが……転移陣も何組かある。定期的に更新されるがな。職員は、退役者も含む全員軍関係の人間だ。一階は食堂、二階は一般の宿泊者の為の客室だ。三階が情報部の為の客室で、一般人が入れないよう結界も張ってある」


 転移陣とは、転移魔法を使用できない者が、目的の場所に移動したい場合に用いる、双方向性のゲートのようなものだ。

 予め魔力を込めて魔法式が描かれた布地を一組用意し、1つを出発地、もう一つを目的地に置く。すると、この一組の間は、少量の魔力で転移での行き来が可能である。

 ただし、片割れが敵の手に渡ると厄介なため、双方の陣は管理者が責任を持って管理し、定期的に更新しているのである。

 今この場にいる4人には、不要な話ではある。


「そんな場所に我々を招いても良かったのかい?」


 シャウエンは純粋に驚いて、尋ねる。中立国と言えど、他国の中枢にいる2人だ。


「我が婚約者殿の身内だからな。そのあたりは信用しているさ。早速だが、シャルロット、いいか?」


 ヴィクトールは軽く肩をすくめただけで、そう答えた。

 そして、シャルロットに持っていた周辺の地図を渡す。シャルロットはそれを自身の前に広げて置いた。


(シャルロットを全面的に信頼して、更に無駄なく効率的にってことか……自身の人を見る目にも自信があるってことだね……)


 つい先程ちゃんと出会ったと言っても良いヴィクトールを、シャウエンはそう評しながら、置かれた地図を見た。

 リンはシャルロットの隣を陣取り、真剣に地図を見つめている。


「ええ。この地図上に、誘拐事件や行方不明者の最後の目撃情報の場所に印をつけたわ。シャウエンに辿ってほしいのはこの辺りの気配。と言っても、今は人が多くて無理ね。深夜が良いかな?」


 印がついた部分を示したあと、シャルロットはある地点に指をおいて、シャウエンを見上げる。


「そうだね。ここはザカリー自治州の領土になるのかな?そこには転移できそうかい?」


「座標はあるわ。ただ、少し離れたところから徒歩か馬で行こうと思う」


 シャウエンの疑問に、シャルロットは頷いたものの、慎重に答える。リンが横からシャルロットに尋ねた。


「相手の警戒具合を探るということでしょうか?」


「ええ、魔力も抑え気味で。こちらの戦力は知られないほうがいいと思う」


「そういうことなら、馬を用意しよう。国境線手前まで転移。そこから自力移動だな。夜に走らせると無駄なものも釣れそうだが。初日は気配を辿ることに集中し、その後、相手の拠点にちょっかいを掛ける。出方次第で、こちらの動きも決めるか。シャウエン、皇国皇帝との面会はどうなっている?」


 3人のやり取りを聞いていたヴィクトールが、方針をまとめつつ、シャウエンに確認した。


「伝達魔法を送ったのは、数時間前だからね。明日の朝までには、返事が来るとは思うけど?」


「なら、どちらにしろ今晩は、気配を辿るところまでだ。深追いはしない。出立は0時。それまで仮眠と食事を取っておこう」


 そう言って解散を宣言すると、立ち上がり、男女2人ずつに別れて部屋へ案内した。



 ヴィクトールとシャウエンは部屋に入り、軽食が用意された小さなテーブルを囲み、向かい合せに腰掛ける。

 ヴィクトールがまず、口火を切った。


「さて、部屋に限りがあるのでね。同室ですまない」


「いや、かまわない。私に話もあるのだろう?」


 シャウエンもわかっていたように、ヴィクトールを促す。


「ああ、聞きたいことは山程あるが、今晩のこともある。食事中に済む話にするさ。

 まずは、この作戦に関することだな。シャルロットは、貴方が気配を辿ることに長けていると言っていた。具体的にどういう事だ?」


「そこからか……そうだね、シャルロットの見解はザカリー自治州を中心に禍々しい何かがある、ということだったね。私はおそらくそれの原因になっていることと、気配の濃い場所を具体的に探ることが出来る」


「それは、シャルロットが苦手としているのか?」


「いや。彼女が苦手というより、私の方が得意なんだ。君は、あの街で何か感じたかい?」


 これには、お手上げというようにヴィクトールが首を振った。


「正直、全くだな」


「だろう?どんなに魔力が多くて、上手に使いこなせても、感知力には得手不得手がある。私は属性の影響もあるが、呪術とか禁術的なモノを人より敏感に感じられるということだよ。

 ちなみにあの街からは、微かに嫌な感じのナニかを感知した。この宿では全くだけど。

 人通りが多くて他人の気配が多いと、辿りにくくなるんだけど、この宿には結界も張られているからね。それも影響している」


 シャウエンの話に、ヴィクトールはしばし考えるように目を伏せた。が、やがて顔をあげると、話を進めていく。


「属性の話も出たことだ、戦闘力についても共有しておきたい。俺は剣を媒介にした攻撃魔法を得意としている。魔力も父と並び恐らく我が国では3本の指には入るだろう。属性は一通り使いこなせるが、光、空間、火と水は相性がいい。逆に幻術占術の類である闇系統は苦手だな。魔法をあてにしない剣術は、そこそこ自信あるぞ」


 属性とは、魔法発動の際の現象に紐付けられるもので、もともとの魔力の性質によって分類されている。人の性格のようなもので、向いている属性の魔法は、少なめの魔力で短時間で発動することが可能だが、逆に向かないものには、多量な魔力を魔法式に流すことが必要になり、効果も減じてしまう。

 一般的には、相性の良い属性のみの魔法式やその理論を学ぶが、魔力が多く魔法師として仕事をする者は苦手属性についても学んでいることが多い。だが、苦手分野も使いこなせるほどとなると、ほとんどいないだろう。

 属性は発現する現象によって分類されている。複数の属性を得意とする者は、組み合わせて使っていたりもする。主なものは以下のような感じだ。


 光 : 治癒 治療 回復 浄化

 闇 : 占術 幻術 呪術

 火 : 火炎 焼却 熱上昇

 水 : 氷・水生成 冷却 洪水  

 風 : 竜巻 かまいたち 

 大地 : 地震 地形変動 地質改善

 空間 : 転移 収納 圧縮 結界


 一般人は……というか、国民の5割ほどは、魔力も日常生活に困らない程度の魔力量で、得意な属性も1つのことが多い。


 4割弱程度は、得意属性を2つ持ち魔力量も中程度。軍人や治安維持の仕事や医療職などが可能である。軍人や騎士や医療職を養成する学校の入学希望者には、このための適性検査が課せられている。ただ軍人養成学校入学者には、身体能力がずば抜けて高い者の入学が許可されるなど、一部例外も存在はしている。


 残りの1割強が、得意属性を2〜3つ以上持ち、魔力量も多めの者で、魔法師の養成校から魔法師となるものが多い。一部は魔法騎士となる者もいる。魔法師養成校は適性検査で、魔力量と属性の確認が厳密に行われている。

 もちろん、多めの魔力を持ち魔法師になれるものと言っても、魔力の多少には差がある。高魔力の者同志で婚姻を繰り返してきた、王族や高位貴族は、多大な魔力を有するが、それ以外となると魔法師としての戦力はそれほど大きくはない。ただ属性が多く魔力を効率的に使えるものは、魔力量の少なさを補うことが出来る。

 魔法師には上級から下級まで、おおよそ3つに分かれるが、属性の多さと魔力量から、現出する魔法現象の程度で、分類されているのである。

 そんな中でも、空間魔法の転移を自由に使いこなせるのは、1つの国でも20名程度と、上級魔法師や魔法騎士を名乗る者の中でも、そんなに多くは無かった。


 更に、属性に関する個人情報は、一般的にはあまり公にはしない。弱点を相手に予測させるからである。


「君の剣術の評判は、我が国にも響いてくるよ。あ、シャルロットからでは無いからね?

 属性は、そこそこの機密情報だと思うけど、信用されていると思って良いのかな?

 私はお察しの通り、闇、光、風と空間とは相性が良い。火は苦手だね。剣はそこそこに嗜んでいるけど、得物は槍が得意だよ」


 ヴィクトールからの情報開示に、シャウエンは穏やかに微笑むと、自分の情報も明らかにした。チームで動く以上、共有しておいたほうがいいだろう。おそらく、今後も共闘することがあるだろうしね、と。


「そうか。あのリンという女は?チームでの戦闘に差し支えない程度に開示してくれ」


「リンは、私の親戚筋にあたる者で、魔力量はかなり多いね。転移も問題なし。

 魔法なしの戦闘力も特に対人戦なら、私よりも上だと思う。」


「シャルロットは?」


 ここで、シャウエンは少々言い淀む。


「……本人に聞いてはいないようだね」


「……」


 ヴィクトールは答えない。シャウエンは息をつくと、ヴィクトールをじっと見つめ、言い聞かせるように話す。彼女が聖女であることを理解して欲しいと思いながら。


「魔力量は恐らく大陸一。魔法に至っては、どの程度まで使えるのか、私にもわからない。かなりの使い手だと思う。

 属性については、得手不得手を感じたことがないね。大地に関するものはあまり見たことはないが、これは戦闘であまり使われることが無いからだと思う。

 魔法なしの戦闘力は、護身術と対人戦はそこそこ。魔獣に対しては力負けするし効率悪いから役に立たないと思ってくれ、と言われている」


「わかった。礼を言う。残りは機会を改めてだな。少し休もう」


 が、あっさりとヴィクトールに返されて、シャウエンは内心首を傾げた。それだけの存在の魔法師を、ヴィクトールは特別視しないのか?

 確認したくて、シャウエンはヴィクトールに思わず声をかけた。


「私からも今1つだけ。君は、神話をどれだけ理解、いや、信じている?」


「神話?あの、大陸や全ての生物は神が創ったとかいうあれか?知識としてはもちろん知ってはいるが、俺はあいにく無神論者でな。

 教会の活動に一定の理解と許容はするが、今を生きる国民を食わせて、平和な日常生活を維持して守り、国を発展させていくことに、割と手一杯だ。

 大事なのは誰が創造したか?ではなく、人がどういう歴史を辿って、今に至ったか?という営みの問題だろ?」


 ああ……と、シャウエンは納得した。彼は、知ってはいても、神とか聖女とかの存在を、信じているわけではないのだ。


「なるほど。理解した。では、休もうか。この件が片付いたらぜひ君とゆっくり話すことがありそうだ」


 ヴィクトールのことをなんとなく理解したシャウエンは、シャルロットが聖女であることを明かしていない理由がわかった気がした。

 だが、今は取り敢えず休むことにしよう。

 機会を改め、時間をかけて話したほうが良い。


「偶然だな。俺も貴方とはサシでゆっくり話したい。さっさと片付けるために、少し眠ろう」


 ヴィクトールも、そんなシャウエンにシャルロットについて確認したいことがたくさんある。お互い話し合いの時間を作ることに必要性を感じたのなら、機会は近いうちにやってくるだろう。

 そう考えて、ベッドに横になったのだった。




 一方、こちらは女性の部屋である。

 リンは、早速シャルロットに詰め寄っていた。


「シャルロット様。あのザイディーンの王太子と婚約って本当なんですか?」


「そうね。でも、ほとんど契約みたいなものだし、そのうち私が聖女と呼ばれていることがわかれば、婚約も解消されると思うわよ。今のところお互いの利害関係が一致したというか」


 リンの勢いに押されつつ、シャルロットは現状を冷静に分析してみた。

 そうなのだ。ヴィクトールは、シャルロットが聖女であることを知らない。だから、短命であることも、占術の不確定さで、なんとか出来ると思っているのだ。そしてきっと、人生の伴侶になれると信じて、シャルロットを大事にしてくれているのだと思う。

 やがて、その関係も終わりが来ることを想像すると、少し寂しいけど。

 ヴィクトールが大切にしているこの国や民、そして彼を守る事ができるのなら、それも悪くないのだろう。

 そんなシャルロットの心中が理解できないリンは、期間限定の契約婚約の情報に一気に笑顔になった。


「そうなんですか?良かったです〜シャルロット様がもし結婚するなら、うちの陛下がオススメですよ!」


「ふふっ……リンったら。シャウエンには、私じゃなくてかわいいお嫁さんを見つけてあげないと」


「ええ〜っ!レンも私も里の皆も、奥方様にはシャルロット様がお似合いだと思ってるんですよ。今まで聖女様だって皆わかっているから、何も言えなかっただけで。こんなザイディーンの王太子殿下と婚約するなんてことになるなら、シャウエン様もさっさと……」


「リン。私は誰とも結婚する気は無いわよ。有り得ないこと言ってないで、さっさと休みましょ」


「ん~~わかりましたぁ。じゃあ、結婚するときは、うちの陛下を忘れないで下さいね?」


(なんていうか、それこそシャウエンと結婚とかはないんだけどな……)

 シャウエンは、自分が腹を痛めて産んだ我が子の子孫だ。そもそも結婚対象にはなり得ない。家族のような親愛の情はあるけれど。


 シャルロットは曖昧に微笑むと、リンを促して、自分もベッドに潜り込んだのだった。






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